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第9話 アシュレイの拘りが迸る話

「あ゛ぁっ」



 四肢を絡めとる鎖が消え、支えを失ったアリアが、力無く石畳に這いつくばる。

 全身は汗、涙、涎、その他諸々の液体でべっとりだ。



 凡そ30分。


 たったそれだけの時間、アシュレイに好き放題弄ばれただけで、アリアは精魂尽き果てた骸同然になってしまった。



「楽しんでくれたかしら?」

「ん゛ん゛っ!」



 未だ余韻が残る体は、アシュレイのちょっとした一言にすら反応してしまう。

 声だけで全身を撫でられているようで、アリアは下半身を中心にビクンッ、ビクンッと大きく震えた。


 この様子では、暫くは立つこともできないだろう。

 仮に立ち上がったとしても、アシュレイが甘い声を発しただけで、膝から崩れ落ちてしまうに違いない。

 それがわかっているからこそ、アシュレイはアリアの拘束を解いたのだ。


 這いつくばるアリアを上から見下ろし、征服欲を満たしていくアシュレイ。

 その視線に気付いたのか、不意にアリアが顔を上げた。

 その顔は汗と涙と涎でぐちゃぐちゃだが、目の光は消えていなかった。


 アシュレイは短時間ではあるが、そこそこ本気でアリアを責め抜いた。

 許容量を超えた快感に気絶するまで絶頂して、気絶したら無理やり起こされて、また気絶するまで絶頂を繰り返す、終わることのない性感の拷問。

 あれだけやれば、生娘どころか快楽に慣れた娼婦ですら、心身共に壊れてしまってもおかしくはない。

 物言わぬ人形のようになるか、快楽を求めてアシュレイの言いなりになるか……。


 だがアリアの目からは、そういった精神への異常は全く感じられない。

 それどころか、快感が引くに連れて反抗的な色を取り戻し、再びアシュレイを睨みつけてすらいる。



(いい……! 貴女、本当にいいわ! あぁっ、早く貴女を、私だけの物にしたいっ!)



