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第2話 アリアちゃんの告白大作戦

「星華祭の夜、パレードが終わったら……私、告白する」



 フルーツパーラーでの『あーん』祭りの翌日、アリアは自室に友人女子4人を集めて、こう宣言した。

 突然の決意表明に、リーザが満足そうに笑い、アネットが『まぁっ』と喜色を浮かべる。


 そして、エルナとロッタは――



「「うぅぅっ……あぅぁぅぁぅっ……」」



 泣いた。


「なんでっ!?」


「あの意地っ張りだったアリアが、『自分から告白する』なんて言うようになったと思うと……ぐすっ!」


「すびびっ……何年経ってもクソ雑魚メンタルで、実は凄く心配していたんだけど……よかったっ……本当によかった……!」


「ロッタがちょっと酷いっ!?」



 深い愛を固めて作った鈍器をフルスイングするようなロッタの言葉に、アリアが涙目になる。

 でも実際メンタルは未だクソ雑魚なので、全く、一切、反論はできない……が、覚悟を決めたアリアちゃんはそれでも立ち上がる!



「そぉゆうわけだからっ!」


 ゴミクズなメンタルを、溢れ出る恋する乙女パワーで強制回復させ、涙目もそのままに、机を『バァンッ!』と叩きつける。


「まずは私が、ミジンコなりに考えた作戦を聞いて!」


「今日のアリア様は、凄まじいですね」


「恋は人を変えるものですわ。(わたくし)も、レオン様と出会ったばかりの頃は……ぽっ」


「「うぅぅっ……立派になって」」



「いいから聞いて!!」


 バァンッッ!!




 では、ミジンコアリアちゃんが考えた作戦を説明しよう。



 基本的には海の時と同じく、まずは視覚に訴える。

 星華祭のパレードで踊る姿をグレンに見せつけ、視線を奪うのだ。


 衣装のレオタードは、青地に金の装飾が施された豪華仕様で、フレアスカート状のフリル(股『上』5cm)が付いている。

 上半身はノースリーブのタートルネックで、胸の辺りが上から下まで大胆に開いた、学生が衆目に晒すにしてはかなり刺激的な衣装だ。


 ありがたいことに、アリアは今年もフロート上のステージ配置をいただいているため、存分にその姿を見せつけられる。

 他の客にも見られてしまう恥ずかしさは、どうにか耐えるしかない。


 例年通りなら、踊り始めてしまえば競技スイッチが入って、アリアもその辺りの視線は気にならなくなるのだが、今年はそうもいかないだろう。

 パレード中から、グレンに視線やら手振りやらで演技を超えたアピールをするため、完全に競技モードに入ることができないからだ。


 だが、受け入れるだけの価値は十分にある。



「あの衣装、グレン好きそうだもんね……」


「来年はデザインを変えるらしいから、間に合ってよかったわ」



 パレードが終わったら、ついに告白フェーズだ。


 この時点で、グレンはアリアのレオタード姿と全力の演技で、少なからず悶々としているはず。

 そんなグレンをどこか、花火の見える静かな場所に呼び出し、アリアはパレード衣装のまま登場。

 距離を詰め、グレンの視界を自分でいっぱいにして、他のことを考えられなくしたまま、勝負を決める。




「どうっ!?」



 頬を上気させ、興奮が隠しきれないといった様子で、友人達を見回すアリア。

 表情はかなりドヤっている。



 対する少女達の反応は――





(((((うっす)!!!! そして(こっす)!!!!))))


 大興奮で語った割に、『呼び出して告白』という、どシンプルな計画。

 そして一世一代の告白を、色仕掛けで乗り切ろうという小賢しさに、その場の全員が絶句する。


 やはり、ミジンコはミジンコにしかなれないのだろうか?

