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第20話 もう限界! 聖涙天使、最終章でももちろん大ピンチ!!

「ねぇ、ロッタ」


「どうたんだい、エルナ」



「私らさ、何やってんだろね?」


「君が言っちゃうかい!?」



 エルナとロッタは今、アールヴァイス本部……の、通気ダクトの中にいた。



『アリアを手伝いに行きたい!』



 お留守番を言い渡されたエルナが、当然の如くそう言い出し、アリアとエルナが絡めば、身の安全は二の次にしてしまうロッタも仕方なく同行。


 だが、中はドミネートフィールドの影響下。そこにアールヴァイスの構成員や、怪人がひしめき合っている。

 2人が正面から突入しても、一瞬で制圧……最悪挽肉にされてしまうだろう。


 そこでエルナが言い出したのが、通気口を使った潜入だ。



『忍び込むと言えば、通気ダクトでしょ!』



 創作物(マンガ)の読み過ぎだ。


 通常、通気ダクトと言うものは、口径が小さかったり、防炎やら空気調節やらの機構もあり、人が通れるようにはできていない。


 実際、上の大聖堂はそんな感じだ。



 だが、このアールヴァイス本部に関しては、首領Zさん、幹部Hさんの、『ダクトから潜入されるって、悪の組織っぽい』

 という主張の元、匍匐前進で通行可能になっている。


 というわけで現在、エルナとロッタは、ズリズリ潜入中なのだ。



「やー、フィールドも解けたしさ。ガツンとカチコミしてもいいんじゃないかって」


「ガツンと怪人にやられるのがオチだよ」



 エルナとロッタも、アリアやリーザに付き合えるだけあって、割と強い。

 2人がかりなら怪人1体くらいは倒せるが、たまに見える下の様子だと2~3体纏めて出ていている。


 ちょっと手に負えない。



「じゃあ、しばらくここ?」


「しばらくここ。もうちょい進んだら深部だから、めぼしいものもあるかもしれないし」



 ノープランで飛び出した2人は、変わらず通気ダクトを進み続けた。




 ◆◆




 4本の鋭い氷の槍が、側面からニーズヘッグを狙う。


 鉄の巨体は、先頭の1本に向けて榴弾を発射。

 狙いは僅かに外れたが、近接信管により榴弾は爆砕し、氷の槍をまとめて弾き飛ばす。


 爆風の真ん中を、氷の膜を盾に無理やり突っ切ってくるのは、股下1cmのスカートを激しくなびかせるイングリッドだ。


 基本、足を止めることのないイングリッドに、連射の利かない榴弾は悪手。

 ゼフは残り2門になったチェーンガンの1つを迎撃に向けるが、接近され過ぎた。

 イングリッドの左右への高速移動に、砲身の回頭が追いつかない。


 懐に潜り込もうとするイングリッドを、右腕の高周波ブレードで防ぎつつ、6脚をバタバタと動かし距離を取る。


 だが、そちらの方向にはアリアがいる。



「ふぅぅっ……ぐっ!」



 銃弾をリボンで弾きながら、ニーズヘッグへと駆けるアリア。


 アリアに向けられているのは、残ったチェーンガン1門だけ。

 その程度の集中砲火なら、直進しながらでも、ほぼリボンで迎撃可能だ。

 そして、僅かに当たった銃弾の威力も、8つの紋章がかき消してくれる。


 懐に入れば高周波ブレードが襲ってくるが、大振りのブレードも、『巨体にしては』俊敏な程度の脚も、恐らくは人間――対ワークマンは想定していない。

 近接戦闘は避けたいゼフは、何度も懐に潜り込んでくるアリア達に、無限ではない弾を無駄撃ちしながら逃げまわっている。


 圧倒的な優勢。



 だが――





「んああぁあうっっ!!」




 一発の銃弾が下腹の聖涙紋に当たると、アリアは腰を大きく震わせ、ヨロヨロと体を振りながら足を止めてしまう。

