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(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


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23.魔獣の認識


「よし、だいぶ魔力操作も上達したな。この分なら、ハティスの森へ行っても問題あるまい」

「ありがとうございます!」


 あれから何度かラインハルトにしごかれ、わたしはようやく合格点をもらえた。

 隣でルーファスもにこにこしている。

「ユリ様、おめでとうございます」

「ありがとうルーファス……!」

 わたしは感極まってちょっと涙目になった。


 大きな声では言えないが、やっぱり無理だエスターには悪いけどぜんぶ丸投げさせてくださいお願いします! と思ったことが何度もあった。

 訓練そのものより、たとえ魔獣とはいえ生き物を殺すことへの忌避感が問題だったと思う。特に外見が可愛らしい魔獣だと、精神的にキツかった。

 またラインハルト様が、可愛い顔して厳しいのなんの……。忙しい合間を縫って教えてもらってるんだから感謝すべきなんだろうけど、あまりにドSな指導っぷりに、何度もチェンジを要求する言葉を涙とともに飲み込んだものだった。


 しかし、ようやく! ラインハルトのお墨付きもいただいた!

 これで晴れて、ハティスの森に行ける! ハティスの森にある『円』には、だいたい一週間くらいで着く(順調にいけば)らしい。

 よし、一週間後には元の世界に戻れる! ここまで来たからには、やるぞ! やれる! やるしかない!


 自己暗示をかけるわたしの横で、ルーファスがにこやかに言った。

「あとは簡易結界を覚えるだけですな」


 簡易結界? と首をひねるわたしに、ルーファスが説明してくれた。

 野宿が予想される旅では、必須とされる魔法、簡易結界。

 用を足している間、身を清めている間に、魔獣に襲われることのないよう、簡易的な結界を張るのだという。


 た、たしかに……。裸になって体を洗っている時に魔獣に襲われて森の中を逃げ回る、なんて絶対ゴメンだ。何があってもその魔法、習得しなければ。


「簡易結界は私がお教えいたしましょう。殿下は明日からしばらくお忙しいでしょうから」

 ルーファスが言った。

 聞くと、ラインハルトは火の精霊に加護を与えられているのだという。神殿で定期的に火の精霊に祈りを捧げることによって、王国全体に張られた結界を強化してもらってるんだとか。

 精霊とかよくわからないけど、神様的な何かに気に入られてるってことだろうか。すごい。そういえば、ラインハルトの目は炎みたいな赤い色をしている。火の精霊と関係してるのかな。


「……祈りの期間が過ぎたら、ハティスの森へ向かう。ユリ、訓練を怠るなよ」

「はいっ!」

 元気よく返事をするわたしを、ラインハルトはうろんげに見た。


「おまえの魔法はだいぶ上達したと思う。魔力量も問題ない。ただ、おまえは……、おまえの魔獣に対する認識には、問題がある」

 うっ。

 痛いところを突かれ、わたしはうつむいた。


「魔獣は、人に害をなす。放っておけば空気を、土壌を汚染し、人の住める土地を奪う。情けをかけるべき存在ではないのだ。ハティスの森に入る前に、それをしっかり頭に叩きこんでおけ」

「スミマセン……」


 力なく謝るわたしを哀れに思ったのか、ルーファスが優しく言った。

「まあ、これは中々難しい問題です。魔獣の害についてよく承知している魔法使いであっても、うっかり魔獣に情をかけてしまうこともあるのですから」

「……そんなことが?」

 エスターやラインハルトは、ためらいなく魔獣を斬り殺していたけど。


 だが、ルーファスは大きく頷いた。

「ええ、ユリ様もご覧になったことがおありでしょうが、魔女の使い魔、あれと仲良くなってしまった魔法使いがおりましてなあ」

「えっ!?」

 わたしは驚いてルーファスを見た。


 魔女の使い魔。あの巨大な黒トラ……と言うと怒られるから、黒猫。あんな怖そうな魔獣と仲良くなるなんて、なかなかハートの強い魔法使いだなあ。



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