53.対となるもの
「エスター! ぶつよ!」
「お願いします!」
『炎の刃!』
それからはもう、テニスラケットを振って振って振りまくった。なんか腕が痺れて感覚がない。ふと気を抜いた瞬間に、テニスラケットを取り落としてしまいそうだ。
わたしよりエスターやラインハルトのほうが疲れてるはずだけど、二人とも微塵もそんな様子は見せない。次から次へと湧いて出る魔獣を退治しつづけている。
わたしは大きく深呼吸し、息を整えた。
このままじゃマズい。エスターとラインハルトだけなら、朝までなんとか戦い続けられるかもしれない。けど、わたしは無理だ。たぶん途中で体力が切れて、戦えなくなる。そうしたら、二人におんぶに抱っこのお荷物状態になってしまう。
どうしよう、どうしたらいい? 考えなきゃ。考える時間が欲しい。
わたしはぐっと力を入れてラケットのグリップを握り直した。時間を稼ぐ必要がある。五分でいい。
『……炎の盾!』
わたしの放った魔法に、ラインハルトが少し驚いたような表情を浮かべた。わたしの魔法適性は火、水、風の三種類だけど、その中でも比較的、相性がいいのは風魔法、次いで水、火と続き、火魔法はほとんど使ったことがない。だが、ここの魔獣には火の魔法が一番効果があるみたいだ。少しでも時間を稼ぐために、威力のある魔法を多く放つ必要がある。
一つ目の『盾』は成功した。二つ、三つと数を増やしていく内に、体からごっそり力が抜けていくような感覚に襲われた。複数の魔法、それもあまり相性の良くない魔法を維持すると、体に負担がかかる。でも、やらなきゃ。
『炎の盾!』
四つ目の『盾』を作り、半円を描くように周囲をガードする。あと四つ、作らなきゃいけない。できるだろうか。
不安に思った時、
『炎の盾』
ラインハルトの声が響いた。
驚いてラインハルトを見ると、次々と間をおかずに『盾』を放ち、わたし達三人を囲むように炎による防御陣を完成させてくれた。わたしの消えかかっていた四つ目の『盾』に、もう一つ『盾』を重ねてくれるというオマケつきで。すごい。
「ラインハルト様、ありがとうごさいます……」
「礼はいい。話せ、何が目的だ?」
「ユリ様」
フラつくわたしを、後ろからエスターが支えてくれた。わたしは汗を拭い、言った。
「ラインハルト様、ここ……、この泉自体が壊れかかっているっておっしゃいましたよね。理由はわかりますか? どうして、ずっと変わらぬ姿を保っていた泉が、いきなり崩壊しはじめたのか」
「……わからん」
ラインハルトは苦い顔で言った。
「ここが崩壊するような予兆は感じられなかった。あの瞬間、何か……、誰かがこの場に干渉したのだ。あの時、誰かが……」
「ユリ様」
エスターがわたしの肩をぐっとつかみ、言った。
「あの時、ユリ様は異世界の呪具をお持ちでしたね。……この呪具と対をなす、もう一つの呪具を」
テニスボールのことか。
わたしが頷くと、
「……それだ」
ラインハルトがハッとしたように言った。
「おまえの呪具と、対をなす呪具、その二つの魔法がこの場に干渉し、泉を崩壊させたのだ! ユリ、二つの呪具を使え! 泉の瘴気を止めろ!」




