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第6話 学園名物遺跡調査実習

 遺跡調査実習は、2クラス合同で4~5人ずつの班を組んで行われる。

 各班には、帝国の騎士かB級以上の傭兵が1人引率に付き、生徒達の安全を守ると共に、実習中の生徒達の行動を学園に報告する。


 今回の実習の舞台に選ばれたのは、ベンルカイトから飛空挺で30分の距離にある、『バニフリックの宝物庫』。

 先史文明時代、エクエス・レヴィエムと魔導武具開発のトップを競い合った、ミータ・バニフリックが物置代わりに使っていたとされる施設だ。


 トラップや警備人形は既に死んでいて、今は魔獣の巣窟と化しているこの遺跡は、魔獣との遭遇率が多少高い反面、細部まで調査がされており、不足の事態が起こり辛いとして、調査実習でも度々使用されていた。



「はぁっ!」



 飛びかかってきた狼型の魔獣を、鋭いハイキックで迎え撃つアリア。蹴り飛ばされた魔獣は、正確に頭部を打ち抜かれ即死した。


 実習用の訓練服は、黒いレオタード型のインナーの上に、赤のブレザーと黒いスカート、膝上までのロングブーツが基本構造だ。

 だが去年から、格闘戦を得意とする女子生徒に配慮し、スカートの代わりにショートパンツを選べるようになった。


 ショートパンツの丈はかなり短く、ブルマ程では無いが大きく足が露出する。

 足技中心のアリアはかなり悩んだものの、やはりスカートの頼りなさは如何ともし難く、ショートパンツを選択。

 なんだかんだ言って、動きは目に見えて良くなり、引率の傭兵はその蹴りの威力に顔を青くした。


 今のところ、アリア班の実習は順調だ。

 班員は毎回ランダムに選ばれるのだが、今回アリアの班には比較的真面目な生徒が集まっている。

 これで性欲旺盛な男子がいたりすると、彼らを気にしてアリアの動きも若干悪くなるのだが、今回はそうゆうこともない。


 シャイニーティアとの出会いとなった中等部1年時の初実習では、水分管理を誤った上に長時間の我慢を強いられ、屈辱的な思い出を残すことになった。

 アリアはそれを反省材料とし、今は1日がかりで体調と水分を調整するようになり、乙女の堤防も平穏そのものだ。

 余裕を持って、魔獣の襲撃にも対処できる。



 今回、アリアは班長を任されている。

 よって基本的には前に出ず、他の班員に指示を出しつつ、魔術で後方からの援護に留めている。

 先程の接近戦は、少し魔獣の数が多かったため、敢えて陣形に穴を作って自分を狙わせたのだ。


 魔獣は概ね知能が高く、司令塔になる人間を優先的に狙う傾向がある。

 狼の魔獣も中々の知能だったが、さすがに後ろから魔術を撃っているだけだったアリアが、まさか格闘の方が得意とは思わなっただろう。


 そこそこ優秀な指揮官の元、全員がきっちりと自分の役割を果たすアリア班は、実習開始から1時間、目立ったミスもなくこなしていた。


 担当の傭兵としては危機的状況への対応も見たいところだが、彼の記憶にあるバニフリックの宝物庫の魔獣で、彼らが苦戦するようなものは少ない。

 淡々と、危なげなく統率された優秀な生徒達に、プラス評価を付け続けた。



 ――そんな彼の小さな望みが、どこぞの神に届いてしまったのか。



 ここぞというときにトラブルの引きがいい我らがアリアちゃんは、このタイミングで大当たりを引いた。



「オニキスウルフ……っ!」


 アリア達の前に、体長6m程の大型の魔獣が現れたのだ。

 おそらく、先ほどまで幾度となく襲撃してきた、狼魔獣達のボスなのだろう。


 真っ黒な毛皮に紫の目の狼の名は、『オニキスウルフ』。

