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第12話 労働用強化人間『ワークマン』

 ――全人類の集団自殺。アールヴァイスは、そのために作ったんだ。



 ゼフが語った目的は、『世界征服』が無邪気な子供の戯言に聞こえるほど、恐ろしいものだった。

 たった一言を頭で整理しきれず、アリア達の時間が凍りつく。

 大部屋に響くのは、死に争うアシュレイの苦悶の呻きのみ。



『えと……雰囲気出した手前、無反応は居た堪れないんだけど……ほら、『何故そんなことを!?』とか、『な、なんだってー!?』とかさ……何かない?』


「何故そんなことを?」


『グレン君、聞いてくれたのは助かったけど、できれば、もうちょっと興味ある感じで……いや、うん、もういいです……』



 シリアスは限界とばかりに、おどけた様子を見せるゼフ。

 そして、まるであの日の授業の続きとでも言うような語り口調で、狂気に堕ちた理由を語り始めた。



『私……あぁ、『僕』に戻していい? 格好つけるの疲れちゃった。僕が神代人と現代人、遡っては先史文明人とのミッシングリンクを研究しているって話はしたよね?』



 現代人と先史文明人にも色々と違いはあるが、それでも地続きであると言える程度には、近い生態を持っている。

 対して、その先史文明人と、神代人の違いは大きい。


 魔法の存在。神代でも、後期には霊子力は認識されていたが、個人が何らかの魔法を使うという文献は、創作物以外では見つからなかった。


 身体能力。限界まで鍛えた神代人が倒せるのは、どれだけ才に溢れた者が身命を賭しても熊一匹。

 対して先史文明人や現代人は、極限まで鍛えた者なら、水中でシャチ5匹を軽く捻ることができる。


 そして、神代人には施せなかったという、呪印の存在。



『実はね、もうかなり前に見つけてしまったんだ。その『ミッシングリンク』を。現人類のルーツを。アリアさんもわかるんじゃないかな? 君は呪いの城で、イングリッドと同じものを読んだはずだよ』



 ゼフの問いかけに、アリアが表情を硬くする。


 呪いの城で実験資料を読んだ時から、一つの想像は頭に浮かんでいた。

 だが、あまり気分のいいものではないため、敢えて考えないようにしていたのだ。


 神代人に比べ、圧倒的な身体能力。

 自身で魔法は使えずとも、認識し、科学としては利用していたという調査結果。

 そして、同一のものであることは、もはや疑い用もない『呪印』と『隷属回路』。


 導き出される答えは1つ。




「…………ワークマン」


『そう、残念ながら正解だ』



 ゼフの口調は相変わらず穏やかで――



『労働用強化人間『ワークマン』。神代の人類が、奴隷として使役するために作った『人間もどき』。それが、私達のルーツなんだ』



 だが、込められた感情は、とても暗く、重苦しい。



『悲しいじゃないか。僕達の体には、生態には、進化には、何の浪漫もなかった。ただ隷属するためだけに生み出された、人造人間だったんだよ。呪印は施すんじゃなくて、最初からあったものを、外から機能を限定して起こすだけなんだ。

 そうそう、ワークマンには、主に男性の性処理を目的とした亜種もあったんだけど……不思議に思ったことはなかったかい? 男性に比べ、女性は容姿が整っている人の割合が、非常に多いことを』



 止まらない。ゼフは溜め込んできた感情を吐き出すように、言葉を紡ぎ続ける。

 後半は、その『容姿が整っている』側のアリアやイングリッドなら、顔を顰め、身震いするような話だろう。

 だが、少なくともイングリッドの体が震えているのは、沸々と湧き上がる怒りからだ。



「嘘だったと……言うのですか……?」


『嘘?』


「メルヴィを救うと言ってくれたことです! それに、あの貴族のことだって……叶えるつもりなんて、最初からなかったと……! 全て、屍の山に埋めてしまうつもりだったと……!」



 イングリッドの怒りは当然だ。彼女はそのために、犯罪組織の一員として生きることを選んだのだ。

 メルヴィにも、二度と会わない覚悟で。


 ゼフがその願いを踏み躙るつもりだったのなら、とても許されることではない。

 だが、怒りをぶつけられゼフは、『考えもしなかった』とばかりの、驚きの顔を見せている。


『そんなことはないよ、イングリッド。叶えるさ、どちらも』


「え……?」


『リッカードの坊やは、出来るだけ苦しんで死んでもらう予定だよ。希望するなら、君の目の前でやってもいい。メルヴィさんを治せる医者も、全力で探す。できることなら、2人手を取り合い、穏やかに人類の終焉を迎えてほしいと、僕は思っているよ』