 大したダメージはないはずなのに、口からは切迫した何かを感じさせる、切なげな悲鳴が溢れた。


 チェーンガン2門と粒子砲を奪い、ミサイルも全弾撃ち尽くさせ、完全に有意に立ったはずのアリア達。

 だが、先程から後一歩のところで、有効打を与えられないでいた。


 原因はこの、アリアの謎の不調。

 ダメージコンバータを使い始めてから、アリアの動きが徐々に精彩を欠き始めたのだ。



 飛び跳ねるような激しい動きは形を潜め、動き出したり急停止をする度に、口から苦しげな吐息が漏れる。

 やがて、度々動きが鈍るようになり、ついに今、前進中に動きを止めてしまった。


 チェーンガンの弾幕に合わせてリボンを振るうこともできなくなり、持ち手を中心に円形に回し、なんとか防御を固めている。

 だが、やはり無駄な動きが多く、防ぎ切れずに何発も銃弾をくらっては、『うっ、うっ』と苦しげに呻き声を上げてしまう。




 いったい、アリアはどうしてしまったのか――














 ざっと1,000文字強、頑張ってしらばっくれてみたが、ここまでアリアの物語にお付き合いいただいた皆様なら勿論、何が起こっているかはお分かりだと思う。


 お分かりだと思うけど、敢えて説明させてほしい。




 ダメージコンバータは、魔力膜に接触した熱や運動エネルギー等の、身体に被害を与える力を別のものに変換する、非常に強力な防御機構だ。

 だが、ダメージは変換されるだけで、なくなるわけではない。


 では、ダメージはいったい、何に変換されるのか――





 もう語る必要もないほどに明白だが、『尿』である。






 尿、である。




 みんな知ってたよね?







 ダメージコンバータが拾ったダメージは、一旦毒性の刺激物として体内に吸収、一瞬で分解され、尿として膀胱に集約される。


 つまりアリアは、最終決戦の真っ只中だというのに、ダメージを変換した尿で、膀胱をパンパンに膨らませてしまっていたのだ。




「くぅっ! ううぅっ! ああぁぁっ!? ま、待って! 今はっ、漏れ、んはあぁっ! 待ってぇぇっ!」




 銃弾が体に当たる度、振動が膀胱を揺らし、新たな小水が押し込まれる。

 高まる尿意にアリアの動きが鈍り、そのことで被弾は増え、ダメージは更なる小水に――


 完全な負のスパイラルだ。



(だ、だめっ、もう撃たないでっ! パンパンっ! もう入らないっ! お腹、もう、パンパンなのっ!!)



 もうアリアは、構えすら取れていない。

 膝が折れ曲がり、太股はもじもじと擦り合わされ、腰が後ろに引けていく。

 リボンを持っていない左手は、膀胱を直撃から守るため、下腹に添えられていた。



「んんっ! や、やめてっ……! 出ちゃう……! あっ! あっ! やめてぇ……!」



 だが、露骨に守れば怪しまれるというものだ。


 既に聖涙紋への直撃で、大きな反応も見せてしまっている。

 まさか、膀胱を叩かれて漏れそうになっているだけとは夢にも思わず、ゼフはアリアの下腹に火力を集中させた。


 集中砲火の威力に押され、庇う手ごと膀胱が押し込まれる。

 なみなみと小水が詰まったアリアの膀胱が、外部からの圧迫に押し潰されていく。



「あ、あ、あ゛あぁぁっ! お腹っ、狙わないでっ……! 出ちゃうっ……! おしっこ、出ちゃっ、あ゛あ゛あぁぁあぁぁっっ!!?」



 ジョロッ、ジョッ。


 

 外側から執拗に叩かれ、とうとうアリアの水門が、僅かにだが小水を吐き出してしまった。

 レオタードに広がる生温い水気に、アリアが激しく狼狽える。


(もう入らないっ! おしっこ、もう入らないのっ! もう、やめてええぇぇぇっっ!!)


