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(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


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14.キラキラ騎士とミミズ討伐


「もうおまえとは訓練せぬ!」

 ラインハルトがぷりぷり怒っている。

 まあ、そうだよね。わざとではない、決してわざとではないのだが、結果としてわたしは、二回もラインハルトに『風の龍』を直撃させてしまったのだ……。


「すみません……」

 うなだれるわたしに、まあまあ、とルーファスが声をかけた。

「とにかく『龍』は問題なくお使いになれるということがわかりましたし。これだけ威力のある『龍』ならば、ハティスの森に行っても問題ないのでは?」

 しかしラインハルトは納得しなかった。


「魔獣とともに毎回吹っ飛ばされる身にもなってみろ! 『龍』ではなく『盾』を使いこなせるようにならねば、とても安心して連れてゆけん!」

 うん、まあ、ごもっともです。


「『盾』かあ……」

「おまえはとにかく、魔獣を見ても慌てるな。平常心を保て。魔法は心で制御するのだ。心を乱してはならん」

「そうは言っても、巨大ミミズ見たらたいていの人間は慌てますよ……」

 ボヤくわたしの肩をたたき、ルーファスが言った。


「まあ、ひとまず休憩をとりませんか? この辺りは結界の近くですし、今の内に今後の訓練について話し合いをしておきましょう」

「いやでも、さっきみたいにいきなり巨大ミミズが出たら……」

 わたしはぶるっと体を震わせた。のんびり休憩している背後に、いきなりあのキモい魔獣が現れたら発狂する。


「大丈夫です」

 ルーファスはにこやかに腰に下げた荷物袋から、ゲンコツくらいの大きさの茶色の塊を取り出した。聞けば、魔獣除けの薬草を干し、固めたものだという。


「これを焚いておけば、結界付近の弱い魔獣は近寄れません」

「最初からそれ焚いておけばよかったんじゃ……」

「それでは訓練にならぬだろう!」

 ラインハルトが怒って言った。


「おまえは結界付近の小物ではなく、いきなり強力な魔獣と相対したいと言うのか? 私やルーファスがいても守り切れるかどうかわからぬ、それぐらい危険な魔獣と戦いたいと?」

「いえ、そんなつもりはこれっぽっちも」

「なら文句を言うな!」


「まあ、もう少し先に行けば、出現する魔獣の種類も変わりますから。強さも上がりますが、見た目はマシになりますし、ユリ様にはそのほうが良いかもしれませんな」

「……この先、どんな魔獣が出るんですか?」

 わたしは恐る恐る尋ねた。

 見た目がマシって、ミミズではなく蜘蛛になるとかだったら、あまり意味はないんですが。


 そうですなあ、とルーファスは火をつけた魔獣除けの薬草を地面に置き、考え込んだ。薬草はゆっくりと燃えはじめ、煙を立ち上らせた。柑橘系の、ちょっとツンとくる香りがしたが、嫌な匂いではない。

 ラインハルトも背負っていた荷物を下ろし、中から薄い緑色の敷物を取り出して地面に広げた。座れと指示されて腰を下ろすと、見た目の薄さからは想像もできない、フカフカした感触だった。とても座り心地がいい。これも魔法を使っているんだろうか。

「この先は、比較的小型の魔獣が多く出現します。小さく素早い……、そうですな、例えばツノがついた兎のような姿の魔獣ですとか」

 え、なにそれ可愛い。


「正式名称は別にあったと思いますが、みなツノウサギと呼んでおります。他は、そうですなあ、ツノギツネ、ヒギツネ、ハシリドリなどですかな。通常の獣に似ておりますが、攻撃力が高く素早いので、注意が必要です」

「それだったら大丈夫です! 今度こそ頑張ります!」

 うん、そういう魔獣なら落ち着いて対処できると思う。いくら弱いと言っても、ミミズとか蛇とか見た目だけで大ダメージの魔獣のほうが、よっぽどイヤだ。


 わたしは気を取り直し、ほっと息をついた。

 アリーの持たせてくれたお茶や簡易食糧を取り出し、二人に配った。

「ビスケットに干したノズリの実に、ノズリ茶まで……、アリーは何を考えている。まったく、遊びと勘違いしているのではなかろうな」

 ラインハルトはブツブツ言っていたけど、皮製の水筒に入れられたお茶は、まだほんのり温かく、おいしかった。


「アリーって美人だし優しいし、お料理も上手ですよね。あんな素敵な人を侍女にしてくださって、ありがとうございます」

 お礼を言うと、ラインハルトはふん、とふんぞり返った。褒められたのはアリーなのに、なぜにそんなにエラそーな態度とは思うけど、見た目美少女なのでやっぱり可愛い。


「そういえばユリ様の侍女は、殿下の遠縁にあたられる方でしたな。この間、近衛騎士と婚姻を結ばれたばかりでは?」

「ああ、その通りだ。相手は誰だったか……」

「オーエンさんですよね」

 わたしが答えると、ラインハルトが驚いたようにわたしを見た。


「何故おまえが知っているのだ」

「出会って三分でアリーが教えてくれました」

 本当だ。三分より早かったかもしれない。


「オーエン殿はたしか、エスター殿と同期でしたな。いまだにエスター殿に近衛隊に移れと熱心に勧誘しているようですが」

「……エスターは元々、魔獣討伐隊に入るために騎士になったと聞いている。近衛隊には入らんだろう」


 わたしは干したノズリの実を食べながら、聞くともなしに二人の話を聞いていた。

 近衛隊とは、国によって任務に幅はあれど、たしか君主などを警備する隊のことではなかったか。古代文字さえ解読するという異世界翻訳機能がバグってなければ、こちらの世界でも同じ意味と思っていいだろう。そしてたしか近衛隊は、軍の中でも花形的存在だったような……。

 それに比べて魔獣討伐って、つまりあの巨大ミミズとかを退治する隊ってことだよね。どう考えても近衛騎士のほうがキラキラしてるし、出世感もある。

 なんでエスターはキラキラ騎士の座を蹴って、ミミズ討伐を選んだんだろう。さっぱりわからないなー。



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