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(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


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8.コメントしづらい呪いの内容


 いやー、魔獣なんて初めて見たけど、ほんっと気持ち悪かった。

 死ぬと黒い煙? 靄? みたいになって消えちゃうところも、ホラーっぽいし。いや、そのまま死骸が残っても、それはそれでイヤだけど。


「――ふうん。それではユリは、呪いを解除するだけでなく、瘴気も祓えるというのか?」

 相変わらず顔だけは抜群に可愛いラインハルトが、顎に手をあてて思案するように言った。


 翌日、わたしはエスターとともにラインハルトの私室を訪れていた。

 昨日の出来事をエスターがラインハルトに詳しく報告してくれたのだが、わたしには瘴気とか、まったくわからない。ラインハルトの問いかけに、わたしは曖昧に答えた。

「あ、いえ、それについてはわたしは良くわかりません。たしかに黒い靄みたいなものは消えましたけど、それが瘴気なのかどうか」

「エスター、どうだ? おまえもそれを確認したのだろう?」

「は……」

 エスターは目を伏せ、ためらいがちに言った。


「ユリ様のおっしゃる通り、跡形もなく瘴気が消えるのを、私も確認いたしました。……ユリ様は、瘴気自体の無効化がお出来になるのかもしれません」

「なんと、それはまことか!」

 ラインハルトが驚いたようにわたしを見た。

「……私からは何とも。たしかルーファス殿が瘴気について研究されていたはずですので、意見を伺われてはいかがでしょうか」

「ふん」

 ラインハルトは、トントンと軽く机を指で叩いた。


「エスター、おまえは何が気に入らんのだ」


 ラインハルトの言葉に、エスターは伏せていた目を上げた。

「何かあるなら申せ。ここには私しかおらん。気を遣う必要はない」

「……それでは申し上げますが」

 エスターは重い口を開いた。


「私は、やはりユリ様をハティスの森へ伴うことには反対です。……ユリ様は、私のせいで無理にこちらの世界へ連れてこられたのです。挙句、魔獣の跋扈するハティスの森へ連れてゆくなど、そのような危険な目に遭わせることは到底容認できませぬ」

「では、なぜ昨日、ユリを連れて結界の外に出たのだ」

「………………」

 ラインハルトの言葉に、エスターは黙ってうつむいた。

 ふう、とラインハルトがため息をついた。妙に板についた、大人っぽい仕草だ。


「当ててみせようか。……エスター、おまえはユリに魔獣を見せ、怖がらせた上で、本人から同行を辞退させようとしたのだろう」

 えっ、と驚いてエスターを見ると、エスターはわたしの視線を避けるように横を向いた。図星っぽい。


「……申し訳ありません、ユリ様」

 エスターはひざまずき、わたしに頭を垂れた。

「私は卑怯にも、あなたを騙すような真似をいたしました。実際に魔獣をご覧になれば、その恐ろしさから森への同行を拒否されるだろうと考え、あなたを結界の外に連れ出したのです」

 あー、それで昨日、いきなり結界の外に連れてかれたのかー。たしかに慎重っぽいエスターにしては、やけに性急だなーとは思ったけど。


 それにしても、この騎士様、いろいろと気にしすぎじゃなかろうか。

 たしかに異世界に無理やり連れてこられた事にはモヤモヤするけど、エスターはそれに関わってないみたいだし、そこまで責任感じることもないような……。騎士ってそういうもんなんだろうか。


「それだけではあるまい」

 ラインハルトが重々しく言った。

「エスター、おまえはユリに、呪いについてすべて話したのか」

 エスターがひざまずいたまま、びくりと肩を揺らした。

「おまえが言いたくないのなら、私から説明するが」

「……いえ、私の口から申し上げます」

 エスターは唇を噛みしめ、わたしを見上げた。


「ユリ様。……私にかけられた呪いは、その……、戦うたびに理性を失ってしまうというもので……、非常に危険なのです」

 わたしは首を傾げた。

「理性を失うって、戦うと狂戦士状態になって、誰彼かまわず殺しちゃうとか、そういうことですか?」

 それは確かに危険だなあ、と思っていると、


「……殺しはしません……」

 蚊の鳴くような声でエスターが言った。


「殺しはしませんが、しかし……、誰彼かまわず襲いかかってしまうのです……、その、性的な意味で……」


 わたしとエスターとラインハルトの間に、耐えがたい沈黙が落ちた。


 いや、ちょっ……、待ってこれ、どうコメントすれば!?

 ちょっと、誰か何か言ってお願い!



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