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第11話 友情の高圧サイクロン洗浄

 アリアがそれを試みたのは、鎖が消えてから間もなくのこと。

 ろくに動かない手足をバタつかせ、必死に『それ』を目指した。


 剥ぎ取られたポーチからはみ出た、赤と金のプレゼント用のリボン。

 グレンから贈られた誕生日プレゼントの『冗談の方』。



 軍用閃光弾を。



 助けを待つだけでも、許しを請うだけでもない。

 何とか自力で脱出つつ、一矢報いてやろうという思いが、その時のアリアにはあったのだ。


 残念ながらその思惑は、撮影機の存在で一度頓挫することになった。

 が、リーザ、そして天井裏に控えるエルナのおかげで、再びチャンスが訪れた。

 アリアの目に、反抗の光が蘇る。

 そしてエルナもまた、そんなアリアの視線に気付いていた。


 リーザにたった1人の戦いを強いることに歯痒い思いを抱えながら、ひたすらに機を伺う2人。



 そしてとうとう、そのタイミングが訪れた。


 リーザが鎖の罠に足を取られるという、一見大ピンチな状態。

 だがリーザは勿論、アシュレイも足を止めたその状況は、2人が仕掛けるには最高の一瞬だった。



(お願い、エルナ……!)


(まっかせなさい!)



 リーザの背後に飛び降りたエルナは、ポーチではなくアリアを目指した。

 すると案の定、獲物を奪われんとアシュレイがエルナに鎖を伸ばす。

 精一杯悔しそうな目を向けてやると、アシュレイは満足げに微笑み、視線をリーザへ。



 この一瞬、アシュレイの意識から、アリアが外れた。



(ありがとう、リーザ、エルナっ!)



 2人がくれたチャンスに、アリアが顔を上げる。


 アシュレイの責めでズタボロにされたのは精神だけだ。

 どこにも傷は負っていないし、体力だって少しは残っている。

 例えフィールドで弱体化させられていても、ポーチまでの1mもない距離を、駆け抜けることぐらいできるはずだ。


 まだジンジンと下腹を苛む快感に耐え、折れそうになる気持ちを必死で奮い立たせ、四肢に力を込める。


(動いて……お願い……っ!)


