お互いに告白しようとするが失敗する姉妹の話
―――コンコン
控えめなノックの音がした。
「お姉ちゃん、今いいかな?」
ドア越しに声が届く。部屋にいた少女が「いいよ」と答えると勢いよくドアが引かれた。入ってきたのは同じ年頃の女の子だった。
彼女は唇を横一文字に引き結び大またで近づいた。怒っているような表情に、あのことがばれたのかと慌てた。
「な、なななに、なに!? どうしたの?」
「お姉ちゃん、わたしと付き合って!」
一息に言うと先ほどまでとは打って変わってジッと少女の目を見つめる。
「あー、そっか。お出かけしたいのか。でも、今は無理そうだから後でね」
「ちがうよ! 好きなんだよ! わたしは! お姉ちゃんのことが!」
「うん、わたしも好きだよ」
「違うよ! LikeじゃなくてLoveの方だよ。アイラブお姉ちゃん!」
彼女の必死な主張で少女はようやく自分の勘違いに気がつく。
「そっかー、でもね、そういうのはもっと雰囲気が大事だと思うんだ」
「そうなの? 告白は勢いがあればオッケーだって教えてもらったよ。ラノベの主人公並に鈍感なお姉ちゃんには、一気に詰め寄って告白するしかないって」
「それは誰から言われたの?」
彼女が挙げた名前に少女はため息をつく。
「あいつか……。今度会ったら覚えておけって言っておいて」
「うん、わかった。告白は成功だって報告するよ! そうだ、お父さんとお母さんにも報告だね。わたしたち姉妹だから、一度で両親への挨拶がすんで楽でいいよね!」
「えっと、あのさ、ちょっと戻ってきて」
「え、うん。どうしたの?」
「どうかしてるのはあんたの方だから。そんな告白じゃ、いくら好きでも相手は納得しないよ。というわけで、やりなおし」
「えー、でも……うん、わかった」
不満そうにしながら彼女はドアを引いて外にでる。ドアがしまってから数秒後、さっき以上に勢いよく引かれた。
「お姉ちゃんのことが好きです! お願いします、付き合ってください! なんでもしますから!」
大声で一気にまくし立てていると、背後から巨大な影が近づいた。
「うるさい! またこの病室ですか! いいですか、他の方にも迷惑なるので静かにして下さいと言ったはずですよね」
「すいません、すいません!」
自分の二倍は体積のありそうな看護師に詰め寄られて体を折り曲げて謝る。
「いいんだよ、いつも見てて楽しいから。孫が来たみたいでにぎやかだよ」
同じ病室の老婆が楽しげな笑みを浮かべる。看護師はそれ以上何も言えず、彼女に再度注意すると病室を退出した。
「すいません、うるさくしちゃって」
「お姉ちゃんのお見舞いに毎日来てえらいね。ほら、リンゴむいてあげるよ」
「ほんとに? ありがとう、おばあちゃん」
姉妹でなかよくリンゴをほおばる姿に老婆は目を細める。
それから、学校のことや家のことで雑談をはずませて彼女は帰っていった。
静寂の戻った病室には先ほどまでの余韻がただよっていた。
「ねえ、おばあちゃん、ちょっと教えて欲しいことがあるんだ」
「なんだい?」
「大事なことを告白するときってどんなタイミングがいいかな?」
「そうだねぇ。いきなりは困るから、やっぱり相手の心の準備ができたときがいいんじゃないかねぇ」
「そっか、うん……、ありがとね」
老婆にお礼をいいながら、少女は妹のことを考えた。
まだ、両親は自分の病状のことを彼女に話していない。
少女から話すつもりだった。
半年間続く入院生活。はげまそうとなるべく明るく振舞う妹。そんな彼女を心配させないように体の痛みは顔に出さないようにしていた。
―――あのさ、話があるんだ
―――なあに? お姉ちゃんの話なら何でも聞くよ
何度そのやり取りをしただろうか。
いまだに、告白できずにいた。