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第3話 ゼフ先生のお悩み相談室・相談者猫獣人Aさんの場合

「ほんっっと、酷かったんですからっ! みんなで寄ってたかって私を酔わせてっ!」


「うんうん、楽しい誕生パーティだったみたいだね」


「話聞いてました……?」



 プリプリと怒りを露わにするAさん。

 きっと幕の向こうでは、可愛らしいほっぺをいっぱいに膨らませていることだろう。


 ごめんね、若い子のキラキラした身の上話に、おじさんワクワクが止まらないんだ。




 こんにちは、ゼフです。



 先日、神学の特別講座をしてたんだけど、みんな覚えてるかな?

 そうそう、教会の大司教の。


 ん? 多忙な筈の大司教様が、何をやっているのかって?


 いやね、この前授業の後に、色んな学生さんと話をさせてもらったんだけど……これがまた楽しくて楽しくて!

 あれからちょくちょく、こうして学園に忍び込んでは、ゲリラお悩み相談室を開いている、というわけさ。


 結構本格的にやってるんだよ?

 教会から、神父服とポータブル懺悔室をちょろまかして、なんちゃって告解形式!



 え? 仕事?

 勿論、ちゃんとやってるよ――お爺さん達との会食以外は。


 さあ、そんなシワシワな話は脇に置いておこう。


 本日の相談者は、2年生女子のAさん。

 相談内容はなんと……恋の話!


 以前に命を救ってくれたヒーロー君と、クラスメイトの男の子の間で、気持ちが揺れているんだって。


 青春だね! 情熱的だね!!


 聞いた感じだと、気持ちはかなりクラスの子の方に傾いてるみたいだけど、いざ思い出のヒーロー君が目の前に現れたら、気持ちが揺らいでしまうかもしれない。

 そんな不確かな気持ちで向き合うのは彼に申し訳ない、ってところかな。


 甘酸っぱいね!


 そんなAさんへの僕からのアドバイスは、『とりあえず、クラスメイトの男の子とキスしちゃおう』だ。

 言ったら、とっても可愛い反応を返してくれたよ。



 僕はね、恋愛って付き合い始めてからが本番だって思ってるんだ。ただ両思いってだけじゃ見えてこない、嫌な部分だって見えてくる。

 そうゆうのを確かめて乗り越えるには、結構時間がかかるんだよ?

 いつ会えるかわからないヒーロー君を待ってる時間は、勿体ないかなって。


 別れるなら一瞬だけどね!


 あと、恋愛はナマモノだからね。まごまごしてる間に、他の人に取られちゃうかもしれないよ?

 だから、Aさんは突撃あるのみだ!



 と、こんな感じでお悩み相談は終わって、今は雑談タイム。


 ……今日ね、お客さんが少ないんだ。

 ちょっと……いや、かなり見つかりにくいところに、懺悔室を構えちゃったからね。


 なんでそんなところにって?


 わかりやすいところにいたら、リグリットに見つかっちゃうじゃないか。

 絶対怒られる。いや、帰ってたら結局怒られるんだけど。


 まあ、そんな話はいいから、とにかく話し足りないんだ。

 で、寂しそうにしてたら、Aさんが雑談に付き合ってくれることになったんだ。


 いや~、いい子だね。


 今はパジャマパーティで、その気になる男の子とのあれそれを、全部お友達に吐かされちゃった話だ。

 いいなぁ、青春だなぁ。おじさんも一部始終を聞きたい!


「あ、そう言えば。そのグレン君のことなんだけど」


「ゼフ先生、匿名性は……?」


 形だけだよ。なんちゃって懺悔室だから。



「神学の授業では大暴れだったらしいね? ティホン司祭が真っ赤になって怒っていたよ」


「あー、それは……すみません」



 今日の話題は確か、『聖人』だったかな?

