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(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


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13.決してわざとではありません


 結界付近まで、今回は馬車を使った。

 市街地を抜ける間、ルーファスが簡単に、結界からハティスの森までのフィールドに出る魔獣について説明してくれた。


「ハティスの森は、結界を出てから二刻ほど歩いた先にあります。森の外ならば、さほど強い魔獣は出ませんので、ご安心ください。ただ、そうですなあ……、蛇やら巨大なミミズやらが出ますので、そういった意味ではユリ様には厳しいかもしれませんなあ」

 ルーファスの言葉に、わたしはひっと息を飲んだ。


「蛇……はともかく、ミミズ、巨大なミミズって……」

「ああ、あれは私も好かん」

 ラインハルトが顔を顰めた。


「人の足ほどの太さの、そうだな、長さは私の身長くらいか。それくらいの大きさのミミズに集団で襲いかかられると、気味が悪くてかなわん。剣で斬ってもベトベトした青緑の気持ちの悪い体液が飛ぶし、魔法で焼き尽くしても息絶えるまで激しくのたうち回るし、あれはぞっとせんな」

 控えめに言って、それ最悪の魔獣なのでは!


「いや、ちょっ……、すみません、最初から申し訳ないんですけど、巨大ミミズはわたし無理です。とてもそんな気持ち悪いのと戦ったりできません。その魔獣は回避する方向で……」

「わかっている」

 ラインハルトが頷いた。

 よかった、とほっと息をついたら、


「戦えとは言わん。己の身を守れればいいのだ。『盾』の魔法を使え。『盾』の魔法は『龍』の変化型だから、魔力操作が鍵となる。それができれば訓練は終わりだ」

 ラインハルトがしれっととんでもないことを言った。


「え、ええ……? あの、ちなみに巨大ミミズの攻撃ってどんな……?」

「基本的にあの魔獣は、怪我を負った獲物に巻きつき、特殊な体液で溶かして消化するタイプだ。数が多くなるとかわすのも面倒だから、見つけたらとっとと始末するか、気づかれないように逃げるかの対応をとる。が、今回は訓練のため、逃げることはせん。いいか、魔法を失敗すれば、ミミズに巻きつかれてじわじわと溶かされて死ぬことになるぞ。気合を入れてかかれ」

 ちょっ、なんですかそれ! そんな死に方いやだー!


 馬車を降りて結界まで歩いている間、恐怖に震えるわたしをルーファスが慰めてくれた。

「ユリ様、これをどうぞ」

 新しい花飴をもらい、甘味に癒される。

「ありがとう、ルーファスさん……」

「どうぞルーファスと。……ユリ様、魔法の件ですが、もし失敗されても、いざとなれば私がお守りしますゆえ、お気を楽になさってください」

 ラインハルトに聞こえないよう、ルーファスが小声でわたしに言った。


「ありがとうございます……」

 半泣きでお礼を言うわたしに、ルーファスがにっこり笑いかけてくれた。

「ユリ様のことは、エスター殿からきつく申し付けられておりますので、ご安心ください」

「エスターが……」

 ありがとうありがとう、エスター。お礼にエスターの家のトイレ掃除でも何でもします、とわたしは心の中でエスターに手を合わせた。


 結界を示す木の柵を三人で越える。ルーファスは「せっかくだから、結界を強化しておきましょう」と杖でトントンと木の柵を叩いていた。

 わたしはビクビクしながら周囲を見回した。とりあえず、蛇もミミズも見えない。……けど、安心はできない。前回だって、何の気配もなかったのに、いきなり蛇が襲いかかってきたんだから。


 結界を出てすぐ、ラインハルトがわたしに言った。

「万が一、魔力が暴走しても地形変化など起こさぬよう、とりあえず風魔法で練習しろ。『盾』の前に、まずは『龍』を見せてみろ」

「え、えっと、『龍』って『風の龍』ですか」

「そうだ。練習してみろ、ほら」


 こうしている間にも、巨大ミミズが近づいているかもしれない。

 巨大ミミズがうねうねと……。


 わたしは不吉な想像を振り払うように、大声で言った。

『風の龍!』

「ぉわっ!」

 思い切りラケットを振り下ろした先に、ラインハルトが立っていた。

 ヴォン、と空気が歪む勢いでラケットから風が噴き出し、ラインハルトを直撃する。


「……っ、この……っ!」

 『風の龍』の直撃を受けて、ラインハルトが数メートルほど吹っ飛んだ。ラインハルトはすぐに立ち上がったが、あちこち泥や雑草で汚れてしまっている。

「きさま、私を攻撃するとはどういうつもりだ! 嫌がらせか!?」

 そんなつもりは、と言いかけた時、ラインハルトの後ろに不吉な影がゆらりと現れた。


 ぬらぬらと気持ち悪く体表がぬめった、赤茶色の巨大な触手もどき。あれは……。

「ユリ様、殿下、巨大ミミズです!」

「やだ、気持ち悪っ!」

 はっとラインハルトが後ろを見るのと、わたしがラケットを振り下ろすのと同時だった。


『風の龍!』


 渾身の力で放った魔法は、ラインハルトと巨大ミミズを空高く舞い上げてしまった。

「あ……」

「大丈夫です、ユリ様」

 ルーファスが、呆然とする私の肩をポンと叩いて言った。

「殿下も風の魔法を使われますから、あの程度、どうということもありません」

「…………」

 そういう問題でもないと思うのだが、それでいいのだろうか。


「ユリ様の『龍』は素晴らしい威力ですなあ」

 空を見上げ、ルーファスが爽やかに笑って言った。

 これ、ありがとうございますって言っていいのだろうか……。


 その後、無事地面に着地したラインハルトに、わたしはこっぴどく叱られてしまった。

 うん……、これは怒られてもしかたない……。申し訳ありませんでした、ラインハルト様。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 会話のテンポがいいから読みやすい [一言] 頑張ってください
2022/01/28 20:26 退会済み
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