表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/88

5.憧れの魔法使い


「申し訳ございません……」

 もう何度目になるのか、エスターがわたしに深々と頭を下げている。


「いや、その、頭を上げてください。あれは何というか……、とにかくエスターの責任ではありませんので」

「そうだ、あれはエスターが悪いのではない。おまえのせいだ」

 ラインハルトがふてくされたように言う。


「なんでわたしのせいなんですか!」

「おまえが余計なことを言って、魔女の使い魔を怒らせたからだ!」

 睨みあうわたしとラインハルトの間に、エスターが割って入った。

「……お二人とも、落ち着いてください。ルーファス殿、説明を」


 エスターに指名され、一人の魔法使いが前に進みでた。わたしとほぼ同じくらいの身長をしている。フードを外すと、白髪交じりの緑色の髪に茶色の瞳をした、穏やかそうな壮年の男性の顔が現れた。緑色の髪……、染めているわけでもなさそうだし、地毛が緑色なのか……、異世界だ。


 謎の巨大黒トラ(もしくは猫)が現れたことで、あの光の円は強制的に閉じられてしまった。

 あのままにしておけば、実体化した黒トラ(もしくは猫)に危害を加えられかねないからだという。


 あの黒い巨大生物は、眠りについた魔女の使い魔なのだ、と改めてルーファスが説明してくれた。

「魔女が眠りについたことで、使い魔はある程度、自由を得ます。恐らく、こちらで使用した異世界へ干渉する魔法の力に気づき、それでこちらに現れたのでしょう。その……、異世界に干渉する魔法は禁術ですので、魔女が使用する黒魔法と波動がたいへん近いのです。王城の円は、前回と今回、二度も異世界に干渉する魔法を使用したため、その波動は大変大きなものとなっております。そのため、使い魔がその波動に惹かれて現れたのではないかと」

 ほうほう。


「……それで、その使い魔はいつ頃、魔女の元に帰ってくれるんでしょうか」

「それが……」

 ルーファスが、言いづらそうに口ごもった。


「そのう、使い魔は、いま現在、大変怒っておりますので、しばらくはあの円から離れてくれそうにありません。また、一度あの円にマーキングされてしまいますと、離れていても、円を起動させれば気づかれて、また出現される恐れが非常に高く……」

 つまり?

「その……、あの円を使っての帰還は、おそらく無理なのではないかと……」

言いづらそうに告げるルーファスに、わたしはショックを受けて固まった。


「えっ……、え、帰還が無理って……、え、まさか帰れない……?」

「いいえ!」

 エスターが慌てて言った。


「必ずユリ様を、元の世界にお帰しいたします! 王城の円が使えずとも、他の場所に設けられた円を使用すればいいのです!」

 しかし、魔法使い達が難色を示した。

「他の場所といっても、王城以外の円は……」

「無理だな」

 ラインハルトがバッサリ言い切った。


「王城以外で、異世界転移に耐えられる円があるのは、ハティスの森と魔女に奪われた城だけだ。どちらにしろ無理だ」

「……いいえ、ハティスの森の円ならば可能です」

 エスターの言葉に、ラインハルトがハッと力なく笑った。


「どうやって円にたどり着くつもりだ。ハティスの森は、結界の外にあるのだぞ。魔獣の跋扈する森を、呪われた身でどうやって」

「魔女が眠りについてから、魔獣の発生頻度も減っております。私は医術の心得もありますし、よほどの大怪我を負わねばなんとかたどり着けるでしょう」

 ラインハルトが苛々したようにエスターを睨んだ。


「ご立派なことだな。異世界の人間のために命をかけて、こちらの世界はどうなっても良いというのか」

「そのようなつもりは」


 言い争う二人に、ルーファスが声をかけた。

「ラインハルト殿下、エスター殿も。……エスター殿、ハティスの森に行かれるおつもりなら、呪いを解く魔法使いが必要でしょう」

 ルーファスの言葉に、エスターもラインハルトもわたしを見た。え、なになに何ですか、わたしのことですかそれは。


「……そうだな、どうせハティスの円から異世界に帰すのだから、一緒に行けば手間もはぶけよう」

 たどり着けるものならな、とラインハルトが皮肉っぽく言ったが、エスターは顔をしかめて反論した。

「しかし、ユリ様はこちらの世界にいらしたばかりです。呪いを解くほかの魔法は、お使いになれぬご様子。今のままハティスの森へお連れするのは、あまりに危険です」


「では、ユリ様には、魔法の訓練をしていただいては? こちらの魔法をある程度、使いこなせるようになれば問題ないでしょう」

 ルーファスの提案に、わたしは驚いて声を上げそうになった。


 魔法の! 訓練!

 え、それってあれですか、魔法の杖をふればあ~ら不思議、ボロをまとったシンデレラが素敵なお姫様に! とかいう、アレができるようになるってことですか!?

 そ、それは……、ぜひ、やってみたい!


「……まあ、魔力量は多いようだし、やってみればいいのではないか?」

 ラインハルトは投げやりに同意したが、エスターは不服そうに顔をしかめた。

「無責任なことを……。危険すぎます」

 まあまあ、とルーファスがエスターをなだめた。


「とりあえず、ユリ様は一時王城預かりとし、魔法の訓練をしていただいてみては? ハティスの森へ同行されるか否かは、その結果をご覧になってからでもよろしいのでは」

 いかがですか? と問いかけられ、わたしは一も二もなく頷いた。


 魔法の訓練! やってみたい! ファンタジー!


 乗り気なわたしに、エスターは戸惑った様子で言った。

「……よろしいのですか? ユリ様には、ご迷惑をおかけしてしまいますが……」

「いえ、まったく! 迷惑じゃないです!」

 ていうかむしろ、お願いしたいくらいだ。子どもの頃の憧れの魔法使いに、なれるかもしれないなんて。


 なんか危険な森に同行させられるかもしれない、という不安もあるが、まあ、それはいったん横に置いとこう、とわたしは思った。

 どういう扱いになるにせよ、できることは多いほうがいい。教えてもらえるなら、ありがたく教えてもらおう。

 ていうか魔法! 魔法が使えるようになるかもしれない!


 どんな魔法を教えてもらえるんだろう。空を飛べたりするんだろうか。

 エスターの呪いを祓った時のアレは、キレイだったけどあんまり魔法―! という感じではなかった。どうせなら、もうちょっと何ていうかオーソドックスな、これぞ魔法!って感じの魔法が使いたいなあ。


 浮かれるわたしを、ラインハルトが生温い目で見ていたが、まったく気にならない。

 魔法―! 楽しみー!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