第13話 お仕置きの時間
――ビシイイィィィィィィィィィィッッッッ!!!!
「ぐうぅっ!」
石壁に囲まれた薄暗い部屋の中、軽快な打撃音が響く。
嬉々として鞭を振るうのは、アールヴァイス幹部の1人、『黒鎖』のアシュレイ。
そして、それを受けるのは同じく幹部。つい先日学園を襲撃した、『氷華』のイングリッドだ。
フリージアを着てはいるが、手脚の装甲は取り払われ、スカートも脱がされている。
当然、防護膜の展開は許されていない。
姿勢は脚を大きく開いた四つん這いで、アシュレイに向け、無抵抗に尻を突き出している。
ここはアールヴァイス本部の一角にある、アシュレイの『遊戯室』だ。
厳重に施錠され、防音も完璧なこの部屋の中で起こることは、例え首領であろうと窺い知ることはできない。
――ビシイイィィィィィィィィィィッッッッ!!!!
「ぐうぅぅっっ!!」
イングリッドの尻や背中は、既に至る所が赤く腫れ上がっている。
その腫れに向けてアシュレイが鞭を繰り出せば、イングリッドが、押し殺した悲鳴を漏らす。
同じ幹部として、せめて無様に泣き叫ぶことはしたくない。
が、積み重ねた痛みに、どうしても声が抑えられなくなってきたのだ。
イングリッドの顔面は脂汗に塗れ、痛みと屈辱に大粒の涙を溢している。
何故、イングリッドがこんな目に遭っているのか。
そこに、正統な理由など何一つない。
名目上は『例の2人を倒し損ねた上、スライムまで失ったことへの罰』ということにはなっているが、イングリッドに2人の捕獲は命じられていないし、巨大スライムは元々あそこで使い捨てる予定だった。
寧ろイングリッドは、獲物を捉え、酸を分泌した興奮状態での呪印の制御データを持ち帰った上、シャイニーティアの強度と修復速度まで考慮した、正確な酸の性能評価まで生真面目に提出している。
役目は、十分以上に果たしたと言っていいだろう。
なので、これは完全な言いがかり。
イングリッドを虐めたいがために、アシュレイが適当な理由を拵えただけだ。
――ビシイイィィィィィィィィィィッッッッ!!!!
「ああああぁぁぁぁっっ!!」
イングリッドの悲鳴の種類が変わる。
声を抑えられる限度を超え、ついに肉体の限界まで超えようとしているのだ。
釣り上がっていた眉は八の字に垂れ下がり、歯を食いしばることもできなくなった。
追い詰められた体が、ブルブルと病的に震え始める。
「もう……やめてくれ……頼む……っ」
ついに、その口から弱音が溢れた。
とうとう姿を見せた『弱いイングリッド』に、アシュレイの全身が歓喜に震える。
「ふふふっ……痛い? ねぇ、もう我慢できない?」
尻の上の1番赤い部分を、アシュレイは軽く爪を立ててなぞる。
「んぐあぁぁぁぁぁっっ!!? やめろっ! やめてくれぇぇっ!」
「ダメよ、これは『お仕置き』なんだから。子供だって、泣いたぐらいで許しては貰えないわよ? ほぉら」
「あっ、待っ――」
――ビシイイィィィィィィィィィィッッッッ!!!!
「いぎいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!」
容赦なく振り下ろされる黒い鞭。
鞭はアシュレイが影の魔術で作ったのものだ。
帯のように平たく薄い形状で、魔術としての制御により、この平たい面が相手に当たるようになっている。
威力は低いが痛みは強く、空気抵抗による手応えと平面ならではの打撃音が心地よい、アシュレイのお気に入りだ。
アシュレイは、相手に痛みを与えるのは好きだが、流血は景観を損ねると言って好まない。本当なら、ミミズ腫れさえも抑えたいと思っているくらいだ。
できるだけ綺麗な状態のまま、痛みだけを与え、心だけを折りたい。
傷は浅く、痛みは強く。
これが、彼女が影属性魔術に向ける情熱の原動力だ。
闇精霊は、種族的にレア属性である影への適性が高い傾向にはあるが、彼女は自身の趣向を満たすため、それを更に磨き上げていた。
「許してくれ……もう、許してくれ……! これ以上は……っ」
その結果はこの通り。
丸腰でも自分と同等に渡り合うイングリッドの心を、一滴の出血もなしにへし折るに至った。
「そこまで言うならやめてあげてもいいのだけれど……『アレ』、公開してもいいのよね?」
「っ!?」
アシュレイの言葉に、イングリッドが強烈な羞恥と恐怖の表情を浮かべる。
「や、やめてくれっ! お願いだっ、それだけは……っ! それだけは、許してくれ……っ!」
「そうよねぇ? 知られたくないわよね? あんな、いい歳をして、おも――」
「言うなああぁぁっっ!!」
言葉にされることすら耐えられない、とばかりに悲鳴を上げるイングリッド。
凡そ1年程前の、アールヴァイス決起集会の日。
多忙を極め、トイレのタイミングを逃し続けたイングリッドは、集会の真っ最中に尿意が我慢できなくなってしまったのだ。
幸い、イングリッドは集会を抜け出すことはできたのだが、トイレを目前にして巡回の警備兵に足を止められてしまった。
『おねがい、だぁ……っ…そこを、とぉして、くれ……とおして、とおし、あ゛っ!? あ、あ、あ、あっ!』
やがて、我慢は限界を超え――
『ん゛ん゛っ、だめぇっ! み゛るなぁっ!』
――ジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!
結局イングリッドは、トイレまで辿り着くことができず、廊下で小水を漏らしまった。
そして最悪なことに、その映像を収めた記録媒体を、アシュレイに握られてしまったのだ。
もし彼女の機嫌を損ねれば、自分のお漏らし映像が、本部中のスクリーンに投影されることになる。
逆らうことなど、絶対にできはしない。
彼女はガタガタと震えながら、観念した様に、額を床に押し付けた。
「じゃあ、続きをしましょうか」
再び鞭を振りかぶるアシュレイ。
――ビシイイィィィィィィィィィィッッッッ!!!!
「あがああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
――ビシイイィィィィィィィィィィッッッッ!!!!
「うぎいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!」
――ビシイイィィィィィィィィィィッッッッ!!!!
「くああああああああああぁぁぁぁっっっ!!!」
切迫感の増していく悲鳴。体の震えも、更に更に大きくなっていく。
そして、痛みに歪んでいたイングリッドの顔が、突如驚愕と凄まじい焦燥の色を見せる。
「ま、待て! 少し待ってくれ! 痛みで、ち、力が! これ以上っ、打たれたらっ!」
「ふふふっ、だぁめ」
懇願など、アシュレイを喜ばせるだけだ。
アシュレイは寧ろトドメとばかりに、鞭を振りかぶる。
今までとは逆のアッパースイングで、開かれた両足の間を力一杯に打ちつけた。
――ビシイイイイイイイィィィィィィィィィィッッッッッ!!!!!
「ひぎいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!?」
鍛えようのない、そして今、最も刺激を与えてはならない部分への容赦ない一撃に、イングリッドが目を見開いて大きく仰反る。
そして――
「あ、あ、あぁっ!? ダメっ、ダメだっ! み、見るなっ! 見ないでくれっ! おねが――あっ」
ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!
痛みが心身の限界を超えたイングリッドは、凄まじい勢いで失禁を始めた。
迸る小水は、薄手の下着などないかの様に床を打ち付ける。
「あぁ……っ……ああっ……嘘だ……嘘だ……っ」
「うっふふふふっ! あぁ、みっともないわねぇ? 貴女、いくつになったのかしら?」
「言うな……言うなぁ……あぁっ、止まれっ……止まってくれ……!」
気付かない間にかなり溜まっていたのか、イングリッドの失禁は約30秒に渡り続いた。
アシュレイは、縞柄の下着をグッショリと濡らした彼女を、考えつく限りの言葉で罵り続けた。
失禁が終わっても止まらぬイングリッドの嗚咽に、自らも別のもので股を濡らしながら……。
◆次章予告
愚か者は問う。
――お前は本当に勝ちたいのか。
愚か者は問う。
――お前は、その者の『何』になりたいのか。
愚か者は願う。
――お前は、間違えるな、と。
そして、少女は『力』に手を伸ばした。
次章、聖涙天使シャイニーアリア。
第四章 参戦! 断罪の麗人
――貴方の『生涯の恥』、受け取らせていただきますわ。




