ドーナツ戦争
「そこはファッションですわよね?」
「ボクと同じファッションのはずだ」
「そこはワタシたちと同じポンデリングですぅ!あのモチモチ感しか勝ちません!です!」
「ええ、桃奈ならポンデリングを選んでくれるでしょうね」
「早く選ぶのですぅ」
「ふふふ、さっさとわたくしと同じのにしておけばいいのですよ?」
4人に迫られる桃奈。
当然、困惑して答えられずにいる。
「えーと、わたしは特に……あの、チュロスが好きだから!」
そう言う彼女はチュロスを頼んでいる。
「そうやって逃げるのはなしなのですぅ。お、もう一つのドーナツはなんですかぁ?」
「あ、これ?ドーナツボールだよ」
ドーナツボールとは、一つのカップの中にボール型のドーナツが数個入っているドーナツだ。
まるでポンデリングの玉を一つずつちぎったかのようなもの。
「あら、ポンデリングを別けたようなドーナツね」
久玲奈が勝ち目を得たと言うばかりに微笑んだ。
「これでポンデリング派に一票入ったと同じだわ」
「いえ、違いますわ。きっと桃奈はたまたま選んだだけだと思いますわよ?そこにつけ込むのはいけないですわ」
「それだけで、ポンデリングに一票とは行き過ぎた話だな」
「うるさいですぅ。でもポンデリングがリングじゃなくなったバージョンみたいじゃないですかぁ。だから同じですよ!」
「いい加減、負けを認めるべきよ」
「勝利を得るのに焦って決めつけすぎですわ。もう一度桃奈に聞くべきですわ?」
にらみ合う久玲奈と美登利。
そこへ、慌てて桃奈が入ってきた。
「べ、別にわたしはどっちでもいいよ!争わなくていいじゃん!」
「甘いですわね」
フッと美登利が鼻で笑う。
「ここまで勝負させておいてそれはできませんわ」
「あの……別にどっちも美味しいから争う必要なしだと思うけど……」
「ここはしっかりと決めるのですぅ。どっちが好きですかぁ、桃奈?」
「逃げるのはなしよ」
「ボクも答えたから無投票は論外だ」
「あはは……」
4人に迫られて桃奈は仰け反った。
「これって絶対答えなきゃいけない系?」
「もちろんよ」
久玲奈、即答。
「……えー選べないよ……」
桃奈は幅広くいろんなドーナツを買っている。
今日はチュロスとドーナツボールだが、前の日はチョコファッションとフレンチクルーラー。
ハニーディップやストロベリーリングを買うことだってある。
全部好き。だからこそ選べない。
「どうしよう……」
4人の視線に押されて焦っているその時。
丁度、助けの電話というか、どこからか着信音が聞こえた。
「……中断するなですぅ。ってワタシのスマホからじゃないですか!」
驚く水樹。少し悔しげだが電話を取る。
『はーい、もしもし?水樹ちゃんいる?飯川よ』
「飯川さん!?」
電話の主はスタジオにいる、飯川だった。
『今ミスドにいるのかしら?邪魔して申し訳ないわ。でも、水樹ちゃん、貴方はスタジオに忘れ物してるわよ』
「えええ!そんなわけないですぅ……」
『いえ、そんなわけあるわ。水筒忘れてるわよ。いつも忘れ物するんだから、ドジさんね〜』
「……すみません、ですぅ……」
他の4人が笑いを堪えている。
『じゃあスタジオで待っているわ。ごめんね、楽しんでる間』
「ありがとうございますぅ」
ふてくされた顔で水樹は電話を切る。
「まったく、何回目かしら。貴方が忘れ物をしているのは」
久玲奈が呆れたように茶化した。
「う、うるさいのですぅ!い、今から取ってくるですぅ!」
「大変そうですわね。お疲れさまですわ」
慌てて席を立つ水樹に向けて美登利が馬鹿にしたように笑う。
「そのうるさい口を閉じるのですぅ。今、行ってきますぅ!」
差恥で顔を真っ赤にしながらも水樹はミスドから出ていった。
天の助けの中断電話が入ったおかげで、ドーナツ戦争は幕を閉じる。
桃奈はホッと胸を撫で下ろした。
これが、ビューティーフラワーズの5人である。