表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/127

第1話 Dear Shiny Lady.

「「「「「ハッピーバースデイ!」」」」」


「みんな……ありがとう!」



 今日は統一歴832年6月7日。

 記念すべき、アリア姫17回目の誕生日だ。


 学園入学後のアリアの誕生パーティは、毎年友人達だけでひっそりと行われてきた。

 最初はエルナと2人きりのデート形式だったものが、中等部からはロッタ、続いてリーザとアネットが加り、今年は新たにグレンが呼ばれている。


「面白いお店ね。上品だけど、どこかアウトローな感じもする……グレン君が見つけてくれたんでしょ?」


「まぁな。遥か南東の大海を越えた先、エルドラン海域の様式を取り入れてるらしい。海賊風レストランってやつだ」


 グレンは、初めは女子達の誕生パーティに混ざるつもりはなかったのだが――


『今さら、除け者になんて出来ないわよ! まぁ、嫌なら……来なくても……いい……けど……』


 などと徐々に涙目になられては、選択肢などある筈もない。

 だったらとことん参加してやろうと、店選びに悩むエルナに、お勧めの店を幾つか紹介してみたのだ。


 エルナも行動範囲は広いが、やはり中心は学生街。対してグレンは、1人の時は繁華街や歓楽街で食事をすることが多い。

 エルナは自身のリストにない店に大いに興味を示し、全員の好みを考えた上で、この『パイレーツ・テーブル』を選択したのだ。


「ありがとう。ちょっと冒険してるみたいで、ワクワクするわ!」


 アリアの声も弾んでいる。

 店自体を気に入ったのもあるが、やはりグレンが準備からガッツリ参加していたことが、嬉しいのだ。


 未だ最後の『ツン1割』を死守するアリアだが、少なくとも『この輪の中にいて欲しい』という仲間意識は認めていた。

 グレンが性癖暴走モードにならない限り、当たりもかなり柔らかくなっている。



 尚、グレンもいるこの場で、わざわざそれを茶化す者は1人もいない。

 それは、この後の楽しみだ。


 仲間は仲間として……グレンが気にした通り、異性がいるとしにくい話というものは、やはりある。

 この後、女子達は寮に帰ってパジャマパーティの予定なのだ。

 アリアが浮かれている間に、包囲網は出来上がっていた。



「んじゃ、お酒が回る前に、プレゼント渡そっか」


「去年はアリアさんと(わたくし)以外、ベロンベロンの酷い状態でしたものね」


「「「うっ」」」



 エルナ、ロッタ、アネットが胸を抑える。

 成人後、初めての誕生パーティーとなった去年は、エルナが先輩達にリサーチを重ね選出した『お酒が美味しいお店』で行われたのだが、

 本当に美味しく、飲みやすく、そして少々強い酒が売りの店で、酔いにくいアリアとペース配分に慣れたリーザ以外、3人が泥酔する中での惨憺たるプレゼントタイムになったのだ。


