48.呪いと怒り
呪い! 忘れてた!
よくよく見ると、エスターの全身が、なんかモヤモヤしたピンク色っぽい靄に包まれている。
そうだ、あんなに何体もの魔獣と戦ったんだから、呪いが発動して当然だ。
エスターが無事かどうかばかり気になって、呪いのことが頭からすっぽ抜けていた。
わたしはエスターから顔を背け、執拗なキスから何とか逃れた。
「……う、っ」
エスターが顔をしかめ、苦しげに呻く。わたしを押さえつける手が震えている。
わたしは慌てて、押し倒された拍子に落としてしまったテニスラケットに手を伸ばした。早く呪いを祓わないと。
自由にならない右手で、なんとかグリップに指をかけた時、
「ひぁっ」
わたしは思わず裏返った声を上げた。
エスターの手が、シャツの上からわたしの胸をつかんだのだ。
「ちょっ、エスター!」
はあはあと荒い呼吸をくり返し、エスターはわたしの首元へ顔を埋めた。
「いたっ!」
音をたてて首筋を吸われ、歯を立てられた。そのまま味わうように舌を這わされ、遠慮なく胸を揉まれる。
「やだ、どいてエスター!」
わたしは半泣きでエスターをテニスラケットで叩いた。
すると、
「……、うっ」
エスターの動きが止まり、次いで、ブワッとすごい勢いでエスターの全身からピンク色の靄が吹き出した。
わたしは慌ててエスターの下から這い出た。テニスラケットを握りしめ、うつ伏せに地面に倒れているエスターの背中を、力いっぱいバンバン叩く。
む、胸触られた! シャツの上からだけど! いくら呪われてるからって、許しがたい! バカバカバカーー!!
「……おい、ユリ。もう呪いは祓い終えたから、叩く必要はないぞ」
ラインハルトも魔獣を倒し終えたらしく、肩で息をしている。わたしを見る目が、若干引き気味だ。
わたしはテニスラケットを抱えて、その場に座り込んだ。
もうもう、最悪。呪いに操られた人にキスされて、胸揉まれるとか。首も噛まれて舐められたし。
……でも、呪いのせいって言われたら、責めることもできないじゃないか。腹立つーー!
わたしはすっくと立ち上がり、黒く固まりかけた瘴気に近づいた。
腹立つ、腹立つ! 魔獣め、魔女め! まとめてぶっ飛ばしてやりたい!
苛立ちのまま、テニスラケットをぶんぶん振り回す。
ラケットに払われると、固まりかけた黒い靄は、ジジジッと激しい火花を散らし、消えていった。
「おお、見事だな!」
ラインハルトが感心したように言ったが、わたしの怒りは収まらなかった。
「ラインハルト様!」
鋭く言うと、びくっとラインハルトが飛び上がった。
「な、なんだ?」
「……わたしを円に送ったら、二人で魔女の城に向かうって、本当ですか!?」
「え? あ、ああ……」
ラインハルトが戸惑い気味に頷いた。
「昨日、エスターから提案を受けた。どちらにせよ、魔女の城への行程を確保する予定だったしな」
「わたしも行きます!」
わたしの言葉に、ラインハルトが目を丸くした。
「は? ……え?」
「だから、わたしも一緒に魔女の城へ行きます!」
わたしは怒りのままに宣言した。どうあっても、魔女にこの恨みをぶつけずにはおれない。
「いや、だが……」
「足手まといにならなきゃいいんですよね、ここからは自分で自分を守ります! 二人の補佐もできるようにします!」
わたしは鼻息荒くラインハルトに言った。ラインハルトは何か言いたげだったけど、わたしが睨むと口を閉じた。
もうもう、腹立つ。
魔女め! この恨み、晴らさでおくべきかーー!!




