第14話 我等が世界を統べる為
「度々集まってもらって、すまないね」
首領の穏やかな声が、礼拝堂に響く。
ここは、アールヴァイスの拠点上階に位置する礼拝堂。
ステンドグラスを模した照明から放たれる光が、参列者席に座った幹部一同を照らした。
その中の1人、『斬裂』のヴァルハイトが、訝しげに周囲を見回す。
「ガウリーオがまだのようですが」
「それについては、この後に話そう。先ずは……アシュレイ、ご苦労だったね。君のおかげで、学生達の素性がバレることはなかったよ」
ヴァルハイトの質問は一旦脇に置き、アシュレイを労う首領。
グレンとの戦闘後、アシュレイは即座に大教室に戻り、怪人2体を置いて学生達を外に連れ出したのだ。
彼等が紅扉宮にいたと言う証拠も残らず、学園への潜入も、問題なく続けられている。
「ご満足いただけて、何よりです」
首領からの労いを、微笑みで受けるアシュレイ。
すると、アシュレイに向けた首領の目が、僅かに細められる。
「でも、紅扉宮の解除には苦労したようだね。何かトラブルでもあったのかな?」
「ええ、実は――」
ドミネートフィールドの影響を受けない男子生徒の存在をアシュレイが明かすと、幹部達に騒めきが生まれる。
「レヴィエム・クラフトも無しにか?」
「普通の制服に見えたわね。どちらにせよ、アレは男の子には着れない筈よ」
レヴィエム・クラフト……シャイニーティアを始めとした先史文明の遺産。
アルヴィスとはまた別系統の天才、エクエス・レヴィエムの魔導戦闘服シリーズの総称だ。
レヴィエムが趣味丸出しで作ったそれらは、例外なくボディラインや肌が露出する見た目をしており、当然の様に女性にしか起動できないようになっている。
「確かにそうじゃのう……では、フィールドにまだ欠陥が……?」
アシュレイの返答に、ドクター・ヘイゼルがブツブツと自分の世界に入っていく。
こうなると、彼は暫くは帰ってこない。
「なるほど。その少年に、学生達が見つかるのを避けようとしたんだね? いい判断だったよ、アシュレイ。難癖を付けるようなことを言って、すまなかったね」
「恐れ入ります」
頭を下げながらほくそ笑むアシュレイ。
本当はアリア『で』遊んでいたことが原因だ。
都合よく誤魔化す材料をくれた少年に、アシュレイは心の中で感謝した。
「つまり例の少女に加え、新たな障害が増えた、と言うわけですね……」
「それなんだけどね、イングリッド。実はもっと大きな問題があるんだ。博士も、一旦帰ってきてくれるかな」
珍しく深刻そうな首領の雰囲気に、ジャンパールを除く全員が、表情を改める。
ヘイゼルは内容に予想がついたのか、『まさか』と小さく呟いた。
「ガウリーオが捕らえられた」
「「「っ!?」」」
「うぅむ……!」
「へぇ」
獅子の怪人のガウリーオは、首領が絶対の信頼を置く、アールヴァイス屈指の武闘派だ。
例えフィールド外であっても、彼を下せる者はそうはいない。
それこそ大陸トップクラスと言われる、人の皮を被った化け物達でもなければ。
「残念ながら、監視班が気づいた時にはガウリーオは意識を無くし、帝国兵によって搬送されていたらしい。だから、誰がどんな手段を使ったかはわからない。
わかっているのは、短時間でガウリーオの意識を刈り取れる『何か』が、我々と敵対したと言うことだけだ」
謎の少女だけならば、それ程大きな障害ではなかった。
だが、ここに来てフィールドの効かない学生、そしてガウリーオに土をつけるような『何か』の出現。
否応なしに、幹部達の表情が張り詰めていく。
そんな部下達の様子に、首領はパンパンッと手を叩き、柔らかい笑みを向ける。
「考えすぎても仕方がないよ。いよいよ脅威になるようなら……ジャン、君にお願いさせてもらうね」
「いいよー。たまには、壊れにくいおもちゃで遊んでみたいし」
酷薄な笑みを浮かべるジャンパール。首領は、やれやれと溜息をついた。
(ヤンチャに育っちゃって……昔はもっと可愛かったのに)
ジャンパールから視線を外し、改めて首領は全員を見渡す。
「紅扉宮が使えなくなったから、一先ずは怪人の性能評価と、人材の調達に力を入れて欲しい。謎の脅威に気を揉んでいる暇はないよ?」
「「「「「はっ!」」」」」
「そうそう、その意気だ。みんな、よろしく頼むよ」
――我々が、世界を統べる為に。
◆次章予告
断水、破裂……皇立学園を襲う謎の水道トラブル。
そんな中でも行われる水泳の授業中、アリアは恐ろしい敵に襲われる。
奴の名は――『服だけを溶かすスライム』!!
次章、聖涙天使シャイニーアリア。
第三章 襲撃! 氷の女幹部
――見えちゃう……全部っ、見えちゃう……!