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第11話 磨き上げた技術を駆使すれば下半身だって抑えられる

 体を覆う色とりどりの帯が弾け、シャイニーティアの装着が完了する。



「すぅー……はぁー……よしっ」



 いつものレオタード戦闘服を纏ったアリアは、一つ深呼吸をして、覚悟を決めた表情を作った。


※尚、戦闘服の細かい見た目は、一章第5話をご覧ください。



「グランツマン君! できるだけ、真剣な気持ちを作ってちょうだい! あと、その、か、下半身にも、力を、入れて……あ、あと、色々覚悟してっ! できた!? できたなら、こっちに来て!」


 グレンが、このコスチュームに並々ならぬ興味を示すことは、簡単に予想できる。

 覚悟の表情は『下半身』のあたりで消し飛んだ。


 結局しどろもどろになり、最後はヤケクソ気味にグレンを呼びつける。


「よし、行くぞ……ぬぅぅっ!?」


 シャイニーアリアを目の当たりにしたグレンは、カッと目を見開き、即座に腰を引く。


 が、ギリギリのところで射精は耐え、鼻血も少量。

 視線も何とかアリアが叫ばずにいられる程度だ。


 アリアのぴっちりセーラーレオタード姿を見た割には、薄味な反応。

 寧ろブルマの時の方が、反応が大きかったくらいだ。


 心構えの問題……というわけでもない。



「その、光は……? グランツマン君」


にゃまへ(名前)ひょんひゃらめ(呼んじゃだめ)えぇっ!」


「ご、ごめんなさいっ!」



 名を呼ばれただけで何を妄想したのか、グレンの体がビクビクと震える。

 アリアが羞恥心を忘れる程に、切迫した様子だ。


 まさに一触即発。


 だが、それでも何とか抑えられているのは、グレンが全身に纏う青黒い光のおかげだ。



「ふぅ……ふぅぅぅ……この光は『生命波動』……生体魔法の、おっふ、凄いバージョンだと、ほひぃっ! お、思って、くれればいい。こいつで、何とか、沈静化、してるぅぅん!」


「生体魔法って、そんなこともできるのね……」


 未知の技術に驚愕しながら、素直に納得もするアリア。


 生体魔法は、術者の肉体の中だけで使える、ノービスでも使える魔法の一つだ。

 錬金術はかなり敷居の高い技術なため、ノービスがまともに使える魔法は実質これくらい。

 必然、ノービスには生体魔法の熟練者が多い。


 そして、アリアの目の前でくねくねと気味悪く悶えるグレンは、多くの武術を高いレベルで修めた達人だ。

 肉体に作用する生体魔法で、アリアも知らない高みに達していたとしても、なんら不思議はない。


「そ、それで、アリアのその、と、とっても素敵な、お召し物は……!?」


「もう少し、待った方がよくない……?」


「だいじょおぶっ!」


 その達人は、迫る射精感に身を捩らせる変人と化している。

 大噴火を警戒するアリアに対し、ぐっと堪えて先を促すグレン。


「ここ、女子更衣室だから、我慢してね……?」


 先ほど、教室で我慢できずに大洪水を引き起こした手前、アリアもあまり強くは言えない。

 やんわりお願い程度に留め、説明始める。


「これはシャイニーティア。先史文明時代の魔導具よ。身体強化とか、全身の防護膜とか、他にも色々機能はあるけど……」


 ただの高性能な魔導具なら、わざわざ今、グレンにこの姿を晒す必要はない。

 アリアがグレンにこれを見せた理由はただ一つ。


「これを着ていれば、弱体化の影響を受けないの。グランツマン君……私も一緒に戦うわ」



 目の前の、欲望ダダ漏れなくせに、自分より余程ヒーローに近い男に、全て背負わせる自分でいないためだ。



「アリア……わかった、頼りにさせてもらうぞ。ただ……」


「どうしたの……?」



 そんなアリアに、グレンはとても真剣な視線を向ける。


 視線は、ある一点に注がれていた。



「その立派なものをばるんばるんされたら、俺、まともに戦えないからな」


「踏み潰すわよ……!」




 ◆◆




 青のルートを辿り、次々と扉をくぐるアリアとグレン。

 途中、生徒のグループに遭遇し、アリアが慌ててバイザーを出す場面はあったが、大きな問題はなくルートの終端に近づいている。


 では、小さな問題はと言うと……。



「アリア、ついてきてる――」

「振り向かないでっ!」

「はいっ!」



 ある。



 当初、2人は並んで走っていたのだが、それは程なくして終わりを告げた。


 アリアの立派な胸は、当然のことながら、走ってるだけでもばるんばるんした。

 必然、グレンの視線はそこに吸い込まれていく。


『もうっ! 前を向いて走ってよっ!』


 僅か2部屋抜けただけで、アリアは根を上げ、グレンが前を走ることになった。

 振り向き禁止を言明されて。


 すぐそこにあるお宝ショットを見ることを禁じられ、グレンは不満顔だったが、アリアに涙目で睨まれては何も言えず、大人しく前を走ることになった。

 だが時折、欲望に負けて振り返ろうとしては、こうして怒られているといわけだ。



(やっぱり、失敗だったかしら……? この格好見せたの)



 アリアが自分の判断を疑問視している間に、2人は青い線の終端に辿り着いた。


「グランツマン君、見て!」


「いいのか!?」


「こっちじゃないわよっ!」


 地図の現在地点から、青い部屋に向けて新たなルートが伸びる。



「まさか、窓とはなあ」


「これは気付かないわね……」



 最後の部屋に繋がる扉は、教室の窓だった。

 誰もが一、二箇所は開けようとはするが、それで開かなければ、全部を試そうとは思わない。

 しかも、決まったルートを抜けた先にしか現れなければ、まず見つかる様なものではない。


 これを作ったアルヴィス・メイローンは、余程意地が悪いか、全くの考えなしかのどちらかだろう。



「アリア、開けてくれ。突っ込む」

「なっ!?」



 もしかすると、この扉の奥にいる敵は、扉が繋がったことを察知できるのかもしれない。

 グレンが、反撃が来る可能性を考えられないほど愚かではないことは、アリアはもうわかっている。


 それでもグレンは、意図的か、無意識か、躊躇いなく一番危険な役を選んだ。


「ダメよ! 私なら、シャイニーティアの防護膜があるわ。私が……」


「アリア」


 グレンを押し退け、前に出ようとするアリア。

 だが、その手をグレンが止める。



「思えば、俺はお前の前で、射精しかしてない気がするんだ。最後くらいカッコつけたいのが、男の子ってもんなんだぜ?」


「えっ」



『最後までカッコつけるのが『イイ男』ってもんだぜ』



 再び、目の前の男に重なる、銀色の英雄(ヒーロー)の姿。

 まるで本物に言われているような気がして、アリアはそれ以上、強く言えなくなってしまう。



「……気をつけてね。怪我とかしたら、許さないから……っ」


「ありがとな……でも、かすり傷くらいは大目に見てくれよ?」


「ダメ、怒る」



 ふくれっ面のアリアに『うへぇ』と答え、アリアの反対側に回るグレン。

 アリアも窓の鍵を開け、窓枠に手をかけた。


「じゃあ、行くわよ」


「いつでも」


 アリアが窓を開け、グレンが飛び出す。




 ――その顔面を、窓の奥から突き出した何かが貫いた。



「グレン君っっっっ!!!!」


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