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第1話 辛勝? 惜敗? 聖涙天使、第1話から早くも大ピンチ!!

 日が沈み、仕事帰りの人々で賑わい始める繁華街。

 街頭に照らされた大通りに、喧騒を切り裂く鋭い光が走る。



「はぁっ!」

「ギャイッ!?」


 光に打たれた人影がよろめくと、周囲を取り囲む野次馬が、一斉に歓声を上げた。



 喧嘩――ではない。



 少なくとも当事者の2人は、繁華街のど真ん中で喧嘩に興じるには、少々異質が過ぎる様相だ。

 光に打たれた方は、そもそも人間ですらない。


 裸の上半身は深い体毛に包まれ、両手の爪は鋭く尖っている。

 首の上に乗っているのは、爛々と目を光らせる狼の頭。

 まさに、物語から飛び出した『オオカミ男』そのものだ。



「その頑丈さ……厄介ね。もうっ、こんな時に……!」


 そんな化け物に立ち向かうのは、まだ10代後半程度の、黒髪を肩で切り揃えた猫獣人(ねこじゅうじん)らしき少女。

 目元を覆う半透明のバイザーの奥から、大きく少し吊り上がった、やはり猫を思わせる瞳で化け物を射抜く。


 オオカミ男ほどではないが、彼女の装いもまた、一般的なものからはかけ離れていた。


 その豊かな曲線を描く胴体を包むものが、白いレオタードのみなのだ。

 しかも、少しサイズが小さいのか、肉付きのいい脚と尻が、窮屈そうな食い込みを見せる。


 それに加えて、手脚は白地の長手袋とニーハイソックス、首回りには紺のセーラーカラーに赤いリボン。

 そしてレオタードの下腹には、羽の付いた滴の紋章が、煌々と金色の光を放っている。


 その出で立ちはまるで、女児向けの創作物に出てくる魔法少女のようだ。


 もっとも、女児向けのヒロインの衣装はもっとフリフリしているし、靴とスカートも身につけているが。

 惜しげもなく、脚とボディラインを晒す彼女の姿は、どちらかと言うと『大きなお友達向け』のヒロインだ。


 実際、野次馬の男の大半は、彼女の体にしか目がいっていない。


「さ、最低……! 危険なんだから、離れてよ……!」


 そんな男達の視線に、少女はバイザーで隠した表情を歪め、頬を赤らめる。

 どうやら、この露出度の高い衣装は、彼女の意志で選んだものではないようだ。


 対してオオカミ男の方は、周囲の反応を自分への敵意と受け取ったようで、ギラリと光る目を少女に向ける。


「グルルル……っ!」


「やっぱり、理性はないみたいね……じゃあ――んっ!」


 駆け出そうとした少女だったが、突如小さく呻いて、動きを止めた。

 そして、苦しそうに下腹の紋章の辺りをさすりながら、腰をブルっと震わせる。


 体には一切の傷がないので、体調でも崩してしまったのだろうか。

 少女は気丈にオオカミ男を睨みつけるが、その目はどこか焦りを帯び、何かを堪えるように、太股を擦り合わせている。


「もう、時間が……くぅっ! い、行くわよ!」


 焦りに突き動かされるように、少女はオオカミ男に向けて走り出した。

 どうやら、短期決戦に持ち込むことを決めたようだ。


 彼女の手に握られているのはフェアリア――神代では新体操と呼ばれていた競技で使うリボンだ。

 少女が手元を微細に動かせば、光の帯はクルクルと幾つもの円を描き、彼女を追いかける。

 オオカミ男も、両腕を広げて少女を迎え撃つ。


 交差する両者。


「ふぅぅっ!」


 オオカミ男が爪を振り下ろし、少女はそれを、体を大きく前に倒して回避。

 そのまま低空宙返りで背後に抜け、着地と同時にくるりとターン。

 すると、手にしたリボンが大きな円を描き、オオカミ男の背中を強く打ち付けた。


「グガァッ!?」


 背後からのダメージに、大きく仰反るオオカミ男。

 少女は体勢を立て直す隙を与えず、全身を使った『演舞』で、勢いよくリボンを打ち込んでいく。


「ギャイッ! ガッ!? グギャッ!」


「うっ! くぅっ! た、倒れてっ、早く……!」


 リボンによる踊るような連続攻撃に、手も足も出ず追い込まれるオオカミ男。

 だが、圧倒的に優勢なはずの少女の方も、一撃を見舞うごとに苦悶の声を上げる。

 少女が呻く度に下腹の紋章が明滅する様は、まるで差し迫った危機に警報を鳴らしているようだ。



「ガァァァァッッ!!」


