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花咲く悪魔

作者: 鼎ロア


花粉症。それは、主に杉の木から成る花粉が原因で起こるアレルギー現象。

そして僕は、重度の花粉症だった。

毎年毎年冬になると、僕は地獄を見ていた。

目は痒く、涙は出、くしゃみや鼻水は当たり前。

それが、僕の冬の基本だった。


僕の学校では一本の、大きな大きな杉の木が植えられていた。

無論、それは花粉症発症者にとっては悪魔的存在だった。

何度も何度も保護者から杉の木を植えないよう、お願いされていたようだ。

だけど、校長は断じて頷くことはなかったそうだ。

だから、僕は苦しんでいた。


どれだけ花粉症の対策をしようが、学校に行く限り、僕は花粉の下に晒されている。

登校時、下校時、外に出る際、毎回毎回その杉の木の下を通る。

するとどうだろう。僕の体は花粉に反応してか、痒みが止まらなくなるのだ。

まるで、杉の木に体中を舐められているかのように。

それでも、僕は何度も耐えている経験があったから、何とか耐えることができていた。




しかし、ある日のこと。

僕にとって最悪の事態が起きた。

クラスのガキ大将的な奴が、僕に目を付けたのだ。

もう、わかるかな。

その子は、僕が花粉症であることを知りながら、杉の木に誘導したり、引き止めたり、僕をとにかく杉の木の下にいさせるようにした。


するとどうだろう。

僕の花粉症は去年や一昨年よりも悪化した。

痒みは増し、涙は溢れ、そのせいで目の周りの肌は荒れ、鼻水は止まることを止めなかった。


だけど、そのガキ大将は杉の木の下で、しっかりと僕に話ををしてくれたから、僕は奴が悪意あって引き止めているだなんて思いもしていなかった。


そんな日々が続くと、今度は吐き気までするようになった。

そして、ついには学校で嘔吐してしまう始末。

当然先生達は心配して病院に連れて行こうとしたけど、僕はそれを反対した。

ただの花粉症。僕は大丈夫だと僕に言い聞かせていたんだ。


でも、症状は日に日に悪化していくばかり。

毎日毎日、ガキ大将に僕は杉の木の下で待機させられる。

授業もまともに受けることはできない。

頭はふらつくし、鼻水は止まらないし、くしゃみは出る。


いつしか僕の鼻は炎症を起こしてしまった。

喉も、くしゃみのせいで炎症を起こしていると医者に言われた。

これはもう、ただの花粉症ではない。

医者にそう診断されたとき、僕の頭にはすぐにあの子の顔が浮かび上がっていた。

あの子が、僕を引き止めたりを続けなければ、僕は苦しまなかった。


「あいつは悪魔だ」


だんだんと思考は、そう侵食されていく。

だけれど、それはほんとうにそうだろうか……?

そういう疑問もあった。

僕が重度の花粉症だから。あの子からすぐに逃げないから。あの子を、許してしまっていたから、僕はこんなにも苦しんでいるんじゃないかって。


僕は僕を少しずつ責めるようにもなっていた。

頭の中でその考えはくっつき合う。

それにより生まれた結論。

それは、全てはあの一本の杉の木と、あの子が悪いという主観的な意見。

そして、それが正しいと信じた僕は、ついに行動に出る。




ある冬の日。僕はいつものようにあの子に杉の木の下に呼ばれた。

「よぉ、甲斐くん」

本当にガキ大将と言うべきだろうか、大きな体を見せつけ、奴はいつも通り軽々しく僕の名前を呼ぶ。

「今日もゆっくり雑談でもしようぜ」

と続けて。

いつもの手口と同じ。

だけど、今日は違う。

今日の僕には、勇気がある。

僕は、通学鞄を地面に置きガキ大将の下に行く。

そして


バァン


という音とともに、鞄から取り出していた小さいナイフを隣の杉の木に突き刺した。

「なっ、どうしたんだよ。甲斐くん」

奴は唖然として僕を見つめる。


「ハハッ、いやぁね。考えたんだよ……僕が苦しんでるのってなんでだろうって。そしたらね?君と、この杉の木が悪いんだって、思っちゃったんだ」


そう言って僕は、奴を指差し、その次に隣の杉の木に指を差す。

ニヤニヤと笑みを浮かべながら、僕はまたナイフで杉の木を打ち付ける。


バァン、 バァン、

二回、三回、四回、五回、六回、七回、八回、九回、十回、十一回、十二回、十三回、十四回、十五回、十六回、十七回、十八回、十九回、二十回。

どんどん打ち付けていくうちに、杉の木には穴が空いていく。

その度に杉の木は揺れ、花粉を振り撒く。

「な、なにやってんだよ……甲斐……」

いつのまにかに奴は尻餅を着いていたが、僕は狂ったように打ち付ける。


三十、四十、五十、六十、七十、八十、九十、百。


百回を超える頃には、杉の木は切れ落ちる寸前まで来ていた。

地味に使っているナイフの刃は10cm程、それに対し杉の木は横幅20cm。百回も打ち付けてしまえば全然切り落とせるのだ。


そこで僕は、奴に「立て」と言う。

もう、僕の狂気ぶりに壊れてしまったのか、いつのまにかに僕のいいなりになっていた。

そして立ち上がった奴を前に、僕は後ろに行った。

そして、


ドン


と音がする。

僕が勢いよく奴を押したのだ。

勿論、奴はそんな不意打ちに対応できるはずもなく、呆気なく杉の木の方へと倒れ込む。

そして、奴はヨロヨロの杉の木へと直撃した。

杉の木は、奴のその勢いに耐えられず、呆気なく倒れる。

ガシャアンと、校舎の窓ガラスが割れる音がした。

倒れた木は丁度教室の真上あたりで折れ、天井に穴を開けていた。


「おー、見事に潰れたねぇ。これで花粉症は治るかな?」

ガキ大将である奴は、僕に怯え、倒れた木の下へと避難していた。

怖がるのもまあ仕方がない。

僕が相手だったら、僕だって怖がっていただろう。

まあ、決して杉の木の下になんか避難しないけど。

「じゃあ、もう帰ろうか」

と僕が言うと、ガキ大将は逃げるようにして帰った。


そして、僕はいつも通り帰宅をする。

その途中、校門を出て左側にいた先生とすれ違った。あの音に気づき見に来たのだろうか。

すると先生は


「あれ?甲斐、お前花粉症治ったのか?」


と聞いてきた。

まあ、そりゃあ倒れるくらいだし心配はするだろう。

なので、僕は笑顔で、

「はい。多少残っていますが、あんなにはもうなりませんよ」

「そ、そうか。それはよかった」

先生は、安堵した表情で「気をつけて帰るんだぞ」と言い残し学校に向かった。

「ええ、もう元凶は刻んでしまいましたし」

僕も小声でそう言う。


それから、学校に向かった先生の驚愕の声が聞こえたが、僕は気にせず帰った。

そして、家に着きいつも通りに夕食を食べ、風呂に入り寝ようとした時だ。

僕はふと思った。

花粉症が直っても、あの子がやった事は変わらないんじゃないかと。

もし、このまま花粉症を直しても、また別の日に同じような事をしてくるんじゃないのか。

数分程考えたけれど、よくよく考えてみると、あれだけあいつらは怯えていたんだ。

それなら、もうして来ることはないだろう。と思った。

それに、またやってきたら


「もっと刻んでしまえばいい」


ただそれだけだ。

花粉という地獄の現象は、たとえ近くの杉の木をなくしたところで治るわけではない。

だけど、少なくとも、元凶を強くするあの子を刻んでしまえば、僕はこの前までみたいに苦しまなくてもいい。

だから、もう、安泰に近いはずだ。

そう自分で思い込み、僕は深い眠りへと意識を落とした。


Thank you for reading!


今回はお題を貰いました。

お題→「花粉を憎んだ少年が杉の木を壊すお話」

最初どうしようか考えたけど、意外となんとかなった!


よければ評価、感想等いただければ嬉しいです!!


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