46.魔獣との戦い
「ここから先は、大型の魔獣が頻発する区域になる。エスターの負担が大きくなるだろうから、連携して魔法で補佐することが肝要だ」
荷物をまとめながら、ラインハルトが言った。
「ユリ、魔獣が現れたら、『盾』の魔法を使え」
「は、はい、わかりました」
わたしは緊張して頷いた。
二日目にして初めて、戦闘に関わる指示を出された。これから先は、出没する魔獣も強くなり、より厳しい状況になるということなんだろう。気を引き締めねば。
「ユリ様、大丈夫です。あなただけは何としてもお守りいたします」
エスターが真面目な顔で言ったけど、いや、わたしだけが無事じゃダメなんですってば。みんなが無事でないと!
荷物を背負い、ゆるく張っていた結界を解いたとたん、がさりと繁みの中から巨大なクマのような魔獣が現れた。
「お二人とも、お下がりください!」
エスターが言いざま、魔獣に走り寄って剣を一閃させる。
あっという間に魔獣を倒したが、しかし、エスターもラインハルトも厳しい表情になった。
「……まずいな」
「囲まれたかもしれませんね」
え。どういうこと。
ラインハルトは周囲に魔術陣を描きはじめ、エスターも荷物から魔獣捕縛用の魔法グッズを取り出し、あちこちに仕掛けている。
「ユリ、ここに立て」
ラインハルトに指示され、わたしは戸惑いながら小さな円の中に入った。防御機能のついた魔法陣だ。
「ここからエスターを補佐する魔法を放て。いいか、決して円から出るなよ」
ラインハルトが言い終わったその時、前触れもなく先ほどと同じ魔獣が数頭、目の前に現れた。
グォオオオオ! と凄まじい咆哮があがり、わたしは硬直した。
エスターが魔獣に向かって走っていく。
「ユリ、『盾』を使え!」
ラインハルトが叫んだ。
わたしは震える手でテニスラケットを握りしめ、必死に心を落ち着けようとした。
『風の盾!』
エスターの前方、大型の魔獣めがけてラケットを振る。
幸いなことに、魔力の暴走はなく、魔獣たちの足止めに成功した。
「ユリ様、ありがとうございます!」
エスターが律儀にお礼を言いながら剣を振るう。
そんなのいいから、戦闘に集中して! とわたしはハラハラしながらエスターを見守った。
本当は、もう少し側でエスターを守るような防御魔法を使いたいけど、円から出るなと言われている。余計なことをして、返って迷惑をかけでもしたら、自分で自分を許せない。
自分に出来ることを確実にやろう、とわたしはラケットのグリップを握り直した。
その時、後ろで爆音が響いた。
ぎょっとして振り返ると、ラインハルトの描いた陣に魔獣が弾かれ、吹き飛ばされていた。
後ろにも魔獣が現れたのか。二人の言う通り、囲まれてしまっている。
恐怖で冷や汗がにじんだ。
落ち着け、とわたしは『盾』の魔法を維持しながら、深呼吸をくり返した。
魔法は心で制御するのだ、とラインハルトが言っていた。心を乱すなと。
いま自分に出来ることは、平常心を保ち、『盾』の魔法で前方の魔獣を足止めすることだ。
落ち着いて、落ち着いてと呪文のように心につぶやきながら、わたしはテニスラケットをぎゅっと握りしめた。




