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(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


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74.亡霊


「ここに、隣国から逃れてきた魔法使いが囚われていたはずです。ここを調べれば、異世界へ渡る魔法を記した書物が見つかるでしょう」

 言いながら、エスターが一番奥の牢の鍵を開けた。


 なんか、瘴気が一段と濃い。

 わたしがテニスラケットで瘴気を祓うと、チカチカと銀色の光が舞った。

「え……」

 銀色の光とともに瘴気は消えたけど、わたしは首をひねった。今までは瘴気を祓うと黒っぽい火花が飛んだけど、ここでは何故か銀色の光が舞っている。


 なんだろう……。なんかこの瘴気、今までと違う。魔獣を生み出すと言われる瘴気だけど、これはなんだか……。


「この壁の辺りが、音が違いますね」

 エスターが変色した寝藁に膝をつき、壁に耳をあてて言った。トントンと軽く壁を叩いているが、どこがどう音が違うのか、さっぱりわからない。

「そこか。しかし、魔法で壁を崩すのはやめたほうがいいな」

 ラインハルトが牢内を見回して言った。

「この辺りには、封印の魔法が及んでいる。下手に大きな魔法を使って場を崩せば、どんな反動があるかわからん。最悪、魔女の封印が解けてしまうだろう」

「かしこまりました」


 エスターが立ち上がり、すらりと剣を抜き放った。

 わたし達を後ろに下がらせると、エスターは勢いよく壁石の隙間を剣で突いた。

 ガコッ、と音をたてて、壁の一部が崩れ落ちる。

 続けて二度、三度と剣を突きたてると、壁に大きな穴が開いた。


「うわっ」

 崩れた壁の穴から、すごい勢いで瘴気が流れ出てきた。

 わたしは慌ててラケットを振り回し、瘴気を祓おうとした。すると、

「……え?」


 壁の穴から、ポトッと何かが転がり落ちてきた。

 反射的にエスターがそれを掴み、驚いたように目をみはった。


「これは……」


 それは、惑いの泉でも見たテニスボールだった。鮮やかな蛍光イエローで、メーカー名も同じだ。


「……これは、ユリ様の呪具と対をなす、異世界の呪具では」

 エスターからテニスボールを手渡され、わたしはそれをまじまじと見た。

 元の世界でもよく使っていたテニスボールだ。手に持つと、そのテニスボールから何か不思議な力が流れ込んでくるような気がした。


 わたしはふらふらとエスターの前に立った。

 まるで何かに引き寄せられているように、わたしはテニスボールを持った手を壁の穴に近づけた。


「ユリ様!」

 その瞬間、壁の穴から何かが飛び出してきた。エスターが反射的にわたしを庇い、剣を振るったが、それはエスターの剣をかわしてわたしの足元に落ちた。


「…………」

 わたしは息を飲み、足元に落ちたそれを見た。

 それは、テニスラケットだった。グリップがわたしのものよりだいぶ太い。男性用だろうか……、いや、それはともかく!


「なぜ、ここに異世界の呪具が?」

 ラインハルトが険しい表情で言った。

「エスター、おまえはここに魔法書が隠されていると言ったな。なぜ魔法書でなく呪具があるのだ?」

「それは……」

 エスターは動揺した様子で、床に落ちたテニスラケットを見た。

「わかりません、ここには隣国の魔法使いが囚われていたはずですが……」


 二人のやり取りをどこか遠くに聞きながら、わたしは崩れるように床に膝をついた。体が自由に動かない。テニスボールを持ったままの手が、勝手にラケットに引き寄せられた。

「ユリ様!?」

「っ!」

 ラケットに触れた瞬間、そこからまばゆい光が迸った。銀色の光に視界を焼かれ、わたしは思わず目をつぶった。


「ユリ様!」

 名を呼ばれ、誰かに強く抱きしめられる。エスターだ、とすぐにわかり、わたしは息をついた。

「エスター……」

 ゆっくりと手を動かし、わたしを抱きしめるエスターの腕に触れた。さっきまでの強い拘束力が消えている。体が自由に動くことに、わたしはほっとした。

「ユリ様、ご無事ですか!? いったい何が……」


 そろそろと目を開けると、床に落ちたテニスラケットは、そのままそこにあった。ただ、ラケットから銀色の靄がふわふわと漂い出し、何かの形を取ろうとしている。


「……亡霊か!」

 ラインハルトが鋭く叫び、さっと杖を取り出した。

「お待ちを、殿下!」

 エスターが慌てたように声を上げた。

「ここで攻撃魔法を放てば、魔女の封印が解けてしまいます!」

 くそっとラインハルトが杖を下げた。


 銀色の靄は徐々に人型になると、ゆっくり立ち上がった。エスターやラインハルト程ではないけど、この亡霊もだいぶ背が高い。

 顔の部分も次第にはっきりしてきた。亡霊は、男性のようだった。

 短い髪に通った鼻筋、すっきりとした顎のライン。やや薄めの顔立ちだが、十分イケメンの範囲内だ。銀色に透けてるけど。


 想像を超える展開に、わたしはただ呆然と亡霊を見ていた。エスターとラインハルトが、それぞれ警戒するようにわたしの前に立ち、亡霊の様子をうかがっている。

 何かを探すように、亡霊はきょろきょろと周囲を見回した。


《ここは……》


 不思議な声が頭に響いた。


《ここは、どこだ……? 彼女はどこにいる?》


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