表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/88

20.護身術


 エスターの屋敷の裏庭には、小さな四阿があった。四阿の周囲にはぐるりと芝生が植えられ、屋敷の前庭と違って花はなかった。

「生前の祖父は、ここに評判の吟遊詩人や踊り子などを招き、親しい友人たちとその技芸を楽しんでおりました」

 おお、エスターのお祖父さん、粋人だったんですね! 冒険者のように洞窟を探検するバイタリティもあるし、カッコよくて面白い人だったんだろうなあ。


 そういった目的のために整えられたせいで、見晴らしもいいし足場も安定している。

 護身術の訓練の場としては十分だろう。


 エスターが選んでくれた短剣を順番に使用し、一番手に馴染むものを最終的に使用することになった。わたしはまず最初に、他に比べると少し小さめの、使い込まれた短剣を手に取った。

「それは、私が子どもの頃使っていたものです」

 エスターが懐かしそうに言った。

「その短剣で、祖父と一緒に森に入って薬草などを採取しました。……大きさはちょうど良いようですね。では始めますか」


 エスターはまず、構えから教えてくれた。

 短剣を胸元に引き寄せるようにして水平に持ち、切っ先を相手に向ける。

 腰を落とし、重心を低く保つ。上下左右、素早く動けるように膝をやわらかく使う。


「とてもいいですよ。では、少し動いてみましょう」

 エスターが型のお手本を見せ、その通りにわたしも動……いてるつもりなんだけど、これがけっこう難しい。エスターは軽々と動いてるけど、これ、バランス取りづらいし、刃物を持ってると思うと右手に余計な力が入ってしまう。


 何度かくり返してから、エスターが提案した。

「短剣を持ったままだと、力が入ってしまうようですね。とりあえず今は、型の動きを覚えることが先ですので、剣ではなく何か別のものを持って試してみましょう」

 エスターは一度屋敷内に戻り、小さな棒のようなものを手に戻ってきた。


「これは……?」

「これも昔、私が使っていたものです。魔法用の、金属製の杖です」

 魔法の杖!

 わたしは驚いてエスターを見た。

 エスター、魔法が使えたんだ。


 杖は金属製と言ってたけど、先端は青、持ち手は銀の綺麗なグラデーションできらきら輝いている。こんな金属、初めて見た。

「綺麗な杖ですね!」

 なんか素敵な魔法が使えそう。うきうきして渡された杖を振っていたら、くすっとエスターが笑った。

「……お気に召していただいて、何よりです」


 なにを浮かれてるんだ、と笑われてしまったのだろうか……。

 いやだって、魔法のない世界で生きてきた人間が、こんな綺麗な魔法の杖を手にしたら、少しくらいテンション上がっても仕方ないと思うのですが。


 杖のおかげかはわからないけど、その後、型を幾通りか覚える練習はなんとか上手くいった。

 大して動いた訳でもないのに、慣れない動きをしたせいかひどく疲れてしまった。

「少し休憩しましょうか」

 エスターに言われた時は、もう限界でわたしは地面に座り込んでしまった。


 疲れた。元の世界ではテニスサークルに入ってるから運動は割としてるほうだと思うけど、普段と違う筋肉を使うと、こんなにも疲れるものなんだな。

「ユリ様、大丈夫ですか? こちらに座ってお休みください。いま何か、飲み物を持ってきましょう」

 エスターは四阿の椅子にわたしを座らせてくれた。


「あ、飲み物とかお菓子とか、アリーがわたしの荷物に詰めてくれました」

「わかりました、持ってまいります」

 颯爽と走っていくエスター。ぜんぜん疲れてなさそうだ。基礎体力の違いを感じる。


 しばらくして、エスターがわたしの荷物を背負い、手には木の器や皿を載せたトレイを持って現れた。

「荷物を開けてみてもよろしいですか?」

 わたしに確認し、てきぱきとお茶の準備をするエスター。エスターも優秀な侍女になれそうだ。


「どうぞ、ユリ様」

 木の器に注がれたノズリ茶を飲むと、ほっとため息がもれた。

 あー、疲れた……。魔法の訓練より、護身術のほうがキツいかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