27.贈り物の意味
謁見の控えの間には、既にラインハルトと護衛の騎士がいた。
「お待たせいたしました」
エスターが頭を下げると、
「いや、私が早すぎたのだ。……これ以上、あれこれいじくり回されたくなくて早めに部屋を出たゆえな」
うんざりしたようにラインハルトが言う。たしかにラインハルトも正装しているけど、これでもか! という勢いで飾り立てられている。
額には黄金のサークレットが輝き、金糸で縫い取りされた黒のジャケットには肩から斜めに鮮やかな赤いサッシュがかけられ、前面びっちり勲章っぽいものが付けられている。重そう。
殿下……、普段は忘れてるけど、筆頭魔法騎士なんだよね。どれだけ武勲をたててるんだ、こんな可愛いのに。
ふと、王子の隣がやけにキラキラしているなと思って目をやると、金髪の護衛騎士と目が合った。
シャンプーのCMに出てきそうな、天使の輪が輝くサラサラの金髪。長いまつ毛が物憂げに、切れ長の青い瞳を縁取っている。そして、右目の下には大変色っぽい泣きぼくろが……。
「オーエンさん」
わたしは思わずつぶやいた。間違いない! この方はアリーの愛しの旦那様!
「……ユリ様、オーエンをご存じなのですか?」
はい、一方的に。怪訝そうなエスターに、わたしは力強く頷いた。アリーとオーエンのラブストーリーなら、一時間くらい語れます!
当のオーエンも不思議そうにしていたので、わたしは慌てて事情を説明した。
「アリーさんには、いつも大変お世話になっております」
わたしが頭を下げると、オーエンがにこやかに応じてくれた。
「いえ、こちらこそ。ユリ様のお話は、アリーやエスターからよく伺っております」
なに。アリーもエスターも、何を言ったんですか。
「……その髪紐についても、相談を受けました」
「オーエン」
エスターが咎めるように名を呼んだけど、オーエンはにこにこしている。
「エスターからそうした相談を受けた時は驚きましたが……、ユリ様のお気に召したようですね。良かった」
オーエンの言葉に、ラインハルトが初めて気づいたようにわたしの髪紐をじっと見た。
「……エスターの髪と瞳の色だな」
おお、言われてみれば!
「そう言えばそうですね! 髪と同じ色の石だなっていうのはわかったんですけど、瞳のほうは気づきませんでした!」
お揃いだね! と何となく嬉しくなってエスターを見ると、何故か真っ赤になってうつむいている。
「エスター?」
「……エスター、何を考えている? ユリを異世界に戻すために、ハティスの森へ向かうというのに」
ラインハルトが顔をしかめている。
事ここに至ってやっと、わたしはこの髪紐に何らかの意味があるのだとわかった。
「……あのエスター、この髪紐って」
「己の髪と瞳の色の装飾品を贈ることは、求愛行為とみなされる」
ラインハルトがしかめ面のまま言った。
求愛!? と驚いてエスターを見ると、エスターは真っ赤な顔のまま、わたしの前にひざまずいた。
「エスター」
「……ユリ様を元の世界にお戻しするため、命を懸けてお守りいたします。その誓いは違えません。……が、己の気持ちを偽ることもできません」
エスターは顔を上げ、目元を赤く染めてわたしを見た。
「お慕いしております、ユリ様」
そう言うと、エスターはわたしの手をとり、そっと唇を押し当てた。
「え、……えっ!?」
わたしはうろたえ、オロオロと周囲を見回した。
ラインハルトは苦々しそうな表情をしているが、オーエンは変わらずにこにこしている。アリーの言う通り、優しそう……じゃなくて!
お慕い……、お慕いって、好きってこと? エスターがわたしを? え、ウソ。
「ウソ……」
「嘘ではありません」
驚きのあまりこぼれた言葉を、エスターが律儀に否定した。
「あなたに偽りは申しません。お慕いしております、心から」
ぎゅっと握られた手が熱い。
いや、ウソでしょ!?




