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(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


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24.NGワードの謎


 魔女の使い魔は、元々は結界付近をちょろちょろする子猫だったのだ、とルーファスは言った。

「人慣れしておりましたし、元は飼い猫だったのかもしれません。飼い主が戦などで亡くなり、魔獣化する獣は昔からおりました。家畜などは国が管理いたしますが、ペットとなるとなかなか把握が難しく、貰い手がなく運が悪ければ、魔獣化することもままあるのです」

 魔獣は、瘴気がたまって発生する場合と、元は普通の獣だったのが瘴気を浴びつづけて魔獣化する、二つのパターンがあるそうだ。


 騎士は魔獣を討伐し、魔法使いはそれをサポートする。

 何度か結界付近を見回っている内、一人の魔法使いが、魔力も少なく見た目もほとんど普通の猫であるその魔獣を見つけた。


 本来なら、見つけたその時に退治しなければならなかった。魔獣は、存在するだけで人に害をなすのだから。

「しかしその魔法使いは、無類の猫好きでしてなあ……」

 遠くを見ながらルーファスが言った。隣でラインハルトが苦虫を噛みつぶしたような表情をしている。


「その魔法使いは子猫に名を付け、こっそり可愛がっておりました。子猫のエサやおもちゃを持っては、いそいそと結界の見回りに行くようになったのです……」

 なんか可愛い。飼っちゃダメ! って叱られた小学生が、橋の下に隠した子猫に会いにいってる感。


 しかしある時、悲劇が起こった。

「可愛い子猫は魔女に目をつけられ、魔女の使い魔とされてしまったのです!」

 うん?

 わたしは首をひねった。


 魔獣としてはあまり力のない子猫を魔女が引き取り、飼い主としてちゃんとお世話を始めたってこと? それならいいんじゃない? と思ったのだが、

「まったく良くはない! 魔女の力を受けた子猫は、あの通り巨大な黒ト……猫になってしまったのだぞ!」

「殿下、いまトラって言いかけましたよね?」


 子猫は魔女の使い魔となったことにより魔力が増大し、人語を解すほどの知能を有するようになった。その変化した姿に、子猫を可愛がっていた魔法使いは動揺した。魔女の使い魔として同胞の前に立ちはだかるその姿は、あまりに……、巨大だった。

 彼は叫んだ。

「ミーちゃんがトラになった!!」と。


「それを聞いた使い魔が、怒り狂いましてなあ……」

 ふう、とため息をつくルーファス。ラインハルトも苦々しい表情で「あの時は死ぬかと思った」と言っている。


 そ、そうか……。ミーちゃん、怒っちゃったんだね……。いつまでも可愛い子猫気分でいたら、久しぶりに会った下僕にトラ呼ばわりされて、頭に来ちゃったんだね……。

 それでトラがNGワードになったのか。謎が解けました。


「その話からもわかるだろう。魔獣に情けをかけると、ろくなことにならぬと」

「いやそれ、魔獣うんぬんの話じゃなくて、猫にお仕えする下僕が対応を誤ったというだけの話なのでは」

 ラインハルトがわたしを睨んだ。


「とにかく、魔獣に対して下手な思い入れは持つな。情が移れば、それだけ退治しにくくなる」

 それはたしかに……。


「……あの、子猫を可愛がってた魔法使いさんは、その後、どうなったんでしょうか」

「彼は……、魔獣を退治できなくなってしまいましてな」

 ルーファスが言いづらそうに答えた。


「今は結界修復および公共工事専門の魔法使いとして働いております。元々、攻撃魔法は苦手としておりましたので、ちょうど良い機会かと私から勧めましてな」

 おまえは甘い、とラインハルトが呟いたけど、うーん、人には向き不向きがあるし、ルーファスの考えにわたしも賛成だ。


 そして、攻撃魔法の苦手な魔法使い、という言葉に、わたしはエスターを思い出した。

「あの、魔法って攻撃魔法とか防御魔法とか色々あると思うんですけど、例えば……花びらを空から降らせるような魔法って、なんて言うんですか?」

「花びらを……」

 ルーファスが少し考え込んだ。


「すぐ消えてしまうなら、幻影魔法ですかな」

「幻じゃなくて本物の場合は? お花のいい香りもするような」

 ルーファスは目を細め、わたしを見た。


「……その場合は、創造魔法、もしくは植物魔法と風魔法を組み合わせたものでしょうか。いずれにしても、なかなか珍しい魔力適性でなければ出来ぬ魔法です」

「そうなんですか……」

 マズい。誰がそんな魔法を、って聞かれたらどうしよう。いや、エスターが秘密にしてるかどうかはわかんないけど。


「ユリ様は、その花びらの魔法をどこかでご覧になったのですかな?」

「あ、ああ……、あのえーと、そういう魔法をわたしも使えたらなって思ったんです。憧れの魔法というか」

 うん、これは本当。空からお花を降らせるなんてロマンチックな魔法、使えるものなら使ってみたい。


「そのような魔法、なぜ使いたいのだ? 何の役にも立たぬ魔法ではないか」

 ラインハルトが理解できない、と言いたげな表情で言った。


 ……こっちではこういう反応が当たり前なんだろうか。だとしたら、そりゃエスターの心も折れるよなあ……。



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