 1対1では引率のB級傭兵の手にも余る強力な魔獣だ。

 それが18匹の眷属を連れ、怒りを露わにアリア達を見下ろしていた。



「前に出ます。危ないと思ったら、加勢をお願いします」



 こういった状況で、プライドや功名心を優先し、頑なに大人の助けを拒む生徒は多い。

 そして、そんな彼らが自力で遺跡を脱出できたことは稀だ。

 安全を優先したアリアの冷静な声音に、引率の傭兵は頼もしさすら感じた。



「前衛に行くから、全体が見えづらくなるわ。危ないと思ったら声を上げて! あと長期戦になると思うから、火属性は控えてね!」



 火の魔術の火は酸素を燃やして生み出しているわけではないが、それでも触れた酸素は多少燃えてしまう。

 地下での長期戦では、念のため使用を避けるのが常識だ。

 更にアリアは幾つか基本的な指示を飛ばすと、腰の後ろに回した手の指を一本ずつ折っていく。



 5、4、3、2、1……。



「撃って!」



 石、水、風、合わせて13本の矢が魔獣の群れに襲いかかる。

 無言のカウントダウンに合わせた一斉射撃は、上手いこと魔獣の群れの虚をついた。


 3匹が頭部を撃ち抜かれ絶命。

 4匹が脚を1本ずつ失い、四足の魔獣の最大の武器である機動力を大きく損った。

 残りも多少の被害はあり、無傷なのはボスのオニキスウルフを含めて僅か4匹だ。


「足を奪った個体は一旦無視! 他のダメージの大きい奴から仕留めて! 後衛組は自分も含めて、みんなの死角に注意」


「うん!」

「わかった!」


 オニキスウルフの巨体に怯んでいた他の生徒も、奇襲の成功で硬さが取れた。

 足も良く動いており、後衛が魔術に集中できる位置取りを守っている。


 ついでに――



「ふんっ! ……ったく。加点にしといてやるよ、ガキども」



 アリアに魔獣を通したときの要領で陣形に穴を作り、引率の傭兵に何体か押し付けていた。

 引率は『いないものとして扱え』と言われている。

 そっちに逸らして倒させるのはグレーゾーンだが、今回の傭兵にはいい方に刺さったようだ。


 仲間達が群れを処理している間に、アリアはボスのオニキスウルフに挑んでいた。

 斜め上から振り下ろされる爪を潜り、前に出てきた顔面に飛び回し蹴りを見舞う。

 遺跡に響く重々しい音に、『抑える』などという生やさしい気配はない。


 間違いなく仕留めるつもりだ。


 自分1人では対処の難しい大型魔獣を冷徹に追い詰める少女に、引率の傭兵が再び顔を青くする。

 ハイレベルと聞いていた魔術は、オニキスウルフと戦い出してからは身体強化くらいしか使っていない。


 表面上には出していないが、傭兵は実は、アリアの脚を生唾を飲んで拝んでいた。

 だが今は、ロングブーツとショートパンツの間の肉感的な柔肌が、凶悪なハンマーの柄の部分にしか見えない。


 そんなハンマーにしこたま脳を揺さぶられたオニキスウルフは、やがて血の泡を吹いて倒れ伏した。

 群れの方も、たった今最後の一匹が氷の矢で眉間を撃ち抜かれたことろだ。


 傭兵としても、彼女達の働きは満点といったところ。

 アリアも、見事無傷でこの場を凌いだ班員達に、引き締めていた表情を緩める。






 ――油断がなかった、とはとても言えない。



「っ!?」



 が、これは最高の瞬間を見逃さなかった襲撃者を褒めるべきだろう。

 突如物陰から現れた黒い鎖が、身体強化を解いたばかりのアリアを絡めとる。


 鎖は傭兵も班員も、アリア自身も反応できぬ速さで、アリアを暗闇の奥へと引き摺り込んだ。





 ――ふふふっ……捕まえた。


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