表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/88

36.気持ちの在り処


「ユリ様、大丈夫ですか」

 精神的にヘロヘロ状態で控室に戻ると、エスターが慌てて駆け寄ってきた。

「エスター殿、側室の件は白紙に戻りましたぞ」

 ルーファスがエスターに小声で伝えると、エスターはほっとしたようにルーファスに頭を下げた。

「そうですか、良かった。……ありがとうございます、ルーファス殿」

「いやいや、私は特に何もしておりません。ラインハルト様と、それからリオン殿下のおかげですな」

 ルーファスの言葉に、エスターはラインハルトへ視線を向けた。


「エスター、戻るぞ。長居は無用だ」

 ラインハルトが言うと、エスターは複雑そうな表情で頭を下げた。

「かしこまりました。……参りましょう、ユリ様」


「おい、エスター」

 来た時と同じように馬に乗って帰る道すがら、ラインハルトが馬を並べ、話しかけてきた。

「……何か」

 エスターが無愛想に返す。聞いたこともないような冷たい声音に、わたしは少し驚いて背後のエスターを見上げた。

 月明りに照らされたエスターは、まるでよく出来た彫像のようだ。完璧な容貌だが、冷ややかで取り付く島もない。わたしはアリーがエスターを評した「近寄りがたい」という言葉を思い出していた。


「まだ怒っているのか」

 ラインハルトがため息交じりに言った。無言のままのエスターに、ラインハルトは肩をすくめた。

「今回は、うるさい貴族どもにもこちらの意向を知らしめる良い機会だった。思惑通り、陛下のみならず貴族どもも、勝手に納得してくれたようだぞ。これからは持ち込まれる縁談も減るだろう」

「……それは、感謝しておりますが」

 エスターは低く言った。

「だからといって、あそこまでする必要はなかったのではありませんか」


 言葉の端々に、抑えきれない怒気がこめられている。

 あそこまで、って……、アレか、キスのことか。でも、殿下はいくら二十七歳といっても見た目小学生なんだし、そこまで気にするようなことでも……、と思っていると、


「考えすぎだ、エスター。見てみろ、当事者のユリでさえ、何とも思っておらん」

 ラインハルトが顔を歪めて言った。

「あの場にいた貴族どもも、ルーファスも。……皆、私のした事は陛下への当てこすりとしか思っておらん」


「……殿下のお気持ちは?」


 エスターが静かに言った。

「他の誰かの思惑などどうでもいい。殿下自身のお気持ちは? 本当に、貴族たちへの意思表示のためだけに、あのような事をなさったのですか」


 ラインハルトはエスターを見返したが、すぐに視線を逸らした。

「……くだらん」

 いつの間にかラインハルトの居室のある棟についていたらしい。ラインハルトは馬から降り、棟の前で待っていた従僕に手綱を渡した。


「明日は神殿に行く。装備を整えておけ」

 それだけ言うと、ラインハルトはこちらを見もせずに、居室のある別棟に入って行った。


 エスターは黙ったままラインハルトを見送ると、私の部屋のある棟へと馬首をめぐらせた。

「エスター……」

 わたしは戸惑い、なんと言えばいいのか迷った。


 あんな言い方、まるでラインハルトの気持ちがわたしにあるみたいだ。まさかそんなはず……と思っていると、


「ユリ様」

 ふいに背後からぎゅっと抱きしめられ、わたしは硬直した。

「エ、エスター」

「ユリ様……」

 耳元にかかる息が熱い。


「気づいておいでかどうかわかりませんが、ラインハルト殿下は、ユリ様を想っていらっしゃいます」

 驚愕のセリフに、わたしは思わず後ろに座るエスターを見ようとした。が、きつく抱きしめられて身動きがとれない。


「まさか」

「本当です」

 エスターは、はあ、と苦しげに息を吐いた。


「私にはわかります。殿下があなたを見る目は、私と同じだ。……許されないとわかっていても、抑えられない。貴族どもの思惑など、口実に過ぎません。ただ、あなたに触れたいから、だからあのような」

「そんな……、そんなはずは」

 わたしはうろたえて言葉を探した。


 いや、だってラインハルトは……、どう見ても子ども(というか美少女)だし、わたしに対する態度だって、とてもそんな好意を抱いているようには思えない。だが、

「たとえあなたの目にどのように映っていても、彼は成人した男です」

 わたしの心を読んだようにエスターは言った。


「ラインハルト殿下は、私と同じようにあなたを欲している。だからあなたに口づけたのです」

「エスター……」

 なんと言えばいいのかわからず、わたしは口ごもった。


「ユリ様、あなたのお気持ちは?」

 わたしを抱きしめたまま、エスターが言った。


「どうかあなたの気持ちをお聞かせてください。……わたしの想いは迷惑ですか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