 聖導教会の、なんて言うか『とにかく凄い力を持った人達』、くらいに思っててくれればいいよ。

 こんなこと言うと、また『権威が』とか『威光が』とか、怒られちゃうんだけどね。


 教会には代々7人の聖人がいて、その能力で教会の権威を絶対のものとしている……って、ことになってるんだけど。



『聖人の発生はランダムで、1つに時代に全員揃うことは、歴史的にも1度か2度……それも、精々2年くらいだったとか。

 あと、教会の祀る『聖神』との関係も不明瞭で、イーヴリス大陸外に生まれた、なんて話もありますね。

 実際、教会に属さなかった聖人も多い。

 今いるのは確か、聖女『博愛』のイレーヌと、修道士『忍耐』のエルカサドの2人でしたっけ?

 『信仰』のグレゴリー教皇は死んじゃいましたし。

 そういや、大量殺人で指名手配くらった聖人もいましたね。確か――』

『き、さ、まぁぁぁぁっっ!!』



 だってさ。そんなに怒ることないのにね?


 まぁお怒りポイントとしては、『聖神と聖人が無関係』説と、猊下の死を軽く言っちゃったこと。

 あとは猊下と聖女様を呼び捨てにしちゃったところかな。


 指名手配の聖人君は、教会としては称号を剥奪していたね。そんなことしても、力は取り上げられないのに。


 にしても――


「グレン君、教会のことが嫌いみたいだけど、それにしては内情に詳しいよね」


「確かに……中に友達とか、いるのかもしれませんね」


 これは……アリアさん、何か知ってるな?

 まぁ、聖導教会はちょっと深く関わるとすぐ嫌な顔が見えるから、きっと彼も、何か迷惑を被ったんだろう。

 大司教の僕が言うのもなんだけど、碌なことしないよね?



「っと、あまり話してると、すぐ次の授業になってしまうね。今日はありがとう、楽しかったよ」


「いえ、こちらこそ、相談に乗っていただき、ありがとうございました。アドバイスは……その……活かせるか……じ、自信が……」


 真っ赤になって俯いちゃった。


 うんうん、青春だね! 素晴らしいね!!!




 ◆◆




「ふぅ……ビックリした」



 ゼフ先生と別れた私は、一先ず中庭に向かった。

 次の授業までに、熱くなった顔を冷まさなければいけない。


「そんな……グレン君と……キ、キ、キ、キ、キッ……キ……ッ!」


 いけない。考えたらまた顔が熱くなってきた。

 まだ気温もそれほど高くないのに、汗が止まらない。


「もう、ゼフ先生ったら……本当に聖職者なのかしら?」


 結婚前の女性に、嬉々として交際前の男性とのキスを進めるゼフ先生。

 その様子は、とても『大司教』などという肩書きを持つ人には見えなかった。


 それにしても……。




『グレン君、教会のことが嫌いみたいだけど――』



「……」



 ゼフ先生には、バレていたかもしれない。

 妙に内情に詳しい理由は知らないけれど、グレン君が何で教会を嫌っているかは知っている。


 グレン君は昔、妹さんを聖導教会に拉致されたことがあるらしい。

 お父さんのグランツマン少将閣下や周囲の人の助けで、何とか救出できたみたいなんだけど、グレン君は、まだ教会を許していない。

 当然だ。彼らは謝罪どころか、誘拐を認めることすらしないのだから。


 私の勘だと、グレン君は結構なシスコンお兄ちゃんだ。彼氏を連れてきたら、取り敢えず殴っちゃうタイプ。

 多分、一生教会を許すことはないだろう。


 私も、教会の人たちへのグレン君の態度に関しては、マナーとして注意はするけれど、問題になったら彼の側に立つと決めている。



「ふぅ……よし!」



 ようやく汗も引いてきた。これなら、人と会っても大丈夫だろう。

 私は、軽く表情を整えてから、廊下に戻った。



「お、アリア。一緒に戻るか?」

「ふにゅっ!?」



 1人目がグレン君になるのは、想定していない。

 結局授業開始まで、顔の熱は上がったままだった。


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