 そんな少女の焦りを隙と見たのか、オオカミ男が反撃に出た。

 少女より一回り大きい体格を活かし、強引にリボンの檻をかき分ける。


「くっ!」


 左右から振り下ろされる、鋭い爪。


 少女はそれを滑らかなバク転で躱し、同時にリボンを上へと放り投げる。

 そして、爪を振り抜き、一瞬動きを止めたオオカミ男に、蹴りの連打を叩き込む。



「んんっ!? あっ、これ、だめっ! ああぁっ!?」


 リボンに比べて強い反動に、少女の悲鳴は更に大きく、切迫したものになる。

 傍から見れば、格下を手球に取っているようにしか見えないのに、その表情は、絶体絶命の危機を迎えているかのように、クシャクシャの泣き顔だ。

 だが、目に涙を浮かべながらも、懸命に体全体を回して放った遠心力たっぷりの蹴りは、体格で大きく勝る狼男を押し返す。


 このままでは負ける――と、オオカミ男が思ったかはわからない。だが、危険は十分に感じたのだろう。

 オオカミ男は両腕で頭部を庇い少女の蹴りに飛び込み、その牙を突き立てんと、顔面めがけて食らいつく。


 だが、少女は既に、そこにいなかった。



「ざ、残念だったわねっ!」


 オオカミ男が、自身の腕で視界を塞いでしまった一瞬を突き、少女は大きく飛び上がっていた。

 月を背にした少女が、夜空に手を掲げれば、そこに先程投げ上げたリボンがスポッと収まる。


「てぇぇぇぇいっ!」


 少女は空中で一回転。

 オオカミ男の頭部に、激しくリボンが打ちつけられる。


 ここまでのダメージに加え、頭部への一撃で大きくよろけるオオカミ男。

 対する少女は、脚を揃えた綺麗なフォームで、敵の背後の着地した。



「んはあぁっ!?」


 だが、着地の衝撃がまた致命傷になったのか、大きくブルルっ震えて、膝をくの字に曲げてしまう。


「だ、だめっ、漏れっ……くぅぅっ! く、くらいなさいっ!」


 折り曲げた脚をなんとか直立に戻し、リボンを振りかぶる少女。

 リボンはオオカミ男の全身に巻きつくと、その光を更に強くする。




浄化(プリフィケイション)ッッ!!」




 少女の叫びと共に、オオカミ男の全身から光の粒子が舞い、徐々にその体が崩れていく。

 ふさふさの体毛も牙も消え去り、光が止んだ後、そこにはどこにでもいるような、普通の中年男性だけが残った。


 少女の勝利に、野次馬達が歓声を上げる。

 だが、当の少女には、その歓声に応える余力はなかった。



「お、終わった……あああぁぁぁっ……!」


 少女の膝が、ガクッと折れ曲がる。

 敵を倒して気が緩み、いよいよ心身共に『不調』に屈しそうになってきているのだ。


「こ、この人を、うぅっ!? だ、だめっ、そんな時間……す、すみません! どなたかっ、この方を、んっ! け、警備隊の詰所にっ……あっ、あっ、あっ!」


 声に宿る切迫感が、ますます強くなる。

 腰が見る見る後ろに引けていき、全身がガクガクと震え出した。


 そして――




「も、もうっ、だめええぇぇぇぇぇっっっ!!!」




 少女は、尻を突き出し、脚を折り曲げた姿勢のまま、バタバタと足を動かして、すぐ隣の店に駆け出した。

 見事勝利をおさめたはずの少女のなんとも情けない姿に、酒に酔った野次馬達はゲラゲラと笑い、無責任に囃し立てる。

 少女は人混みをすり抜けながら、『勝手なことを』と唇を噛み締めるが――



「腹でも下したのかぁっ!?」



 その中の一つは、決して的外れではなかった。




 ◆◆




 勢いよく開け放たれた扉に、店の中にいた客が一斉に視線を向ける。

 外で戦闘があったというのに、よくもまぁこれだけの客が、店内に残っていたものだ。


 視線の先には、学生服風のレオタードという、背徳感溢れる装いの、妙にスタイルのいいネコ科の獣人らしき少女。



「あっ」


 1、2階合わせて、軽く100を超える瞳の圧力に、少女が気圧され足を止める。



「えと、あのっ……あっ、あぁぁっ!?」


 だが、視線を遥かに超える内からの圧力が、彼女に立ち止まることを許さない。

 ヨロヨロと、頼りない足取りでカウンターに駆け寄る少女。


 頭に疑問符を浮かべる店主の男性に、彼女は消え入りそうな声で、自身の悩ましく、そして切実な願いを告げた。










「……ぉ……お手洗いを……っ……貸していただけないでしょうか……っ」




