表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/88

21.エスターの魔法


「だいぶお疲れのようですね」

 エスターがわたしを見て言った。

「慣れない動きをしたからだと思います。型はだいたい覚えたので、次からは大丈夫! ……じゃないかと」

 ふふ、とエスターがやわらかく笑った。


「この杖、返しますね。ありがとうございました」

 綺麗な魔法の杖をエスターに返すと、

「いえ……これは、よろしければユリ様に差し上げます」

 遠慮がちに言われ、わたしはえっと驚いた。


「あのでも、これはエスターの杖ですよね? 魔法を使うための……」

「騎士となってから、長く使っておりません。たぶんもう、使うこともないでしょうから」

 わたしは不思議に思ってエスターを見た。

「なんでですか? せっかく魔法が使えるのに、もったいない」


 わたしの言葉に、エスターが小さく吹き出した。

「もったいない、ですか」

 くすくす笑いながら、エスターはわたしの言葉をくり返した。


「私が使えるのは……、意味のない、役に立たぬ魔法ばかりです。昔は魔法使いになりたいと思っておりましたが、才能がなく諦めました」

「えっ!?」

 生まれた時から騎士でした、と言われても納得してしまうようなエスターが、実は魔法使いに憧れていたとは。

 でも気持ちはわかる。剣より魔法の杖のほうがいいよね、やっぱり。


「ちなみに、どんな魔法を使えるんですか?」

 わたしがワクワクした目でエスターを見ると、エスターは小さく笑い、杖を手に立ち上がった。四阿の端に立ち、空に向かってふわりと杖を振る。


『花の雨』


 エスターが唱えると、一瞬の後、空からひらひらとピンク色の花びらが降ってきた。

「えっ……、え!?」

 わたしは思わず立ち上がり、四阿の前の芝生に走り出た。

 見上げる空から、ひらひらと、紙吹雪のように花びらが舞い落ちる。


「わあ……!」

 わたしは両手で花びらを受け止め、四阿にいるエスターを振り返った。

「すごい、エスター、すごいです! こんな素敵な魔法が使えたんですね!」


 エスターは杖を構えたまま、びっくりしたようにわたしを見ていた。

 この魔法、こっちの世界ではあんまりウケが良くないんだろうか。でも、わたしにとっては、今まで見た中で一番素敵な魔法だ。空から花びらが降ってくるなんて、なんというメルヘンマジック。素晴らしいです!


 ひとしきり花吹雪を満喫してから、わたしは四阿に戻った。

「エスター、この魔法、すごいですよ。なんかお花のいい香りもするし、見た人みんな喜ぶんじゃないですか?」

「……祖父は、喜んでくれましたが……」

 エスターはぎこちなく視線をそらし、椅子に座り直した。照れているのか、頬が赤い。


「しかし、このような魔法では魔獣から身を守ることも、ましてや倒すこともできません。意味のない魔法ですから……」

 魔獣が評価の基本になってるところに、価値観の違いを感じる。こちらの世界ではしょうがないことなのかな。


「こっちの世界ではそうかもしれないですけど、わたしの世界ではめちゃくちゃ喜ばれると思いますよ。特に女性に」

「そうなのですか?」

 不思議そうにエスターがわたしを見た。

「ええ、間違いないです! わたしの世界でこんな魔法使ったら、エスター、女性にモテモテですよ!」

 まあ魔法を使わなくてもモテるだろうけど。


 わたしが力説すると、エスターは顔を赤くしたまま視線をさまよわせた。

 アリーの話だと、こちらの世界でもエスターは女性に人気があるけど、特に親しく付き合っている人はいないということだった。褒められ慣れてないのかもしれない。こんなに見た目も性格も素晴らしいのに、もったいない。

 エスターは自己評価が低すぎるような……。もっと自信を持っていいと思うんだけど。


 わたしは、ふとラインハルトを思い出した。

 まあ、あそこまでエラそうなのもどうかという気がする。二人を足して割れば、ちょうどいいのにな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