第5話 魔法少女ものに変身バンクは付き物だと思う
怪人が現れたのは、アリア達がいたところとは、また別の食堂だった。
既に学園の警備員が対処に当たっており、12人程で怪人を取り囲んでいる。
怪人は両腕と頭部が、黒くゴツゴツしており、滑りを感じさせる光沢を帯びている。
そして、その体を覆うのは、肩口まで破れた男子学生服だ。
(生徒の中に、怪人が……っ!?)
2階、3階の席には、生徒達による人だかりができており、彼等は一様に、1階の捕物をお祭り騒ぎで見下ろしている。
12対1という状況、そして階下の出来事であるのも手伝い、彼等から危機意識を取り去ってしまっているのだろう。
学生が怪人だったことへの、好奇心もある筈だ。
教師が避難を呼びかけても、誰もその場を動こうとしない。
「何をやっているの!? 早く避難を始めて!!」
「「「っ!?」」」
アリアの声量は、本気を出せば声楽部を凌ぐ。
ざわついていた生徒達が一斉に振り向き、その剣幕に押されて、不承不承避難を始めた。
アリアとて、警備員が何とかしてくれるなら、ここまで強く言うつもりはない。
が、おそらく彼等に怪人は抑えられない。
逃げる生徒達に紛れ、アリアは手近な空き教室に滑り込んだ。
入り口は、エルナとロッタが固めている。
「もうっ、学園でやることになるなんて……ホーリーライズっ!」
所有者からの音声による起動コマンドを受け取り、首のチョーカーから球状の光が広がる。
光は、アリアの衣服を粒子に変えて吹き飛ばし、一瞬、光の中に、生まれたままの姿のアリアが浮かび上がる。
粒子は寄り集まって、赤、青、黄、緑、白……色とりどりの帯になって、アリアの体に巻き付いた。
すると帯は次々と弾け、新たな装いとしてアリアの全身を彩る。
両手脚には白い長手袋とニーハイソックス。
どちらも口の部分に紺の二重線が引かれ、ソックスの足首部分には、小さな羽のアクセントが現れる。
首回りには紺のセーラーカラーと、赤いリボン。
そして、その凹凸の豊かな体は、手足と同じ色の、真っ白なノースリーブのレオタードが包み込む。
レオタードの下腹には、翼の付いた雫の紋章が浮かび、金色の淡い光を帯びる。
最後に――
「くあぁぁっ!」
ぴったりのサイズだったソックスとレオタードが、ほんの少しだけ縮まる。
それはアリアの体を強く締め付け、尻と太股に食い込んだ。
『聖涙天使シャイニーアリア』――変身完了。
「バイザー、オン!」
アリアの声に反応し、頭部に目元を隠すバイザーが装着される。
「さあ、行くわよ!」
エルナ達の合図に合わせ教室を飛び出し、アリアは怪人の暴れる食堂に急いだ。