表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/88

4.どう見てもトラです


「ユリ様、帰還の儀をおこなう部屋へご案内いたします」

 しかしその後、エスターは特に何も言うことなく、わたしを昨日現れた広間へと連れていってくれた。後ろから、不機嫌そうなラインハルトもついてくる。テニスラケットを抱えて廊下を歩くわたしを、すれ違いざまに皆、二度見するんですが。


「……あのー、わたし、帰ってもいいんでしょうか?」

 後ろを歩くラインハルトは、あからさまに不満げな様子だ。わたしを元の世界に戻すことに反対なのかもしれない。

 わたしの言葉に、エスターは小さく笑った。

「こちらに残って下さいと無理を申しても、ユリ様を困らせるだけでしょう」

 まあ、その通りなんですが。


「おい、異世界の魔法使い」

 ラインハルトが後ろからわたしに声をかけた。

「こちらに残れと命令すれば、そなたは残るか? 褒美もとらせるが」

「いや、帰りますけど」

 間髪入れず答えるわたしに、ラインハルトは顔をしかめた。

「この私が、魔力を限界まで使って召喚したというのに……」

 ブツブツ言われたけど、知らんがな。こっちは念願の第一希望の大学に入学したばっかりなんですから。


 すると、エスターがラインハルトをたしなめるように言った。

「……もともと、こちらの事情とは何の関わりもない方を、無理やり異世界から召喚すること自体、間違いだったのです。こちらの世界の問題は、こちらの世界の人間で解決すべきです」

 おお、正論!

 わたしは感心してエスターを見た。


 さすが騎士様。

 その正論で一番損をするのは自分自身だというのに、清廉潔白を絵に描いたような人だ。

 ラインハルトは舌打ちしたけど、エスターに反論しようとはしなかった。もともとわたしを召喚したのも、自分の身代わりに呪いをうけたエスターを助けようとしたためだし、根は悪い人ではないのかも。まだ子どもだしね。


 見覚えのある広間に着くと、そこには昨日見た、お揃い黒ずくめ集団が既に集合していた。

「エスター殿、ラインハルト殿下も」

 その中の一人が、足早にわたし達に近づき、言った。


「殿下、エスター殿にかけられた呪いが、残ったままというのはまことですか。それならばエスター殿は……」

「その話は後だ。まずはユリ様を元の世界へ」

「しかし」

 魔法使いは何か言いたげにわたしを見たが、重ねてエスターが促すと、諦めたように口を閉じた。


「ユリ様、こちらへ」

 エスターに手を取られ、部屋の中央へと導かれた。


「ユリ様には、誠にご迷惑をおかけいたしました。このような事態でなければ、正式に謝罪すべきところですが」

「あ、いえいえ」

 わたしは慌てて首を横に振った。

「気にしないでください。えーっと、その、魔法が使えたりして、わたしも楽しかった……、ような気もしますし……」

 もごもご口ごもるわたしに、エスターが優しく微笑んだ。


 なんかなんか……、何故か罪悪感を覚えるのですが……。

 帰るのは当然というか、そもそも自分の意思を無視した形で連れてこられたんだから、こっちの世界がどうなろうと知ったこっちゃない、んだけど……。


 魔法使いの一人に指示され、床に描かれた金色の円の中央にわたしは足を踏み入れた。円の中には不思議な美しい文様が描かれている。

 ラインハルトはむっつりと口をつぐんだまま、杖で円をコツコツと叩いた。ラインハルトが杖で触れた部分がほのかに発光しはじめる。

「ユリ様、お元気で」

 エスターが深々と頭を下げた。


 何故か申し訳ない気持ちになり、わたしも頭を下げた。

 なんかなんか、すみません。頑張ってください、と心の中でつぶやいた瞬間、


 パアッと足元の円がまばゆい光を放った。


 こちらの世界に連れてこられた時とまったく同じ、不思議な光に包み込まれる。ああ帰るんだなあ、と思ったのだが、


「まずい、離れろ!」

「ユリ様!」


 怒号とともにエスターに腕を引っ張られ、わたしは光を放つ円の中から、強制的に引っ張り出された。

 すると次の瞬間、さっきまでわたしが立っていた場所に、突如として巨大な黒トラが出現した。


「えっ!? なに、なんでトラが……!?」

 わたしが驚いて叫ぶと、

「ユリ様!」

 エスターが慌てたようにわたしの口を手でふさいだ。

「その単語を口にしてはなりませぬ!」

 え?


 わたしは呆気にとられてエスターを見上げた。

「え、単語って、え、何ですか? トラ「ユリ様!」

 わたしの言葉をさえぎるように、エスターが大声を上げる。


 が、まるでわたしの言葉に反応するように、光り輝く円の中央に出現した黒トラが、凄まじい咆哮を上げた。


 にぎゃああああああ! という黒トラの絶叫に、エスターおよびラインハルト、魔法使い集団が、明らかに怯んでいる。

「エ、エスター……、あの黒ト、……生物は、いったい」

「魔女の使い魔の、黒猫です」

 エスターが断言したが、しかし。


「いや、猫って。どう見てもト「猫だ!」「猫です!」

 エスターのみならず、ラインハルトと魔法使い集団がそろって叫んだ。


 わたしはその迫力に押され、口をつぐんだ。

 目の前に現れた巨大な黒い生き物を、もう一度、じっくりと観察してみる。


「あのー、どう見てもト「猫です!!」「猫だ!!」


 エスターおよびラインハルト、魔法使い集団がふたたび叫んだ。


 黒い謎の巨大生物は、わたし達を睨み、フーッと毛を逆立てた。

 まるでわたし達のやりとりを理解し、腹を立てているような態度だ。


 いや、そこどいてくれないと、わたし、帰れないんですけど。

 魔女の黒トラ……か、猫か、そこは置いておいて、わたしの帰還はどうなってしまうのでしょうか……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