「気を取り直していこう」


「今年は、私とロッタは合同なんだ。ちっとばかし予算オーバーでね。はい、アリア!」


「おめでとう」


 因みに、プレゼントの予算は高くても大銀貨3枚まで、というルールがある。

 あまり高額なものは買えないアネットへの配慮でもあるが、上限を設けないと、主にリーザ、たまにアリアも目を剥くようなものを持ってくるのだ。



「これ……リストバンド?」



 エルナとロッタが持ってきたのは、シンプルな革製のリストバンドだ。

 中央にはハートに猫耳という、特徴的なカットの石が入っている。


「ふっふっふっ……ただのリストバンドじゃないよ?」


「それには、かの『錬金術師』ライル・アウリード発案の『魔力波形パターンによる人物特定理論』が使われていて――」

「ぶっ!?」

「どったの、グレン?」


「何でもない、続けてくれ」


「……? まぁ簡単に言うと、これを付けていれば、いつでも私かエルナが、アリアの居場所を把握できる、ということだね」

「「「!?」」」


 要は、発信機だ。

 さらっと超束縛彼氏のようなプレゼントを用意した2人に、アリアはもちろん、リーザとアネットもドン引き。


 確かに、最近も学園にアールヴァイスの襲撃があった。

 もしシャイニーアリアの正体がアリアだと知られたら、ピンポイントで彼女が襲われる可能性もある。

 防犯グッズは、あるに越したことはない。


 ……ないが、これはどうかと思う、と言うのがプレゼンターの2人以外の共通認識だ。


「あ、ありが、とう」


 アリアは、引き攣った笑みを浮かべながら、そのストーキングアイテムを受け取った。


(後で、オフにする方法調べよう)



「おほん……! で、では次は私が。少し大きいですが、こちらを進呈致しますわ」


「これは……チェス……?」



 リーザが渡したのは、黒縁に緑色の盤面のチェス盤の様なもの。

 ただ、駒の様なものは1つもない。


「『リバーシ』というらしいですわ。最近交易が盛んになった、アウローラの遊戯です。来週、早速勝負致しましょう!」


「リーザはブレないわね。いいわ、返り討ちにしてあげるっ!」


 常に勝負事に繋げてくるリーザに苦笑はしつつも、最後は笑顔で受けて立つアリア。

 尚、練習台として、既にアネットがボコボコにやられている。


「では、次は私ですね。こちらは……いわゆる『ハウツー本』というものです。袋から出すのは、お部屋にお戻りになってからが、宜しいかと」


「そうなの? じゃあ、今はチラッととだけ――っっ!!?」


 タイトルをチラ見した途端、真っ赤になって袋を閉じるアリア。

 そのまま、動揺しまくった顔をアネットに向けた。


「あ、あああ、あね、あ、あね、アネットっ!?」


「本年中に、必要になるかもしれないと思いまして」


「なななならならななっ、ならないわよっ!」


 尚、タイトルは『脚フェチ彼氏が泣いて喜ぶ夜の108テクニック』である。


(ほほう? これは……)

(パジャマパーティのネタが……)

(増えましたわねっ!)


 女子3人の目が、ギラリと光った。



「じゃあ、最後は俺か」


「ふぇ!? あ、は、はいっ!」


「どした、アリア?」


「う、ううん、何でもないわっ!」



 まだ、アネットが放り込んだ爆弾のダメージは回復していない。

 そんなところに問題の脚フェチ男から声をかけられれば、アリアの心も、先程とは違う感じでざわつくと言うものだ。


 今なら、何を贈られても喜んでしまいそうな、そんなフワッフワした気持ちでプレゼントを待つアリア。

 渡すなら絶好のタイミング。


 グレンは、満を持して『ソレ』を取り出した。





 ――ゴトッ。






 沈黙、沈黙、もういっちょ沈黙。

 グレンがテーブルに置いた謎の球体――無駄に可愛らしいリボンが巻かれている――に、少女達が一気に冷静になる。



「これは?」


「遥か北西の人域、ガイラストラード統一帝国で作られた軍用閃光弾だ」


「ぐんようせんこうだん」



 アリアの表情は、無だ。

 壊れた人形の様に、グレンの言葉を繰り返す。


「至近距離で見ると、最悪失明するレベルの光量が出るから、取り扱い注意だぞ?」


「しつめい、ちゅうい」


「アリアは、あのヤバいお姉さんに目をつけられてる可能性があるからな。バッタリ会っちまったら、躊躇なくぶっ放せ」



 なる程、これも防犯グッズかと、アリアが僅かに思考を取り戻す。


 確かにアシュレイは、シャイニーしてない方のアリアで対峙した相手だ。

 あの興奮ぶりなら、変な執着を持たれた可能性は十分にある。

 グレンはあくまで、自分を心配してコレを選んだのだろうことは、アリアも理解できた。



 できたが、やはり誕生日プレゼントにこのチョイスは如何なものだろうか?