 だが、アリアはやりきった感満載の顔で、返答を待っている。



 ――誰かなんか言え。



 そんな緊張が高まる中、エルナが動いた。



「随分とこう……直球な計画ね?」


「いいところに気が付いたわね。シンプルなのには理由があるの」



 計画がシンプルな自覚はあったらしい。

 エルナを始め、全員が少しだけ安堵の表情を浮かべる。



「色々やろうとはしたんだけど……当日パレードが終わって、いざその時になったら、私、きっとパニックを起こすわ!」


「「「「確かに」」」」



「だからね、その時の私の頭のレベルで実行できる手順は、そのくらいで限界なの!」


「「「「なるほど」」」」



 涙ぐましい自己分析の結果だった。

 アリアは、いざという時の自分のポンコツっぷりを客観的に評価して、それでも出来ることを最大限にやろうとしたのだ。


 それは、セクシー衣装での色仕掛けも計画に入れるだろう。

 何せついでに、『着替える』という手順を1つ減らせるのだから。



「着替えないのでしたら、汗対策は必須かと思われます」

「あ゛っ!」


「まぁ、アリアの汗は、私の鼻でもあんまし臭わないけど……念のため、当日までにもうちょい調整するわよ」


 日頃の運動の成果か、それとも下腹への活発過ぎる代謝が今回だけは味方したのか……アリアの汗は、犬獣人のエルナの鼻をもってしても、ほとんど悪臭を感じないレベルにさらっさらだ。

 十分、至近距離での告白にも耐えられるだろう。むしろ、色仕掛け効果は上がるかもしれない。



「化粧落としも必須ですわよ。ステージ用の厚化粧がゼロ距離でくるのは、少々圧が強すぎるというものです」

「ぜぜぜゼロ距離っっっ!!?!?」



 ステージ用の化粧は、遠距離からでも目立つように、マダムも真っ青の超絶厚化粧だ。

 それを、汗で流れないようにガッチガチにコーティングする。

 化粧落としには、それなりの時間が取られるだろう。


 が、アリアちゃんは『ゼロ距離』という単語に"mouth-to-mouth"的な何かを想像してしまい、それどころではない。



「あと、目的地までの間に、トイレがあるかの確認も忘れないようにね。ここぞと言う時に『いつもの調子』じゃ、告白前に一線越えかねないよ?」

「ぐふっ!?」



 心を鬼にして、アリアのメンタルにボディブローを入れるロッタ。

 だが、必要な痛みだ。



 なにせ彼女はアリア。



 『聖水皇女』アリア・リアナ・ランドハウゼン。



 恥辱と汚辱と屈辱の神に愛された、過酷な運命を背負った女。



 こんな一大イベントでトイレ対策を怠ろうものなら、待っているのは、目を覆わんばかりの悲劇しかない。



「あ、そういやさ、『決戦場』の目星はついてるの?」


「よく聞いてくれたわ、エルナ…………みんな助けて下さいっっ!!」



 華麗に後方宙返りを決め、着地と同時に膝を折り、床に手をつくアリア。

 この時代の文化の礎となった、神代の一国家『日本』の美しき文化、"DO GE ZA"である。


「花火が見える場所なんて、もう1ヶ所も空いてませんでした……!」


「だと思ったよ……」


 星華祭までもう、1週間を切っている。

 目ぼしい場所は、国、ギルド、有力貴族に確保され、アリアが一騎打ちに使えそうな場所は、残念ながら残っていなかった。

 今日の作戦会議の最重要項目も、この告白場所の確保への協力要請だ。



「仕方ありませんわね。全員で探しましょう。念のためお聞きしますが、事情を話すのは……?」


「このメンバー以外にはちょっと……」



 アリアの声が小さくなっていく。

 だが、これは仕方がない。


 『ランドハウゼンの姫が、男に告白するために特等席を探している』なんて噂が立ってしまうと、その影響はアリア個人の範疇を超えてしまう可能性があるのだ。


「当然ですわね。ですが、そうなると貴族の方は厳しいですわね。フラウディーナ家と付き合いのある家は、当たってみますが……」


 恐らくは、『穴場』を探すしかないだろう。

 だめ元で貴族方面を回るリーザ以外の4人で、街を4分割しての大捜索だ。



「盛り上がってきたねぇ」


「仕方ない、たまには私も足を使うよ」


「アリア様は練習もありますので、私とエルナで少し多く持つことにしましょう」



 状況は良くない。が、少女達の目はやる気に満ちている。


 この泣き虫で恥ずかしがり屋な友人の、精一杯の勇気を振り絞った、ありきたりな告白作戦。

 何としてでも実らせてやろう、という気概に溢れていた。



「みんな……ありがとう!」


「次のプチ夜会は、アリアの奢りだね。じゃあ、まだ日もあるし、今日からでも始めますか!」


 勢いよく立ち上がるエルナ。


 4人もそれに続き――



 ――コンコンッ。




『失礼致します。アリア皇女殿下は、御在室でしょうか』



 突然の来客に、早々に出鼻を挫かれることになった。


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