 まるで四足歩行の動物の様に、両手両足でポーチに飛びかかるアリア。

 未だリボンを解けずにいる軍用閃光弾を取り出し、リーザの背中で隠すように放り投げる。



「お願い! グレン君!」



 グレンの名前を出したのは、リーザに自分の意図を伝えるためだ。

 それは正しく伝わり、リーザは認識阻害に隠した目をギュッと瞑る。

 リーザ自身、ポーチからはみ出たリボンは見えており、隠し玉として意識していたのだ。


 アリア、リーザ、エルナの3人が、閃光弾とは逆側を向いて目を瞑る。

 アシュレイ1人だけがそれに視線を向ける中、室内が光に包まれた。



 結果――






「あああぁぁぁああぁあぁぁああぁあぁあぁぁああぁあぁぁっっっっっ!!!?!?!」





 失明レベルの光を直視し、アシュレイが両目を抑えて絶叫を上げた。



「見えないっ! 目がっ、焼けるっ!! が、ガキ共があああぁぁぁぁぁぁっっ!!」



 余裕の仮面をかなぐり捨て、怨嗟の声を上げるアシュレイ。

 リーザは決着をつけるべく、四肢に絡みつく鎖を切り裂き、アシュレイに飛びかかった。


 だが、アシュレイも好きにやられはしない。

 魔力感知だけで何となくリーザ達の場所を把握して、鎖に捉えたエルナに攻撃を集中する。



「小賢しいことを……!」


 リーザ本人を狙うより、他人を守らせる方が足を止められると判断したのだ。


 慌てて守りに入るリーザ。

 鎖を全て切り払う頃には、アシュレイの姿はこの場から消えていた。



 ……とは言え、視覚は奪った。


 精霊族は通常の知覚や魔力感知の他に、霊子力に対する知覚を持っているが、人里に馴染む闇精霊は、視覚聴覚に頼って、霊子知覚に慣れていないものも多い。

 追いかければ、捕縛できる可能性は十分にある。


「逃しま……っ……くっ……」


 だが、追いかけようとしたリーザは、直後に膝を折る。


「リーザっ!」


「……大丈夫ですわ」


 ダメージだけではない。

 初めての、命の危機まで視野に入れた実戦が、彼女の心身を大きく消耗させていたのだ。

 追撃を諦め、大きくため息を吐くリーザ。



「んぎぎぎぎぎぎぎ……おわっ!?」



 鎖と格闘していたエルナは、突如その鎖が消えて、宙に投げ出された。

 紅扉宮の時は、術者が去った後も延々アリアを捉え続けた黒鎖だが、今回は余裕のない状況で繰り出したせいか、あっさりしたものだ。


「リーザ……エルナ……」


「アリアっ!」

「大丈夫ですの?」


 アリアは、閃光弾を投げた体勢のまま、床に伏していた。

 立ち上がろうしているのだろうか。

 手足をプルプルと震わせているが、残念ながら体は僅かにも持ち上がらない。



「ふっ、くっ……はぁ、はぁ……あははっ……だめみたい……。2人は……怪我してない……?」



 ポーチへのダイブと閃光弾の投擲で、最後の気力を使い果たしてしまった。

 更に、アシュレイがいなくなったことで気が抜けて、アリアの体には殆ど力が入らなかった。

 それでも人の心配をするアリアに、エルナもリーザも苦笑いだ。



「全然、全く。今は自分の心配しなよ……ってことで、脱いで」

「えっ!?」


「さっさとなさい。サイクロンウェーブ!」

「ちょっと!?」



 アリアのレオタードを脱がし始めるエルナ。

 手の平の上で、結構な量の水をギュインギュイン回すリーザ。

 有無を言わさぬ友人達に、アリアがプチパニックに陥る。



「いやー、あのね。アリアはさ、攫われたわけじゃん? 私は速攻でこっち来たけど……ロッタはグレンを連れてくる手筈になってんだよね~」

「はっ!?」



 そう、アリアは黒い鎖に攫われたのだ。

 『黒鎖』のアシュレイの仕業と見るのが妥当だろう。

 リーザの変身は想定外の要素。フィールド内で戦闘可能なグレンを、呼ばない筈がない。


「てわけで、脱いで脱いで~」

「あっ、ちょっ、んんっ! エルナっ、待って、今、触っちゃ、ん゛ぁっ!?」


 ここからは時間との勝負なのだ。

 エルナはアリアを仰向けに寝かせ、するするとレオタードとソックスを脱がしていく。


 エルナの指がそこかしこに当たり、感覚がぶり返すのだろう。

 声が漏れ、アリアの体がビクンビクン震えるが、エルナはそれを一切無視。

 1分も経たないうちに、アリアは生まれたままの姿で床に横たわった。



「次は私ですわね」



 全裸に剥かれたアリアの前に、リーザが歩み出る。

 手の平の渦は、先ほどよりも大きく、速くなっている様に見えた。

 アリアの体ぐらい、すっぽりと包み込める筈だ。


 各国が導入を検討している新型魔導具『洗濯機』の中身は、おそらくこんな感じなのだろう。


「まっへ……りぃざ……んっ! そ、それ……んんっ……こうげき、まじゅつ……っ」


「腹を括りなさい。その姿、グランツマン様にお見せしたくはないでしょう?」


「それは……そうらけろ……っ」


 アリアとて、こんな姿をグレンに見られたくはない。

 単純に恥ずかしいということもあるが、それ以上に何かこう、後ろめたい気持ちが湧いてくるのだ。


 できれば、何事もなかったかのように、笑顔で出迎えたい。



 ――だからと言って、その威力はちょっとどうかと思う。



「くらいなさいっ!」

「リーぶぉあっ! あぶっ! おぼっ!? がぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっっ!!」



 数分後、浜に打ち上げられた魚のようになったアリアが、床に横たわっていた。




 ◆◆




「アリアっ!? えっ、これ、誰にやられた!?」


「黒鎖のアシュレイですわ」

「黒鎖のアシュレイだね」


「ホントにっ!? なんか、水死体みたいになってっけど!?」


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