 少女は、耐えがたい尿意に、襲われていたのだ。



「ご、ご迷惑なのはっ、承知、していますっ……んくぅっ! で、でも、私っ、あぁぁっ……が、我慢が、限界で……!」


 必死にトイレの借用を願う少女に、店主が鋭い視線を向ける。


 正直言えば、客でもない女にトイレを貸すなど、彼女自身が言う通り迷惑でしかない。

 が、早くに外から戻ってきた客は、彼女が人々を守るため、化け物相手に一人で戦ったと話していた。


 そんな彼女は今、バイザーの奥からボロボロと涙を零し、『もう耐えられない』とばかりに身を捩っている。

 よく見れば、純白のレオタードの股の部分には、小さな黄色い染みができてしまっていた。

 これで『他所に行ってくれ』などというのは、さすがに残酷が過ぎるというものだ。



「左手の奥だ。綺麗に使ってくれよ」


「あああありがとうございますっっ!! ああぁあぁああああぁぁあぁあぁぁぁああぁぁっっっ!!!」



 許可がもらえるや否や、少女は両手で脚の付け根を押さえこみ、トイレに向けて駆け出した。


「ん゛っ! あ゛っ! だめっ、まだっ……ん゛ん゛はぁっ!?」


 少女は何度も腰を震わせ、その度に、レオタードの黄色い染みを広げていく。

 そして、とうとう太股に雫を垂らし始めた少女の憐れな後ろ姿に、店主はため息を吐きながら、静かに掃除の準備を始めた。



「しかし……あんな子が『怪人』とねぇ……」





 ノイングラート帝国、『学園都市』ベルンカイト。

 この街は今、『怪人』という名の脅威に襲われていた。



 ――ガチャッ! ガチャガチャッ!


「えっ!? う、嘘っ、使用中!?」



 人の体に、獣の頭と四肢を取り付けたような彼らは、ただ破壊衝動のまま暴れ回り、人を街を傷付ける。

 人と獣の2つの力を持つ彼らの前に、街の警備兵は成す術なく破れ去り、人々は、ただ逃げ惑うばかりだった。



 ――ドンドンドンッ! ドンドンッッ!!


「す、すみませんっ、早く出てくださいっ! あぁぁっ!? だ、だめ! 早くっ、は、早くぅぅっっ!!」



 だが、そんな時、1人の少女が怪人の前に立ち塞がったのだ。


 白いレオタードの戦闘服を纏った、まだ10代後半にしか見えない、ネコ科の獣人の少女。

 その体が描く豊かな曲線を惜しげもなく晒しながら、美しく、そして艶かしく戦う彼女の姿に、人々――特に男達は――は強く魅了された。



 ――ジュビビッ! ジュビッ! ジュビィィィィィッッ!!


「ん゛はあ゛ぁあぁっっ!!? で、出てるっ! もうっ、出てるんですっ! あぁぁあぁっっ!!? おっ、おねがぃ、もぅだめ……っ……はやくぅぅ……!」



 だが何度倒しても、また新たな怪人が現れ、その度に街は恐怖に包まれる。

 街や国は、未だ有効な対策を立てることができないままだ。




 ――ジョッ! ジョッ! ジョォォォッ! ジョォォォォォォッッ!!



「も゛ぅ……る゛ぁめ゛………も゛れり゛ゅぅ……!!」






 ――ザバァーーーーーーーーーーーッッ!!


「はっっ!!?」




 『学園都市』ベルンカイトの平和は、この猫耳レオタード少女の双肩にかかっていた。



 ――バタンッ! ガチャッ!


 ――バタバタバタバタバタッッ!!



『あ゛はぁっっ!!』



 ブジィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッッ!!!!



『んはああぁああぁぁぁああああぁああぁぁああああぁああぁぁああああぁぁぁぁああぁぁっっっ!!!』



 ビヂャヂャヂャヂャヂャヂャビヂャヂャチャブジィィィィィィィィィィィィィィィビヂャビヂャビヂャビヂャビヂャビヂャジャババババババババババババババババババッッッ!!!

 シュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!



『あっ!? い、嫌っ、声がっ、ん゛ん゛っ! ん゛っ! んむ゛ぅぅぅっっ!! んっ! だ、だめっ! くひいいいぃぃぃいいいぃぃぃいいぃいいぃぃっっっっ!!!!』





 …………何度でも言おう。


 学園都市の平和は、この、猫耳レオタード『聖水』少女の双肩に――



 ――かかっているのだ!!!!


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