 何とか銃弾の雨から逃げようと、右へ左へ、もじつく脚で不恰好なステップをくり返すが、その程度の動きではニーズヘッグの照準からは逃れられない。

 回転の乱れたリボンの隙間から、何発もの銃弾がアリアの体に突き刺さった。


 そしてそれは全て、膀胱への責め苦へと変換される。

 左手で庇った聖涙紋はこれでもかと大きく強く輝き、魔力容量も回復速度も最高潮だが、使うアリアがこのザマでは宝の持ち腐れだ。



「も、も、もうだめっ、我慢できないっ……! トイレっ! トイレに行かせてぇぇっ!」



 アリアの悲痛な叫びは、チェーンガンの発射音に飲み込まれ、誰の耳にも届かない。

 だが、イングリッドの目は、アリアの口が『オ・イ・エ』と動いたことを見逃さなかった。


「まったく世話が焼けるな! うちのお姫様はっ!」


 発音、妙にもじもじしたアリアの様子、そして城での漏らしっぷりから、ようやくイングリッドがアリアの『窮地』に気付く。




 『この大事な時にトイレくらいで』――とは一切思わない。


 十代も後半でのお漏らしが、どれだけ心を深く抉るかは、イングリッドも理解している。

 それこそ、その身を持って痛いほどに。


 アリアを恥辱から救うため、ここ一番の気合を入れて、ニーズヘッグに接近するイングリッド。


 フィギュアスケートにはない、体を上下に反転させるショートジャンプと、折り曲げた氷の道を使っての急速方向転換で弾幕を掻い潜る。

 一つ間違えれば転倒待ったなしの動きを、イングリッドは集中力を絞り出してやり切った。



『イングリッド……!』



 接近するイングリッドからコックピットを守ろうと、高周波ブレードで薙ぎ払うゼフ。

 イングリッドは、体をニーズヘッグの方に90°傾ける滑走で、斬撃の下をくぐり抜ける。


 そのまま左側に回り込みつつ上昇。

 本当の狙い――アリアを狙う左側のチェーンガンに、アクセルジャンプからの回転切りを叩き込んだ。



私の(・・)アリアを、虐めないでいただこうっ!」



 砲身を輪切りにされ、左のチェーンガンが沈黙する。

 残りの銃火器は、右の2門と榴弾砲のみ。


 イングリッドはすぐさまアリアとニーズヘッグの射線上に入り、双剣を構える。




「アリアっ! 動けるか!? 場所を教えたら、1人でトイレに行けるか!?」


「動けないっ! もう、動けないのっっ!! ごめんなさいっ!!」



 イングリッドの問いに、ボロボロと涙を流しながら弱音を返すアリア。

 我慢しきれず零れた小水で、レオタードは前後からでもわかる程にぐっしょりだ。


「もうダメっ、漏れちゃうっ!! 助けてっ、イングリッドっ! 漏れちゃうぅぅっっ!!!」


 半ば予想していた答えだが、だからといってイングリッドに対策があるわけではない。


 抱えて部屋から出ることはできるが、銃弾を回避しながらの機動に、今のアリアが耐えられるかは分の悪い賭けだ。

 だが、このまま待っていても、アリアはあの場所から一歩も動けず、腰から下を水浸しにしてしまうだろう。



(ええいっ、ままよ!)



 一瞬の逡巡の末、イングリッドはアリアを抱えて逃げるプランを選んだ。

 例えトイレまで耐えられなくとも、せめてゼフの前でのお漏らしだけは回避してやれる。

 すぐにお湯で洗ってやれば、その心の傷も少しは浅くなるだろうと。


 体はニーズヘッグに向けたまま、後ろに滑り出すイングリッド。

 ゼフはその様子から撤退の意思を感じ取り、ニーズヘッグの最後の武装を展開する。


 ニーズヘッグの胴体と頭部の各所が小さく開き、そこから大量のアンカーワイヤーが射出される。

 威力は小さいが、一本一本が空中で軌道を変えて躱しにくい、ニーズヘッグ唯一の対人戦専用兵器だ。



「くぅっ!?」



 不規則な軌道で迫るアンカーに、イングリッドが目の色を変えて回避行動に移る。




 これほどの武装を今まで隠していたのは、使い所が難しかったからだ。


 ニーズヘッグの制御は、基本的には機体のAIがゼフの思考を読み取って行なっている。

 その際、ゼフの脳にも多少のフィードバックが来るのだが、複数のアンカーワイヤーをそれぞれ独特な軌道で動かすこの武装は、そのフィードバックが強いのだ。


 実験で使った際の全開稼働時間は、凡そ2分。それを過ぎると、ゼフは鼻血を出して昏倒することになる。



 勝負を賭けたゼフの攻撃を、立体的なスケーティングで何とか躱すイングリッド。

 だが、込み上げる尿意で一歩も動けなくなったアリアに、この攻撃を躱す術はなかった。



「あああぁああぁぁぁっっ!!」

「アリアぁっ!」



 四方八方から迫るアンカーワイヤーに、あっさりと絡みつかれてしまうアリア。


 腹の中に大量の熱水を抱えた憐れな少女は、手脚を縛り上げられ、宙に吊り上げられてしまった。


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