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(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


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18.ぜんぶ魔女のせいです


「申し訳ありません、このような早い時刻に」

 エスターは部屋に通されると、まず謝ってきた。いついかなる時も礼儀正しい騎士様だ。

 シャツにズボン、革の長靴にマントといういつも通りの格好だが、今日は肩を越すほどの長さのダークブロンドを後ろでゆるく一つに縛っている。

 マントの下からは長剣と短剣、二本の剣がちらりと見えた。手の甲まで覆う籠手もしている。

 エスターは頭を上げると、しげしげとわたしを見つめた。


 エスターの視線に、もしかしてボタンかけ違ってる? と、わたしは心配になってそっと自分の服装をチェックした。

 腰が隠れるほどの丈のチュニックをベルトで調節し、幅広のズボンの上から膝まである革の長靴を履いている。城内でよく見かける騎士見習いや従者のような格好だが、とても動きやすい。


 服装に特におかしなところはない……、と思う。髪に寝癖がついてる? と思ったが、髪はさっきアリーが高速でポニーテールに結ってくれた。わたしはともかく、アリーに抜けがあるとは思えない。


「昨日、ユリ様が訓練で魔獣を倒したとうかがいました」

「あ、はい」

 心配してくれたのかな、とわたしは少し申し訳なくなった。


「あの、魔獣を倒したのはラインハルト様なんです。わたしは一応、『盾』が使えるようになりましたが」

「そうですか……」

 エスターはわたしを見下ろし、気づかわしげに言った。


「お怪我などはなかったと伺いましたが、体調はいかがですか?」

「わたしは何とも。わたしよりラインハルト様やルーファスさんのほうが、いろいろ大変だったと思います。特にラインハルト様なんですけど、わたし二回も『龍』で吹っ飛ばしちゃったんですよ」

 肩をすくめて言うと、エスターは小さく笑った。

「殿下なら問題ありません。防御魔術も一通りお使いになれますし、訓練でそうしたことはままあることですから」

 そうは言っても、王弟殿下を吹っ飛ばすのはどうなんだと思うけど。


「あの、何かあったんですか?」

 わたしはエスターの腰に下げられた二本の剣と籠手を見て言った。ふだんから帯剣してるエスターだけど、わたしと一緒に結界の外に出た時でさえ長剣一本だけの装備だったのに、今日は短剣追加のうえ、籠手までしている。


 わたしの言葉に、エスターは、ああ、と籠手に触れて言った。

「この時刻に出没する魔獣の数が増えているという報告がありましたので、結界の見回りに出ておりました」

「え、あの、呪いは大丈夫なんですか?」

 わたしは驚いて言った。

 エスターは戦うと、例の呪いでマズいことになるのでは……。

 わたしの表情に気づき、エスターは苦笑した。


「以前にも申し上げた通り、結界付近の小物ならば戦っても問題ありませんし、万一に備え、拘束術を使える魔法使いも伴っております」


 魔女に呪われてからは、常に拘束術を使える魔法使いとセットで動いていたという。

 そ、そうか、じゃ誰かを襲ったことはないんですね……、勝手に疑っててすみませんでした。


 エスターは少し考え込んだ。

「ルーファス殿の話ですと、魔獣の力とも呪いは連動しているようです。結界付近の小物ならばさして問題ありませんが、ハティスの森にいるような魔獣だと、戦うたびに呪いが発動するだろうと。また、連続して戦い続ければ、力のない魔獣相手であっても呪いは発動するとのことでした」


 へー。なんか、呪いポイントがたまって発動! みたいな感じなのかな。

 でも、拘束術の使える魔法使いと一緒ということは、呪いが発動して性的にアレなことになると、動けないように魔法をかけられるってことだよね。戦闘の最中だと命にも関わるだろうし、そりゃ周囲だって呪いを解こうと必死になるだろう。異世界からの無理やり召喚で解決しようとしたのは、どうかと思うけど。


 エスターはまたすぐ出かけなければならないとのことなので、わたしは急いでテニスラケットを持ってきた。

「あの、よければ……、その、た、叩いておきます?」

 恥ずかしさをこらえ、わたしは言った。


 ううう。もっとこう、マシな言い回しはないものか。

 軽く爽やかな感じで言えばいいんだろうか。さあ叩きますよ元気よくいきましょう! みたいな? いや、これだと爽やかそうに見せかけてるだけで、逆に変態度が上がってる気がする。


「よろしいのですか? では、お願いいたします」

 エスターは嬉しそうにわたしに背中を向けた。

「えーっと、はい、じゃ……ちょっと失礼します」

 パシッと軽めにエスターの背を叩く。

 ふわふわっとピンク色の靄が立ち上り、金色の火花が弾ける。最初の時ほどの量ではないけど、やっぱり呪いポイントはたまってたみたいだ。


「ありがとうございます、ユリ様」

 エスターの笑顔がまぶしい。

「あの、呪いが発動しないように、こんな感じで定期的にぶっ……たほうがいいでしょうか」

 求む何かマシな言い方!

 恥ずかしさをこらえるわたしに、エスターはキラキラの笑顔を向けた。


「ユリ様」

 うつむくわたしの手をとり、エスターは指先に軽く口づけた。

「ぅお」

「ありがとうございます」

 驚きのあまり変な声がもれたが、エスターはキラキラ笑顔のまま、優しく言った。


「ユリ様のおかげで、私は戦うことができます。ユリ様さえよろしければ、これからも私をぶっていただけますか?」

「…………。は、い……」

 ええ、わかっています、そういう意味じゃないってことは。わかってる、わかっているけど……、でも、キラキラの笑顔でそーいうセリフを言われると、精神的にキツいんです……。

 いや、エスターは悪くない。悪いのは、呪いをかけた魔女だ。


 でもやっぱり、言い方ー!



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