「な……あ……っ」


 ゼフの言葉には、騙された愚か者に対する嘲笑の色は一切ない。

 本当に、イングリッドとメルヴィの2人を思い、可能な限り彼女達の希望が叶えられるように尽力する、そんな意志が篭っている。


 その上で、他の人類と平等に、死を与えようとしているのだ。

 あまりに異常な精神性に、イングリッドは二の句が継げなくなってしまった。



「ゼフ先生……」


『お? アリアさんも、何か聞きたいことがありそうだね』



 露わになった狂気に慄きながら、アリアが一歩、二歩と前に出る。

 対するゼフは、会話に応じてもらえたことに、本当に嬉しそうな笑みを浮かべる。


『いいよ。お悩み相談室、大聖堂バージョンだ。何でも答えちゃおう』


「……そうやって、私達の悩みを聞こうとしたのは何故ですか!? 最後には、滅ぼしてしまうつもりなのに……!」



 ゼフは、アリアの悩みを真剣に聞いていた。

 リーザやアネット、他の生徒達から聞いた印象も変わらない。


 多少冗談めかしたりするところはあれど、ゼフは生徒達と真摯に向き合っていたはずだ。

 とても、自分が纏めて死を与えようとしている相手にすることとは思えない。


『後悔をしてほしくなかったんだよ。『どうせ終わってしまうなら、もっとやりたいことがあったのに』と。君達の未来を奪ってしまう代償には、とても届かないけどね』


「あ……っ」




 ――とりあえず、そのクラスメイトの男の子と、キスしちゃおうよ。




 お悩み相談の記憶が、アリアの脳内で蘇る。


 思えば、相談に対するゼフの答えは、どこか『急がせる』ようなものだった。

 それは、悩みを告げにくる学生達に、あまり時間が無いと思えばこそのアドバイスだったのだ。


 残された短い時間を、できる限り悔いなく過ごせるようにと。



『グレン君はどうだい? 君は聞きたいことは無さそうだけど、言いたいことくらいは――』

「がああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」



 次の話し相手をグレンに求めたゼフだったが、誘いの言葉は、別方向からの叫び声に遮られた。



 全員が視線を向けるとそこには、両腕をだらりと下げ、壮絶な笑みを浮かべるアシュレイ。


『凄いね、完全に跳ね除けたのかい? 博士に伝えとておかないと』


「げほっ! がほっ! ふっ、ふふふっ……許さない……許さないわよ、ゼフ・ディーマン……!」


 顔面を狂気に染めたアシュレイは、自分が満身創痍で、周りは敵だらけだということも忘れ、スクリーンのゼフを睨みつける。




「私を隷属させようだなんて……絶対に許さない! 必ず見つけ出して、生まれてきたことを後か」



 ――ドスッ。






「い……?」





 憎悪を撒き散らしていたアシュレイの口が、その全身ごと動きを止める。


 不思議そうに見下ろした胸元には、楔のように打ち込まれた――



 ――真っ白い突撃槍。



「がは……!」



 胸と口から大量の血を噴き出し、床に倒れ伏すアシュレイ。

 もがくように前に手を伸ばし、表情を失った顔を上げる。

 アリア達も釣られるように、いつの間にか現れていた『最悪』をその目に映した。





「イングリッド裏切ってるじゃん。福音のテストも失敗してるし……ホント締まらないね、神父様」



『いやぁ、耳が痛いね。でも、こうやって君が後始末をしてくれるから、何も心配はしていないよ』



「大人が子供に尻拭いさせないでくれる?」



『まぁまぁ、そう言わないで』



 4人の瞳が映すのは、槍と同じ真っ白いコートを羽織った、12歳前後の中性的な少年。

 そして、その顔から放たれる酷薄な笑みを最後に、アシュレイの瞳は何も映さなくなった。




『残りの子達も頼むよ――ジャン』




 ◆◆




 戦いの喧騒の止まぬ大聖堂前。

 各部隊の情報が集まる本陣に、不審な来客が1人。



「そこのお方。メイド……メイド? とにかく、こんな場所に、何か御用でしょうか?」



 本陣で主人を待つアネットの声に足を止めたのは、褐色の肌に、銀髪を二つ結びにした、髪で片目を隠した闇人やみびとの女性。

 メイド服と思しき装いだが、その胸元は豊かな谷間を見せつけるように大きく開いており、スカート丈は歩けば中身が見えるほどに短い。


 どちらかと言うと、娼婦のコスプレのような出立ちをした彼女は、服装とは不釣り合いなほどに鋭い眼光をアネットに向ける。



「貴女は、アネット様ですね? 当主から連絡は行っているはずなので、ご確認いただけますでしょうか」



 その手に持つのは、先端に緑の宝石の刃が付いた、槍とも杖とも付かない、だが圧倒的な存在感を誇る何か。






「主人の命により、応援に参りました。グランツマン家の者です」



 ――グレンの実家の変態メイド、参戦。



 ワークマンの性処理個体ですが、女性用のイケメン個体も存在したので、美少女ほどではないですがイケメンも多いです。

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