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第3話 下っ端をミスを組織全体でフォローしてくれるホワイトな悪の秘密結社

『アルヴィスの紅扉宮』



 神代と現代の間の時代、先史文明時代の後半に現れた天才、アルヴィス・メイローンが生み出した『遊具』だ。

 起動すると、建物内の扉をランダムに繋ぎ合わせて迷路化し、正しい順番で部屋を移動することでゴールに辿り着き、停止ボタンを押せば終了。


 ……言葉にすればそれだけだが、そこに使われているのは、遊具としては無駄でしかない超技術の数々。

 扉のランダム接続には空間制御が使われ、壁を破壊しての攻略を防ぐため、壁を因果干渉で破壊不可能にしている。

 現代ではもちろん、当時ですらアルヴィス以外には、この技術は再現不可能だった。


 尚、扉の接続は10分ごとにシャッフルされ、その際『正しい順番』も変わるため、その難易度は極悪。



『楽しませる気の無い頭のおかしい遊具』


『才能と努力の無駄遣い』


『牢獄として発表した方が需要がある』



 と、当時散々な評価を受けた悲しき超技術の結晶こそ、皇立学園高等部校舎を襲う、怪奇現象の原因であった。




 ◆◆




「申し訳ございませんっっ!!」


 秘密結社アールヴァイス幹部、『氷華』のイングリッドは、執務室の椅子に座る首領の前で、跪いて深々と頭を下げた。


「此度の紅扉宮の『暴発』は、学生だけに管理を任せた、私の監督不行き届き……! かくなる上は、如何なる罰でも、受ける所存です!」


 アルヴィスの紅扉宮の構成術式は、組織が3年をかけて、密かに学園に施してきたものだ。

 その発動タイミングは、決して今ではない。


 今回の誤起動は、これまでの努力を台無しにし、恐らく学園側に強い警戒心を抱かせることにもなっただろう。

 潜入している学生達の上司である、イングリッドの責任は重い。


「固く考えすぎだよ、イングリッド。先ずは、顔を上げて」


 だが、首領の声色は穏やかだ。

 その様子からは、とてもイングリッドを罰しようと言う気配は感じられない。


「そもそも、術式の準備の一番の功労者は君だ。

 まだ若いスタッフの指揮に、卒業、入学時の引き継ぎ。それに術式の隠蔽方法の教育や、学園の警備状況の把握まで……むしろ、君が一番の被害者と言ってもいい」


「閣下……っ」


「タイミングを外してしまったのは残念だったけれど、せめてキチンと動いたことを喜ぼう」


 イングリッドは目を瞑り、再び深々と頭を下げた。

 床には、ポツポツと涙が落ちていく。


「さて、じゃあ事態の収集をつけようか。発動しちゃったのは仕方ないとして、未だに紅扉宮が閉じてないんだ。

 学生君達が、怒られると思って立て篭っているのか、それとも何かトラブルがあったのか……。

 何にせよ、閉じ込められた一般学生に被害が出る前に、速やかに術式を解除しないといけないね」


 学園にはまだ利用価値がある。

 ここで学生に大きな被害を出し、警備体制を大幅に強化されるのは、組織にとっては避けたいところだ。


「では、直ちに学園に向かい――」

「待って待って。一度鏡を見ておいで、イングリッド。凄い顔してるから。君は今日は早退だよ」


「で、ですがっ!」


 首領から許しを貰えても、イングリッド自身は、やはり責任は自分にあると思っている。

 何としても自分で尻拭いを、と焦るイングリッド。

 対して首領は、そんなイングリッドに任せるのは危険と判断した。


「我々の活動は危険なものだ。メンタルは万全でないとね。それでなくても、君は最近張り詰めているように見えるし……いい機会だから、美味しいものでも食べて、リフレッシュしてきなさい」


 イングリッドは、まだ納得ができないと言った表情だったが、これ以上食い下がるわけにもいかず、『承知致しました』と、首を縦に振った。

 首領は、そんなイングリッドの様子に苦笑を浮かべつつ、横で聞いていた秘書の男性に指示を出す。


「ヴァルハイトかアシュレイ、見つかった方に、学生達を止めるよう伝えておくれ。あと、ガウリーオもかな。彼には、脱出の時の揺動を頼みたい」


「かしこまりました」


 背が高く、細身な壮年の男性。秘書と言うより執事といった感じの彼は、優雅に一礼し、部屋を後にした。

 続いて、イングリッドも退室。


 1人になった首領は、彼等が去った扉を眺めながら、ボソリと呟く。



「やはりアシュレイか……」



 首領は聞き逃さなかった。

 アシュレイの名を出した時、イングリッドが小さく息を呑んだことを。



「幹部の楽しみを奪うことは、したくないのだけれど……」



 ――あまり悪戯が過ぎると、私も放っておけなくなるよ?


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