 怒るべきか、呆れるべきか、それとも、そのセンスを憐れむべきか。


 アリアが反応を決めかねていると――



「悪い、冗談だ。本物はこっち」


 そう言って、グレンはもう一つ、謎の物体をテーブルに置いた。


「これは……?」


 台座の上に、数えきれないほどの小さな穴が空いた球体が乗っている。

 見たこともない贈り物に、アリアが純粋な興味を示す。

 それを見て、グレンは悪戯の結果を見守るような、楽しげな笑みを浮かべた。



「そいつはな――」




 ◆◆




「~♪」



 パジャマパーティ会場となったアリアとエルナの合部屋は、普段とは違う様相を呈していた。


 照明を落とした部屋の中央に鎮座するのは、グレンから贈られた謎の魔導具。

 球体部分に空いた穴から光を放ち、部屋の壁に無数の光の点を描く。

 それはまるで、満点の星空に包まれているよう。



『プラネタリウムって言うらしい』



 最近資料だけが見つかった神代の娯楽で、屋内で星空を再現するという、何とも幻想的な魔導具だ。

 本来はもっと大きいらしく、これはグレンの友人の魔導技師が、息抜きに小型化したものをお友達価格で買い取ったのだとか。



「~♪」



 グレンにしては洒落たプレゼントに、アリアはとにかく上機嫌だ。

 先程からずっと本体と部屋の壁を見比べながら、楽しげな鼻歌を歌っている。



「あんまり近付くと、影ができるよ」


「あっ、ごめんロッタ。……~♪」



 その幸せそうな様子に、グレンとの進捗を確認しようとした少女達も、水を差せずに見守るばかり。



「よかったわねぇ? 閃光弾じゃなくて」


「危うく、私のプレゼントが無駄になるところでした」


「別に、コレも嫌ではなかったのよ? その、心配してくれてるのは、伝わったし……ね?」



 『コレ』と言われた軍用閃光弾も、回収はされずにアリアの物となった。

 防犯グッズを渡しておきたいというのも、それはそれで本音だった様だ。


 その閃光弾君は今、リボンを付けたまま、テーブルの上でアリアにツンツンされている。

 尚、これで暴発したら、全員失明確定だ。



「さぁ、皆さん。そろそろパーティを再会しませんこと? ちょうど、お酒の準備も整いましてよ」



 そんな中、リーザが今まで氷で冷やしていた、如何にも高そうなボトルを手に視線を集める。

 度数の高い果実酒なのだが、飲み口が柔らかく、キンキンに冷やしているため、気をつけないとハイペースで空けてしまう危険な逸品だ。



 これこそが、この日のため、リーザが実家から取り寄せた秘蔵の一本。



(仕掛けますわよ)

(ホイきた)



 交わされるアイコンタクトに、少女達が動き出す。


 あのプールでの戦闘の後、グレンとどんな話をしたのか。


 そもそも現在の『進捗』は?


 アネットのプレゼント使う?



 この辺りを洗いざらい吐かせようというのが、このパジャマパーティ本来の目的だ。


 普段は頑なに自分の気持ちを認めようとしないアリアだが、誕生日という特別な日、日常から離れたパジャマパーティという空間なら、多少は口も軽くなる筈。

 プラネタリウムが醸し出す幻想的な雰囲気も好都合。

 先程も、アネットの『私のプレゼントが~』発言に関して、特に否定はしなかったほど心のガードが緩んでいる。

 後は、アルコールの力で一気に押し切るだけだ。


 アリアは酔いにくい体質だが、これだけ気持ちが緩んでいれば、ほろ酔い程度には持っていける。


 手ずからグラスに酒を注ぐリーザ。

 テーブルに集まる少女達。

 彼女達の意図など露知らず、幸せそうに閃光弾をつつくアリア。



 少女達の夜は、まだ始まったばかりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