1
テレビのニュースキャスターが声を荒らげた瞬間に、僕は目を覚ました。現職の総理の一言一句を嬉々として批判する彼の表情が映る度、僕の二日酔いが悪化してゆくのを感じた。「9:42」画面の右隅に目を遣る。テレビをつけたまま、いつの間にか眠ってしまっていたらしかった。
気怠い身体を起こしてテーブルの煙草とライターに手を伸ばす。火を付けた瞬間、じめじめとした部屋の心臓からようやく血が巡り出したようだった。テーブルの空き缶は一、二、三…床に落ちたのも含めて五本か。どうやら飲みすぎたようだ。
季節は春になっていた。もう先月の誕生日で二十二になったが、二十歳も過ぎると歳を取る事が億劫になってきた。ポール・ジャネーはかつて、時間感覚で見ると、人間は二十歳頃で人生の折り返しだと言ったそうだ。だらだらと走り続けてもう折り返し地点。きっと世界には、誰も追いつけないスピードで颯爽と走り続ける二十二歳も居れば、路傍に美しい花を見つけて立ち止まり、幸せに酔いしれている二十二歳も居るだろう。そんな人たちの事を考えては、自分が同じ空気を吸って同じように生きていてもいいのかとさえ思える。そんな人たちの道を塞ぐ訳でもないし、路傍の花を踏み潰す訳でもないが、何となく、景色に対して僕の存在自体が野暮で、無粋で、無風流な気がしてならないのだ。
いや、やめた。
考えるのはやめよう。
なけなしのエネルギーを持ってシャワーさえ浴びれば、なんとか今日を生きていられるはずだ。
灰皿に煙草をじりじりと押し付けて、覚束無い足取りで風呂場に向かった。
着替えを済ませ、鞄に手を掛けた時、テレビの右隅には10:21と表示されていた。10:30からの二限には間に合いそうもない。あの教授は遅刻に厳しい方ではないが、遅れてこそこそと教室に入るのも気が引ける。そう考えてから諦めるまでに大した時間を要しなかった。財布と携帯だけを持って、昼飯を調達しにコンビニに行くことにした。