17.異世界の神々
「今日は頑張ったな、ユリ」
ラインハルトが優しく声をかけてくれた。
「誠に。『盾』を使える上、瘴気も祓えるとあれば新たな魔獣の発生も抑えられます。あと何度か実戦を積めば、問題なくハティスの森へも行けるかと」
ルーファスも満面の笑みを浮かべている。
実戦……。実戦というと、当たり前だけど魔獣を殺さなきゃならないんだろうな……。ミミズも嫌だが、かといって兎も……。
いや、そんな事言ってる場合じゃない。魔獣を生かす代わりに自分が死ぬかって言われたら、選択肢なんてないも同じだ。
あー、でも気が重い……。
欝々とした気持ちでお城に戻ると、アリーが心配して待っていてくれた。
「ユリ様、お怪我はありませんか? お疲れのようですが、湯浴みをなさいますか?」
わたしが風呂好きなのを知っていて、準備して待っててくれたらしい。あなたは女神ですか。
アリーの気遣いを受け、わたしはありがたくお風呂に入らせてもらうことにした。
お風呂に入って一晩寝れば、明日はまた頑張れる。うん、たぶん……。
アリーの気遣いか、お風呂には柑橘系の爽やかな香りがたちこめていた。いい香り……なんだけど、わたしは魔物除けの薬草の匂いを思い出し、落ち込んでしまった。
いや、もう考えない。訓練するって決めたのは、自分なんだし。今ここで、やっぱ魔獣殺すのやだー! エスターやって! って言うなんて、あまりに無責任すぎる。
自分の決めたことだ、と言い聞かせながらも、わたしはツノウサギが切り裂かれ、悲鳴を上げて死んでいった光景を思い出していた。
ちょっとだけ泣いて、それからわたしはお風呂から上がった。
かなり長風呂になってしまった。のぼせたのか、少しクラクラする。
「ユリ様、先ほどエスター様がいらっしゃいましたわ」
「え」
わたしは驚き、転びそうになってしまった。
「まあユリ様、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい、ちょっとのぼせちゃったみたいで」
エスターはわたしが入浴中と聞くと、そのまま帰ったらしい。訓練が無事終わったかどうか、気にして来てくれたんだろう。申し訳ないことをした。
「こちらをどうぞ、ユリ様」
アリーが氷を浮かべた飲み物を差し出した。
お礼を言って飲むと、何かの果汁らしいとろりとした舌触りだった。濃厚な甘さが疲れた体に染み渡る。
「ありがとう、アリー。これ、美味しいですね」
「エスター様からですわ。疲労回復に効くとかで、ユリ様にと」
「え……」
エスター、気遣いの神。マジでエスターの家のトイレ掃除をするべきかもしれない。
いや、エスターだけじゃない。アリーやルーファス、ラインハルトにもこちらの世界に来てからずっとお世話になっている。……まあ、そもそもこちらの世界に来たのは自分の意志ではないんだけど、だからって世話になって当然とも思えない。
わたしにもできるような、お返しというかちょっとしたプレゼントって、何かないかなあ。
わたしは夕食はとらず、そのまま休むことにした。
みんなに心配してもらってるんだし、明日は元気になって頑張らないと。
その夜は夢も見ず、ぐっすりと眠れた。悪夢を見るのではないかとちょっと心配だったから、目覚めた時、ほっとした。
カーテン越しに朝日が差し込んでいる。今日も晴れそうだ。
よし頑張るぞ! と気合を入れてベッドから起きると、
「ユリ様、エスター様がお見えですわ」
アリーが慌てたように部屋に入ってきた。
え、えっ? いま起きたばかりなんですけど。こんな朝早く、なんかあったの?