 アリアのメンタルは、決して強くない。

 いつも表面上では強がっているが、一度揺らげば、後はあっさりと崩れていく。


 ガラスでコーティングされた豆腐をイメージしてもらえるといいだろう。


 が、本当に最後の一線まで行くと、今度はその崩壊がピタリと止まるのだ。

 どんなに泣き叫んで、弱々しく他人の助けを願い、情けなく敵の許しを請うても、最後の最後、自分を失うことはない。

 そのギリギリの所での強さというか『強情さ』が、完全にアシュレイのツボにハマった。


 アシュレイは、オモチャに屈服を求めていない。

 欲しいものは飛び切りの『羞恥』と『屈辱』。

 それは、折れた心からは決して出てこないものだ。

 だからアシュレイは、オモチャにはいつまでも反抗心を残し、抵抗し続けてほしいと思っている。


 服を脱がし切らないのもそのため。

 衣服を身に纏うことで、『自分は人間だ』という矜持をできる限り長続きさせるためだ。


 そんなアシュレイにとって、頑なに完全な屈服を示さないアリアは、最高の逸材だった。



「ふぅっ! ぐっ、うぅっ、ぐぅっ、んんっ! はぁっ、はぁっ!」



 逃げようとしているのだろうか、アリアが懸命に手足を動かす。

 が、まともに力が入らぬ手足は、自分の身一つ、まともに動かすことができなかった。

 ジタバタともがくしかできないアリアに、アシュレイが笑みを深める。


「そんなに必死に逃げなくても、お家には帰してあげるわよ?」


「……くっ……ぐぅっ! ふぅっ、ふぅっ……うぅぅっ!」


 『家に帰す』という甘言に、一瞬動きを止めるアリア。

 だが、すぐに不穏な気配を感じ、再び手足に力を入れる。


 アシュレイからの執着は、アリア自身痛いほどに感じている。

 無条件での解放など、絶対にあり得ない。


「信用がないのね……帰してあげるのは本当よ? だって……もう監禁なんてする必要ないんだもの」


「っ! ど、どうゆうこと……!?」


 不穏な台詞に、不安げな表情を浮かべるアリア。

 対するアシュレイは、これ見よがしに視線を部屋の隅に向ける。



「この部屋ね、色んなところに撮影機が仕掛けてあるの」

「なっ!?」



 撮影機――通信機の技術を応用した、映像を専用の記録媒体に保存する魔導具だ。

 まだ一般には出回っていない技術だが、怪人を作るような組織なら、保持していても不思議では無い。


 慌てて辺りを見回すアリアだが、すぐに顔を晒すだけだと気付き、顔を伏せる。


「あはははっ! 今更隠しても無駄よ? さっきまで私と『仲良く』していたところも、全部撮ってあるんだから」


「あっ……あぁっ……!?」


 30分に渡りアシュレイに好き放題弄られ、乱れ尽くしたあの姿。

 それが映像として残されていた事実に気付き、アリアの顔が見る見る青ざめていく。


「ねぇ、あの映像……増やして売り捌いたら、いいお金になると思わない?」


「や、やめてっ、やめてぇぇっっ!! あんなの、誰かに見られたら……私……!」


 後半は極限状態で、アリア自身、自分がどうなっていたか、よく覚えていない。

 だが少なくとも、人には絶対に見せられない程の痴態を晒していたことだけは分かる。

 虚勢は一気に剥がれ、アリアはまたしても、くしゃくしゃの泣き顔をアシュレイに晒した。



「大丈夫、そんな酷いことはしないわ……貴女が、ちゃんと私の言うことを聞く、いい子だったらね」


 それはつまり、アリアがアシュレイのオモチャになるのを受け入れるということ。

 アシュレイが望めばいつでもその身を差し出し、何をされても受け入れる、ただ羞恥と快楽に悶えるだけの人以下の存在になる、ということだ。


 そうなれば、確かに鎖で繋いでおく必要はない。

 連絡手段さえ確保しておけば、アシュレイは好きな時にアリアを呼び出せる。

 だからこそ、『家に帰す』などとも本気で言うこともできたわけだ。


 そもそもアシュレイにとって、監禁はできるだけ避けたい手段だ。

 日常生活を奪われたオモチャは、少し虐めただけであっさりと正気を手放してしまう。

 正気は、アシュレイの望む感情を引き出すためには、絶対に必要なものだ。


 それに、自分に全身を弄ばれたオモチャが、昼間は学友に囲まれて過ごすというのも面白い。

 内心の悲哀と、疼く体を笑顔の仮面で隠し、必死に平静を装うアリアを想像するだけで、アシュレイは身悶え、顔面は勝手に嗜虐的な笑みを浮かべてしまう。



「ひっ……あ、あ……っ」



 アシュレイの表情に、小さく悲鳴をあげガタガタと震え出すアリア。

 その姿は、妄想で僅かに灯ったアシュレイの滾りを、大きく燃え上がらせる。


 先程までアシュレイは、今日のところはこれで終わりにしてやるつもりだった。

 あまり1日に詰め込み過ぎると壊れるのが早くなるし、少し間を置いた方が、反応が新鮮な頃に戻るからだ。


 だが……。



(んんっ、ダメっ! そんな顔するから、その気になっちゃった! 大丈夫、貴女は弱い子だけど、壊れることだけはない不思議な子よ!)



 アシュレイは、湧き上がる欲望のまま、『第二回戦』を始めることを決めた。

 ゆっくりと、わざと大きな足音を立ててアリアに近付く。



「い、嫌っ……来ないで……来ないで……っ」



 コツン、コツンと音が響く度、アリアの体がビクビクと震える。

 恐怖だけではない。アシュレイが近づく度に、下腹に感覚がぶり返してきているのだ。

 やがてアシュレイの足が、そっとアリアの眼前に降りた。



「お願いっ……もう、許して……っ」



 そんな態度は逆効果だと、アリア自身も先程までの責め苦で理解している。

 だがどうしても、口から弱気が溢れてしまうのだ。


 涙目で許しを請う獲物に、アシュレイはもう爆発寸前。舌をひと舐めして、情欲をたっぷりと込めた声で告げる。



「だぁぁめ」


「あぁぁぁぁ……っ!」



 とうとう泣き崩れ、現実から逃げる様に顔を伏せるアリア。

 アシュレイの手が、そんなアリアの頬に伸び――





 ――ギャリイイイイイィィィィィィィィィィンッッッ!!!




 突如、頭上から硬いものが擦れ合う様な、甲高い音が響く。

 2人が上に視線を向けると、石造りの天井が鋭利な刃物に切られたかように分断された。

 頭上から落ちてくる瓦礫を、後ろに飛んで躱すアシュレイ。


 そして瓦礫と共に、1つの人影が舞い降りる。

 土煙が舞う中、乱入者はアリアとアシュレイの間に着地した。




淑女(レディ)をこんなところに招待して、如何わしい行為に及ぶ……良い趣味とは言えませんわね」



 鍔の広い羽付き帽子から馬の耳を生やし、ウェーブのかかった金髪をたなびかせる女性。

 チラリと振り返った彼女の顔は、赤いアイマスクで隠されている。


 だが――



「随分と酷い有様ですが、純潔だけは間に合いまして? 『お嬢さん』」



 アリアには、その堂々とした後ろ姿に、1人の友の影が重なって見えた。


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