喧嘩は毒舌が勝つ
いつまでも無視されていた。
だが、祐奈だけは水樹に話しかけていた。
「ねえ水樹ー!一緒に美術室行こうよー!」
「何ですかぁ?別に私は一人で行けますけどぉ?」
「友達といったほうが楽しいってものよ!行くよッ!」
「……仕方がないですぅ」
そうやって半ば祐奈に引っ張られる形で、水樹は一人ではなかった。
まあ、彼女の場合一人でも充分平気でいられると思うが。
それを見た悪事を働く女子、フッた男子の二人は面白くないはず。
案の定、水樹から祐奈を引き剥がそうと祐奈に毒牙を伸ばしていた。
「ねえ、そろそろ蒼井さんに近づかない方がいいよ。あの人、一人でも大丈夫なんだし、何考えてるかわからないし」
だが、祐奈は完全に拒否。
それに苛ついた女子は、放課後に祐奈を質問攻めにした。
幸い、言うこと聞かなければいじめる、などではなかったが、放課後に時間を取られ、「今すぐ近づかない方がいい」と言われるのは祐奈の精神上、あまりよろしくなかった。
だが、祐奈も祐奈である。
彼女は持ち前のポジティブさ、ハイテンションで女子の腹黒さになんて恐れることもしなかった。
が、二人だけの教室、しかも友達の悪口を聞かされ続けるのはやはり、気分が良くない。
──そのとき。
「何してるですぅ。って祐奈はここにいましたかぁ。部活帰りに人影があったから来たのですぅ」
もう日は暮れ始めている。
そのときに、まだいた二人に対して水樹は言い放った。
当然、女子は水樹に食いかかる。
「いきなり来て何よ!貴方には関係ないわ、早く帰ってよ!」
「頭ごなしにうるさいですねぇ。どうせ、ワタシのことでも言ってたんじゃないですか、ですぅ」
「……何を」
「ワタシに対して何を思うのかは勝手ですぅ。でも祐奈を巻き込むのはちょっとモラルから外れてるんじゃないですかぁ?」
その言い方にかちんと来たのか、女子はヒートアップ。
「そもそもその言い方よ!その意味わからない喋り方!あんたがそんな性格で、男子に媚び売って、でも気にしてない顔をして!それが嫌いなのよ!」
「……何が言いたいですかぁ。ちゃんとゆっくり喋るですよ」
「そうやってキャラ作りして!ホントは男たらしの女のくせに、いい顔して!しかも可愛いと来て!フラれてもがっかりしないふりして!つまらないのよ!」
もう、気に入らないことを言い続ける女子に水樹は呆れたように呟いた。
「……そろそろ人の話聞け、ですぅ。ワタシのことも全然外れてますし、何が言いたいですかぁ。落ち着いて言え、ですよ」
だが、女子の言い訳は止まらない。
それにうんざりした水樹は大きく息を吸い込むと、勢いよく喋り出した。
「……やれやれ、黙れ、ですぅ。こっちの言い分も聞こうとしないで一方的に話す、脳なしですかぁ。まるでチンパンジーの脳みたいですねぇ。聞こえないんですかぁー?この声も聞こえてますかぁー?大丈夫ですかぁー?この脳なし脳筋女、ですぅ!」
「……な、んですってぇー!」
女子は青筋をピキッと動かした。
キレすぎて、顔が真っ赤になってしまったようだ。
「……あんたが」
女子は明らかに怒っているが、少しは頭が冷やされたらしく、静かに言う。
「わたしの好きな人を取ったから──」
「別に取ってないですけど?あれは勝手にワタシに告ってきただけですぅ。どっちかって言うと告ってきたから承諾してあげたのに、そこでフって来るのが迷惑なのですよ。何がしたいんだか本当に分からないですぅ」
「……くっ」
それもそうだな、と冷静になった頭で女子は思い始める。
ほぼ、自分の自己満足で暴走してたな、と今更ながら思った。
それを見た水樹は満足げに微笑んで、でも決して追い打ちをかけることなくただ見つめている。
──やがて、いたたまれなくなった女子は教室を去っていったのだった。





目次
