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第6話 最終決戦になると普段は私服で戦う奴も一張羅を着てくる

 時は数分前。レオンハルト達がアールヴァイスとの交戦を開始した直後まで遡る。



「青い信号弾……殿下達が戦闘を始めたわね」


 空に広がる青い煙に、アリアが緊張感を帯びた視線を仲間達に向ける。



「いよいよですわね……!」


「フィオナ姐さん達が全滅する前に、さっさと行くか」


「グレン君。貴方の心臓、何でできているの?」



 本拠地突入を前にして、近所に買い物に行く程度の様子のグレンに、アリアが感心を通り押して呆れた視線を送る。


 本日のアールヴァイス本部襲撃作戦は、フィオナのフリをしたローシャ、第三騎士団を装った第七騎士団、その他取り敢えず集めた新米の兵士たちとD級以下の傭兵達による、ハリボテの200人を第一陣として始まった。

 そして、第一陣の接敵を合図として、本命の投入となる。



 その数、1,200人。


 主力である本物の(・・・)フィオナと第三騎士団、一定以上の戦闘経験を持つ兵士に、C級以上の傭兵達が、学園都市各地の隠し通路から一斉にアールヴァイス本部に雪崩れ込む。

 フィオナを除く第三騎士団の主力は、正面玄関の敵を背後から強襲し、そのまま正面の敵を引きつける。

 そして、アリア達を含めた残りの突入組の役目は、本部内に突入しドミネートフィールドを停止させることだ。



 諜報員が命の引き換えに持ち帰った情報によると、フィールドの発生方法は2パターン。


 1つは特殊な魔導具と、それを扱う訓練を受けた『結界班』というスタッフによるもの。

 効果範囲が狭く、扱える人材も少ないが、場所を選ばす発生させられるという利点がある。


 怪人との戦闘時、どこにいても発生したフィールドは、こちらだろう。



 もう1つは、大量の術式と、核になる設置型の魔導具による広域展開。

 2度に渡り学園高等部校舎を包んだフィールドは、こちらによるもの。


 そして今、アールヴァイス本部にて、上層の大聖堂まで包む規模で発生しているフィールドも、後者の設置型広域展開だ。


 つまり、核となる魔導具さえ破壊してしまえば、このフィールドは停止されられる。

 フィールドを停止させ、全員、特に第三騎士団の騎士達が本来の力を取り戻せば、例え複数の怪人がいたとしても本部の制圧は難しくない。

 首刈り姉妹の様な騎士団のトップクラスは、一人一人がシャイニーアリアや、アールヴァイスの幹部と同等の力を持っているからだ。



 そして、最大の障害たる『正義』のジャンパールを抑えるにも、フィオナが全力を振るえるようになる必要がある。

 本人曰く、『それでも1人では時間稼ぎがやっと』と言うことだが……。



「じゃあ、行くわよ! グレン君は目を閉じててねっ! ホーリーライズ!」


「私は見ていても構いませんが……エクスキューション!」



 アリアとリーザが、それぞれの魔導具の起動コマンドを叫ぶ。


 2人の衣服が光となって弾け、グレンじゃないと見逃しちゃうくらいの一瞬だけ、どんな宝物よりも貴重な、生まれたままの姿を晒される。

 アリアの光は七色のリボンに、リーザの光は光沢のある赤いベルトに変わり、その体を包み込んだ。


 七色のリボンがノースリーブの真っ白いレオタードに、赤いベルトがバニーガールのような、肩紐のない赤いレオタードと、灰色のタイツに。

 肌に張り付く衣装に、2人の豊かなボディラインが露わになる。


 そこからアリアの手足が、白地で口に紺の二重線が引かれた長手袋とニーハイソックスに包まれ、首回りには紺のセーラーカラーと大きめの赤いリボンが出現する。


 リーザは上から、黒い羽付き帽子、赤いアイマスク、袖なしのジャケットにロングブーツを装着し、馬の耳と尻尾の色を、ウサギのような白に変え変身完了。


 アリアも――



「んあぁぁっ!」



 レオタードとソックスがキュッと縮まり、締め付けを増して変身を終えた。



「うぅぅっ……最後のは、何の必要が……っ」


「レヴィエムの遺産に、意味を求めるのは無駄というものですわよ。模倣を尽くしたバニフリックも、終ぞ理解できなったようですし」



 変身を終えた2人が、グレンに向き直る。


 アリアは恥ずかしそうに、腕で体を隠しながら。

 リーザは腰に手を当て、誇らしげに胸を張って。


 なんとも対照的な2人にグレンが苦笑いをしていると、まだ顔を赤くしているアリアが、一つ咳払いをして声をかけて来た。



「で、今日はグレン君もやるんでしょ?」


「あぁ。せっかくのパーティなんで、オシャレ着持ってきた」



 ニヤリと笑うグレンの現在の姿は、黒い全身タイツに白マント。

 中々に奇抜なスタイルだが、そもそもぴっちりなシャイニーアリア、パニッシャーと並び立つと、意外と違和感が無い。


 とは言え、主にシャイニーアリアを見て股間が盛り上がり始めているので、やはりそのまま戦うというわけにもいかないだろう。

 グレンは、大きな黒い金属の塊のようなものを掲げ、『オシャレ着』を着込み始めた。



「ブレイズグリフォン、起動(ウェイク)



 塊が弾け、バラバラのパーツとなった金属片が、次々とグレンの体に張り付き、その身を守る鎧に姿を変える。


 男の変身なんで、一瞬で完了。


 その姿は全身鎧にしては相当にスリムで、神代の創作に出てくる、サイボーグやメタルヒーローに近い。


「グレン君……これ、何……?」


 変身を終えたグレンの雰囲気に、アリアとリーザが息を呑んだ。

 実のところ、タイツマントの時点でも唯ならぬ雰囲気は感じていたのだが、完全武装が放つ存在感は、その比では無い。


「いいだろ? 『魔王具』だ」

「「なっ!?」」



『魔王具』


 その名の通り、魔王種の牙や鱗を素材にした、最高峰の武具である。

 魔王種は、討伐前に体から切り離した部位以外は光となって消えるため、1体から作れる武具の数は、その巨体に対してあまりに少ない。


 魔王具の全身鎧など、アリアの父であるランドハウゼン皇王ですら、手に入れることは不可能だ。

 しかも、恐らくはマントと全身タイツも、同じ魔王から作られたものだろう。

 更に言うなら、今回初めて持ち出して来た剣……鷲の意匠が施されたそれも――



(グランツマン少将閣下には、それが可能だと言うの? もしくは、関係の深いギルドや帝国から借り受けた? それとも、まさか――)



 アリアの脳裏をよぎるのは、唯一、一個人で魔王具のフル装備なんてものを所持している可能性のある人物。

 ランドハウゼンの天空王討伐の際、大量の魔王素材を譲り受けた、グリフィス特務隊――その隊長。



 彼ではない『はず』の『グレン様』。





 ――グレン・グリフィス・アルザード。



「アリア?」

「どうなさいまして?」


「あ……ごめんなさい、びっくりしちゃって」



 2人の声が、思考の海に沈んでいたアリアを揺り起こす。

 アリアは自身で両頬を叩き、気合を入れ直した。


「急ぎましょう、フィールドを停止させるまでは、私達が本命なんだから」



 今回の作戦の第一目標、ドミネートフィールドの停止は、7割方アリア達の活躍が期待されている。

 こんなところで立ち止まっていては、冗談抜きで突入組が全滅する可能性もあるのだ。


 隠し階段を降り、長い通路を駆け抜けるアリア達。

 照明に薄く照らされた通路の先では、重そうな鉄の扉がその行手を阻む。



「壊すわ! ルミナスハンド、ボール!」


 アリアはルミナスハンドをボールに換装。

 雨のような光球の連打が、扉を吹き飛ばした。


 速度を緩めず扉の先へと駆け込むと、教室程度の大きさの部屋に、狼狽える黒ずくめが10人強。

 入口付近に倒れているのは、アリアのボールで不意打ちをくらった者達だろう。


 そして部屋の最奥、さらに奥へと続く扉の前には――




「ふははっ! 何たる僥倖、何たる宿命……そう思わんかっ! グレン!」



 幹部、『斬裂』のヴァルハイト。

 グレンとの再戦を勝利で飾るため、更に怪人化を深め、得物を細身の長剣から、身の丈ほどもある大剣に持ち替えた。


「私は、ついに究極の力を手に入れたぞ! 今日こそ、貴様と私の決着の時!」


 ヴァルハイトの全身が膨れ上がり、腰回りを残して服が弾け飛んだ。

 現れたのは、兎の脚、熊の体、ゴリラの腕、手足と頭部は以前と同じ狼で、その全てをサイの外皮で包み込む。

 今や、身体能力だけならジャンパールにすら迫る力を得た、合体怪人キメラ男が咆哮を上げる。


 対するグレンは、その威容に怯むどころか、顔色一つ変えずに速度を上げた。

 まるで、『この程度の怪物など、見慣れている』とばかりに。


「貴様……! 舐メルナアアアアァァァァァッッッ!!!」


 全力で大剣を振り下ろすヴァルハイト。

 空気を引き裂く轟音が響き、空間が分たれたそこに――グレンの姿はない。







「前より弱くなってんぞ」


「ハ?」




 声はヴァルハイトの背後から。

 サイをベースに強化された、堅牢なはずの外皮は、肩口から腰にかけて深々と切り裂かれていた。




 キメラ男の全身は、確かに強大な力を持っている。

 だが各部位それぞれの力は、見た目のチグハグさそのまま、一切繋がりのないバラバラなものだ。

 一個の流れとして纏まらない力など、全身フル装備で、得物を相棒に戻したグレンの前では無力も同然。



「まぁ合体怪人って、そんなもんだよな」



 グレンの意識から、溶けるようにヴァルハイトの存在が消えていく。


 『斬裂』のヴァルハイトとグレンの最終決戦は、互いの視線すら合うことなく幕を閉じた。


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