63.遭遇
ニート生活が数日過ぎ、やっとわたしの傷口も塞がった。ルーファス謹製の傷薬、アリーも絶賛してたけど、ほんとに良く効く。
神経をやられてたらどうしようと心配してたけど、指も問題なく動くし、一安心だ。
わたしの傷口をチェックしたラインハルトも、満足そうに頷いて言った。
「よし、もういいだろう。今日、ユニコーンからたてがみを採取しろ」
採取って……、いやまあ、その通りなんだけど。
エスターがわたしの手を握り、真剣な表情で言った。
「ユリ様、今度こそあなたをお守りいたします。どうぞご安心ください」
いや、危ないのはエスターのほうでは……。
とにかく、
「わたしは座って、ユニコーンを待ってればいいんですか?」
「そうだ。……まあ、ユニコーンは音楽好きと言われているから、歌や楽器を奏でれば、より遭遇率が上がると聞くが」
楽器……、わたしが弾けるのはピアノくらいだしなあ。歌、歌かあ……。
わたしは二人に言った。
「じゃ、わたし、歌を歌うので、二人は聴こえないように遠くに離れててください」
「何故ですか!」
エスターが間髪入れずに抗議した。
「あまり離れれば、ユリ様をお守りできません!」
「ユニコーンは女性には無害なんでしょ?」
「万一ということがあります!」
わたしはラインハルトを見た。
「ラインハルト様、エスターを連れて離れててくれますか?」
「……何故だ」
不満げなラインハルトに、わたしは驚いて言った。
「いや、なんでって……、エスターがユニコーンに襲われたら危ないでしょ。それに、歌を聴かれたくないし」
「何故、聴かれたくないのだ」
ラインハルト、真顔だ。
「誰かに歌を聴かれるなんて、恥ずかしいじゃないですか」
「おまえの羞恥心は理解できんな。歌とは、他人に聴かせるためにあるのではないか」
そうとばかりは言い切れません! わたしの世界には一人カラオケというものがあり、そこそこ人気なんです!
「私もユリ様の歌を聴きたいです」
エスターが目をキラキラさせて言った。
そんな期待されると、ますます歌いたくなくなる。だが、
「ここで無為に時間を過ごすのは、おまえも本意ではあるまい。最短でユニコーンからたてがみを手に入れる為だと思って、歌え、ユリ」
それに、とラインハルトは続けた。
「異世界の歌というものに、興味がある。どのようなものなのか、じっくり聴いて、検証したい」
検証って何を!
イヤだイヤだと盛大にごねたが、平原の真ん中で座っている内に、わたしはだんだん諦めというか、ヤケくそ気味になってきた。
ラインハルトの言う通り、ここでいたずらに時間を失うわけにはいかない。わたしのせいで遠回りをさせているんだから、時間短縮ができるならするべきだ。
歌を聴かれるくらい、どうってこと……、な、ない、はず、だ。
立ち上がると、少し離れた場所にしゃがんでいるエスターとラインハルトの姿が見えた。
……歌を聴かれたって死にはしない! ユニコーンのたてがみの為だ、いけ、わたし!
わたしは目をつぶり、息を吸い込んで歌い始めた。
異世界の歌なんだし、音を外したって気づかれない……といいな、と思いながらわたしは歌った。目を開けてちらりと確認すると、遠くからでもエスターが目を輝かせてこっちを見てるのがわかる。
うう……、もう、もう、好きにすれば! なにこの羞恥プレイ! 異世界まで来て、さしてうまくもない独唱を披露とか、いったい何の罰ゲームなんだ!
一曲歌い終える頃には、わたしはすっかり開き直っていた。
聴きたいなら聴けばいい! さあどうぞ! お代はいらないよ!
一応、ユニコーンを誘い込むという目的を考えると、男女の三角関係を歌ったドロドロ愛憎の歌とかは避けたほうが無難だろう。全年齢対象の童謡や聖歌を続けて歌っていると、
ふわっと空気が動いた、ような気がした。
横目で確認すると、先ほどまで何もなかった場所に、忽然と一頭のユニコーンが立っている。
驚きのあまり、歌が途切れた。わたしは唖然として、目の前に現れたユニコーンを見つめた。
額から真っすぐに、長い一本の角が生えている。わたしの世界で言い伝えられている通りの、ユニコーンの姿形をしていた。淡いクリーム色の被毛に、金色のたてがみをしている。綺麗だけど、なんかすっごい派手……。
驚きで立ちすくむわたしに、ユニコーンが近寄ってきた。
鼻先を寄せられ、フンフンと匂いを嗅がれる。硬直していると、
《乙女よ》
頭に直接、不思議な声が響いた。
《異世界の乙女よ。我に何を望む?》




