表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/88

33.ドレスアップ


「ユリ様、ラインハルト殿下から首飾りが届きましたけど……、困りましたわねえ、これでは色が合いませんわ」

 困ったと言いつつ、アリーはにこにこしている。


「緑の髪紐に赤い石の首飾りだなんて。しかも髪紐には金色の煙水晶もついておりますし。難しいですわねえ、これに合うドレスは……」

 ドレスとな!?


 わたしは慌ててアリーに言った。

「あの、アクセサリーは付けますけど、服は謁見の時と同じじゃダメなんですか?」

「駄目に決まってます」

 アリーは決然と言った。


「謁見ではなく、晩餐会ですもの。それに、事情が事情ですから。ユリ様にはお二方の求婚者がおられると、そう知らしめるための衣装にせねばなりません。異世界の偉大な魔法使い様としてではなく、お二方の求婚者がおられる令嬢としての装いが必要なのです」

 う……、うん、そう、なんだけど……。

「あのでも、わたしドレスなんて持ってませんし、今からじゃ作るのも間に合いませんし」


「大丈夫ですわ!」

 アリーが瞳を輝かせて言い切った。

「私の昔のドレスを、少し直せば問題ありません! 実は、私が初めて宮殿に上がる際に何着かドレスを作ったのですけど、結局着られなかったものがございますの! きっとユリ様にお似合いになると思いますわ!」

 アリーの瞳の輝きようがコワい。

「殿下からお話を伺って、既にドレスは届けさせております! さあユリ様、サイズ直しをしなければなりませんから、まずはどのドレスにするか決めてしまいしょう!」


 ……アリー、衣装持ちなんだな……。

 宮廷に上がるためだけに、いったい何着ドレスを作ったんだ……。

「難しいですわねえ、どれもよくお似合いですけど、緑と赤、それに金に合うものですと……」

 着せ替え人形となったわたしは、心を無にしてアリーの言うがままに動いた。ドレスを着せられてはくるっと回り、手を上げ、下げ、歩き、座り、立った……。神様、泣いてもいいですか。


 最終的に、(アリーが)悩みに悩んで決めたドレスは、光沢のあるアイボリー色のドレスだった。胸元と裾部分に赤いバラと緑の葉の刺繍が散らされ、ウエスト部分には金の縁取りのされた緑色の細いリボンが何本か、ゆるやかにカーブするように縫い込まれている。色合わせは完璧だ。

 だが、サイズが……、丈はぴったりなのだが、胸やウエスト部分がぶかぶかだ。

 このドレス、オフショルダーだから屈んだらかなりマズイことになるのでは。


「アリー……、このドレス、とっても素敵だと思いますが、でも、胸……」

「問題ありません! お任せください、ユリ様!」

 アリーはエスター並みに輝く笑顔で断言した。やる気に満ちあふれたアリー、ちょっとコワい。


 アリーは高速で脇を詰め、ダーツを大きく取りなおしてくれた。

「応急処置ですけど、問題ありませんでしょう」

 出来上がりに満足そうなアリーの言う通り、ウエストも胸もぴったりだ。アリー、ほんとに凄い。なんでも出来る人なんだなあ。


 鏡に映った自分は、意外に様になっていた。なんといってもドレスが可愛い。将来、結婚式のお色直しにこんなドレスを着たいなーとちょっと思ってしまったくらいだ。


 アリーは私の髪をハーフアップに結いながら尚も言った。

「とてもお似合いですけど……、残念ですわ。もう少し時間があれば、朝からユリ様のお肌を磨いて、もっとつやつやのピカピカに仕上げましたのに……」

 アリーの飽くなきチャレンジャースピリッツに、わたしは戦慄した。時間がなくてよかった神様ありがとう! ていうかどんなに頑張っても元が元だから……、そんなに変わらないから、うん……。


 最後に、ラインハルトから贈られた首飾りをつけ、エスターからもらった髪紐でハーフアップにした髪を飾る。

 赤い宝石と緑の髪紐、金色の煙水晶の装飾品を身につけ、同伴者はラインハルト。晩餐会に出席はしないが、護衛として付き従うのは騎士エスター。

 以上の事実から、晩餐会の出席者は瞬時に「異世界の魔法使いは王弟ラインハルトと騎士エスターの二人から求婚されている」と判断するのだという。


 そ……、そういうものなのか。よくわからないけど、自分にはとてもついていけない世界だということだけはわかる。


 異世界のしきたりに密かにおののいていると、エスターとラインハルトの二人が、そろって部屋に迎えに来てくれた。

「ユリ様、よくお似合いです。まるで薔薇の妖精のようです」

 エスターがわたしの手をとり、目を輝かせて褒めてくれた。その気持ちはありがたいのだが、薔薇の妖精って……。


「……まあ、悪くないな」

 ラインハルトの言葉に、わたしは逆にほっとした。エスターの目は異世界フィルターで歪んでいるとしか思えない。


 エスターもラインハルトも、昼間とは違う格好をしていた。

 エスターは緑の髪紐で髪をゆるく束ね、詰襟型の丈の長い黒い上着と揃いのズボンを着ていた。上着には金色の肩章と飾緒がついている。軍服っぽいと思ったら、騎士団の制服だという。イケメンは何を着ても似合うけど、制服がさらにイケメン度を上げている、とわたしは思った。


 ラインハルトは昼間会った時より、いくぶん簡素な装いになっていた。金のサークレットやサッシュ、これでもか!と付けられていた勲章がなくなっている。

「あんなにジャラジャラ飾りをつけて食事ができるか」 

 ラインハルトがうんざりしたように言った。

 ジャケットも詰襟タイプから開襟タイプになり、ブラウスのフリル襟が見えて、ラインハルトの可愛らしさをさらにアップさせている。ラインハルト様、可愛い……、めっちゃ美少女……。


 この二人に求婚されてる体でいくのか、と思うと、心の底から申し訳なくなった。

 本当にすみません……、わたしの意思じゃないけど……、悪いのは王様だけど……、でも、やっぱり全方位に謝っておきたい。

 誠に申し訳ありません、心からお詫びいたします。どうぞお許しください!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