表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/88

81.愛の力?


「うらあああっ!」

 渾身の力を込めて打ったテニスボールは、銀色の炎をまとい、魔女の棺桶に吸い寄せられるように飛んでいった。


 そして、

 ドン!! と凄まじい音とともに、衝撃が塔全体を揺さぶった。


 棺桶に当たったテニスボールは、燃えながら銀色の瘴気を噴き上げた。瘴気は次第に人型になり、あの亡霊、夢で見た魔法騎士の姿となった。


「魔法騎士さま!」

 わたしはすかさず亡霊に叫んだ。


「あなたの恋人がそこに眠っています! あなたがずっと探してた人です! 彼女がそこに!」

 ガタガタと揺れる棺桶からは、禍々しい黒い瘴気があふれ出している。

 亡霊は戸惑ったようにわたしを見、それから壊れかかった棺桶を見た。


《……彼女が……?》


「そうです、彼女がそこに封印されているんです! 彼女は死んだ後も、あなたを想い続けて……っ」


 そこまで言った瞬間、ドゴォッと爆発するように棺桶が壊れた。

 魔女が現れる! と身構えたのだが、棺桶から現れたのは、すでに原型を留めていない、黒い瘴気の塊だった。黒い瘴気は棺桶からあふれ出し、ズルズルと床を這うように渦を巻いた。


「……うわ……」

 想定以上の禍々しさに、わたしは思わず一歩後ずさった。


 こ、これは……、いや、何ていうかもう、人としての形も留めてないっていうか、もうこれただの瘴気では……。

 ええ……、ちょっとこれ、あなたの恋人です、なんて言っても受け入れてもらえないんじゃ……。


 わたしは恐る恐る亡霊を見た。すると、


《……ああ……!!》

 亡霊が感極まったようにひざまずき、床に渦巻く禍々しい瘴気を抱きしめるように腕を広げた。


《ここにいたんだね。……ずっと探していた……、良かった、一目だけでも会いたいと、ずっとそう思っていたんだ……》


 ためらわず瘴気に手を差し伸べる亡霊に、わたしは衝撃を受けた。

 え、すごい……、この状態で、恋人だってわかるんだ……。ためらわず抱きしめられるんだ……、愛の力ってすごい。


《会いたかった……、愛してる、ずっと探していたんだよ……》

 イケメン亡霊にかき口説かれ、黒い瘴気に変化が現れた。

 墨を流したように漆黒だった瘴気が、次第に薄れて灰色の霧のようになり、最後には亡霊と同じく銀色の靄になったのだ。


 亡霊に抱かれた銀色の靄は、人型になることはなかったけれど、まるで寄り添うように亡霊の胸にぺたっと張り付いた。


「……えーと……」

 わたしは何と言うべきか、言葉を失っていた。

 亡霊と魔女を再会させてあげれば、魔女の恨みも収まるかと思ったのだが、それより何より、亡霊さんの愛の力が強すぎた。


「……あの、えっと……、良かった? ですね……?」

 わたしは恐る恐る、亡霊に声をかけた。

 いや、亡霊や魔女になった経緯を考えれば、良かったことなんてないんだけど、こうやって愛する人とまた再会できたのは、まあ、良かった……、のか、な?


《ありがとう……》


 イケメン亡霊は、銀色にキラキラ輝きながらお礼を言ってくれた。

《君には迷惑をかけてしまった。こうして彼女と再び会わせてくれたのに、攻撃してしまって申し訳ない》

 亡霊は礼儀正しく頭を下げた。

 礼儀正しいイケメン……、これは元の世界でもモテただろうなあ。


《君のおかげで僕は再び、愛する人と会うことができた。彼女に会うことができなければ、僕は永遠に囚われたまま、呪いに焼かれて苦しむ運命だった。彼女を、僕を救ってくれて、本当にありがとう……》


 亡霊が言った、その時だった。


――神託は成就した……


 神殿で耳にした、あの不思議な声が聞こえた。


「……えっ」


――偉大なる異世界の魔法使いよ、そなたに祝福を……


 窓も何もない、暗く閉ざされた地下室に、神々しい光が満ちあふれた。

 神々しい光はきらきら輝きながら、わたしの体の中へ入っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