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04 スマキ


「お疲れさまです、ロイ村長」


「いつもご苦労様です」



 いつものように村を巡回して村民のみんなに挨拶。


 今日も平穏、何事も無し。


 最近平和すぎて怖いくらいだが、もちろんトラブルが無いことこそが何よりも嬉しい。



「ご主人さま、ちょっとっ」


 振り返ると、ネコミミメイドのアリシエラがにこにこ微笑んでいる。


「お待たせしました、ご注文の幌馬車ですよっ」


 アリシエラの後ろには確かに、二頭立ての幌馬車がある。



 近付いて、しげしげと眺める。


 お馬さんも幌馬車も、おかしなところは何も無い。


「今回はどんな特殊機能がてんこ盛りなんだ」


 天才魔導具技師のアリシエラが作るものに、おかしなところが何も無いはずは無い。



「ご主人さまのご注文通りに仕上げましたよっ」


「落ち着いた外観がご希望とのことでしたので、見た目は標準型の幌馬車そのままですっ」


「もちろん装甲材はシステマで採用された『絶金』複合素材ですので、防御力は折り紙付きですっ」


「幌の中はシブマ1号準拠の『収納』技術を活かした広々空間で、快適な居住性は実証済みですっ」


「今回は幌馬車自体に推進装置を搭載しておりませんので、移動速度はお馬さん次第なんですっ」


「この魔導馬は燃費重視の設計なので、最高速度は普通のお馬さんよりほんのちょっと早いくらいですねっ」



 いつものようにまくし立てるアリシエラだが、その内容がいつもとは違い過ぎる。


「危ない武器とかは」


「この子は非武装ですっ」


「『転送』したり『変形』したり『自爆』したり、は」


「ひどいですご主人さまっ、何度も言いますがご注文通りのちょっと便利な幌馬車ですって」



 少し、泣けてきた。


 あの屋敷で初めて出会った時以降、どれだけのとんでも魔導具に悩まされてきたことか。


 もちろん非常時に助けられた事も数多いが、それ以上の回数で平時のやらかしでひどい目にあってきた。


 そのアリシエラが、ようやく天才の能力を真っ当な方向へと向けてくれたのだ。



「ありがとう、アリシエラ」



「どういたしましてですっ、ご主人さま」


「このあいだモノカさんとお話しした時にビビッてきたんですよっ」


「『初心忘れるべからず』って」


「何事も、基本と原点が大事って事ですよねっ」



 さすがはモノカさん、娘アイネが心酔しているだけのことはある。


 その時、不意に頭の中に、以前聞いたモノカさんの言葉が蘇った。


『禍福は糾える縄の如し。 楽しいことの後は試練が待ち構えている』



 もしかして、この良いこと続きの平穏さはとんでもない災いの前触れ、なのだろうか。



「この子は『推進力非搭載式魔導客車』って言います」


「『スマキ』って呼んであげてくださいっ」


 アリシエラの、満面の笑みが、少し怖い。



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