表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/88

42.料理スキル


 エスターは何か言いたげにわたしを見たが、わたしが黙っていると、諦めたように荷物を下ろし、鍋などの調理器具を取り出した。


「それでは、簡単に煮込み料理にしましょうか。アカウサギの他、ノキの根と花も採ってきましたので」

「わかった。調理は任せる」


 わたしも慌てて言った。

「じゃあ、あの、わたしも何か手伝います」

 何もしないでいると、さっきのことを考えてしまいそうだ。とにかく今は、手を動かしたい。

「では、ノキの皮を剥いて、適当な大きさに切っていただけますか?」

 エスターの言葉に、わたしはうっと怯んだ。


 でたよ、「適当」!

 料理上手な人には、何故かこれだけですべて通じる。わたしはそうはいかないが。そうか、エスターは通じる側の人だったのか……。

「て、適当って……、どのくらいの大きさ?」

「本当に適当でかまいませんよ。食べやすい大きさで」

エスターはわたしの表情を見て、言い直した。

「一口大でお願いします」

 う、うん……、一口か、一口。わたしの一口でいいのかな。それともエスター、ラインハルト、どれだ。


 わたしはテニスラケットを一振りし、勢いよく噴き出る水でノキの根と花を洗った。

 ノキの根は、サトイモによく似た球根だった。花は白く、菊に似た形をしている。


 わたしは荷物袋からナイフを取り出し、おっかなびっくりノキの皮を剝き始めた。

「……ユリ、おまえ、元の世界では料理をしたことがなかったのか?」

 ラインハルトの失礼な物言いに、わたしは唇を噛みしめた。


 一人暮らしだし、一応努力はしてました!

 でも、わたしの世界のコンビニ食やレトルトは偉大だから! 自炊のマズい料理より、よほど栄養バランスもとれているし、もちろん美味しい。疲れて料理する気になれない日だってあるし。そういう時に、レトルトという文明の恩恵にあずかって、何の問題があろうか。……わかってます、どうせわたしは料理が下手ですよ。


 わたしが皮むきにもたもたしている間に、エスターはアカウサギの処理を手早く済ませ、肉を切り分けて鍋の中に放り込んだ。

 エスターに促され、わたしも不揃いな大きさのノキを鍋に入れた。


「花は最後に入れますので、そこに置いておいて下さい」

 調味料や香草などを次々と躊躇なく鍋に入れるエスターに、わたしは尊敬の眼差しを向けた。


 エスター、すごい。

 なんか手馴れてるし、料理上手な人特有の手際の良さを感じる。


 しばらく煮込むと、鍋からはいい匂いが漂いはじめた。そろそろ食べ頃なんじゃないかと思ったら、エスターがさっとノキの花を鍋に入れ、ひと煮立ちさせた。

「ユリ様、ラインハルト様、どうぞ」

 器に盛った煮込み料理を手渡される。

顔を近づけて驚いた。白かったノキの花が、鮮やかな赤い色に変わっていたからだ。


「エスター、花の色が変わってる!」

 ああ、とエスターは小さく笑って言った。

「ノキの花は、熱を加えると色が変わるのです。長時間加熱すると色も香りも飛んでしまうので、料理の最後に加えることが多いですね」

 へー。感心していると、ラインハルトも言った。

「ノキは、元々ただの野草だったようだが、魔の森に応化した結果、様々な効能を持つようになった。体を温め、免疫機能を向上させる。まあ、薬草の一種だな」

 なるほどー。


 感心しながら煮込み料理を味わった。

 アカウサギの肉は柔らかく、不格好に切られたノキの根にもちゃんと火が通っている。ノキの花のちょっとスパイシーな風味が、クセになる美味しさだ。

「エスター、料理上手なんですね! すごいです!」

 わたしは心の底からエスターを尊敬して言った。

 具材も調味料も限られた中で、火加減だって薪の火を調節しながら作ったというのに、わたしの自炊料理など足元にも及ばぬ美味しさだ。エスターの料理スキル、神。


 わたしの尊敬の眼差しを受けて、エスターは面映ゆそうに微笑んだ。

「魔獣討伐で、野外での調理には慣れておりますから」


 それを言ったら、わたしだって一人暮らしの自炊で、料理上手になっててもいいはずなんですけど……。


 料理も才能の一種だと思う。腕っぷしだけじゃなくて料理にも長けているとか、尊敬しかない。

 ラインハルトもノキについてさらっと蘊蓄を披露してたし、何気にこの二人、わたしなんかよりよっぽど生活能力が高いのかもしれない……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