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異世界転移に気付かない迷子たち 5

パスカリアは随分と栄えた街に見えた。

人も多く、街は整備され美しいと言えるほどに。

馬車で大通りを行きながら、ヨルドが簡単な説明をしてくれた。


「さっき入ってきたのは西門だ。あとは北門と南門があって、東は港になっている。漁業を生業とするのも多いが、加工や小売業もかなり賑わっているよ。魚料理はどこも美味いから、お気に入りの店を見つけるのも楽しいぞ」

「それいいね、食べ歩きもたくさん出来そう~」

「うんうん!」

「はは、それもいいな。……で、海側には貴族街があって、王都からの観光なんかも多いぞ」


なるほど、貴族も来るようなら街が発展してもおかしくない。

避暑地としての場所でもあるのだろう、そのためにはそれなりの商品を用意する店が必要になる。当然その分、人も物も集まり大きくなっていく。パスカリアが王都に次ぐ商業都市になったのも当然だろう。


「今入ってきた辺りは商店が多いが、奥に行けば住宅街だ。北は商人や貴族が利用する店と住宅だな。別にそっちの店も普通の客が来て問題はない。悪さをしなきゃな。冒険者ギルドはその北の大通りにあるから、後で行ってみるといい」

「はーい」

「ちなみに私の家は北のほうにある」

「……お、自慢ですか?」

「少しくらいいいだろう?」


ヨルドが笑う。

随分と気心知れた仲になってきたと思ってもいいのか、冗談を言ってくれるとは。

だが、やはり商人としてはなかなかの地位にいる人らしい。

そんな人に出会えてラッキーだったな、とリズは思った。


「それにしても、随分と水路が多いですね」


シオンが辺りを見回す。

小さな水路が邪魔にならない程度に街を巡っているのを、門から入ってすぐに分かった。

街路樹や小さな花々が街を彩っていて、その周囲を囲むように水路が満ちている。


「ああ、海が近いからな。街の至る所に海水を浄化した水路が廻っているんだ。だからパスカリアは第二の<水>の国なんて言われているんだよ」

「へえ~!」

「面白いな」

「街の中央付近には噴水の広場もあって、よくデートの場所になったりもする憩いの場だ。中心に女神像が飾られているんだが、すごく綺麗なんだ」

「女神像ってことは、ウィールジュか」


ここは<光>の国だ。当然、祀られているのは光の女神だろう。

けれど、ヨルドの口からは別の言葉が飛び出したのだ。


「――いや、ヴェーザだよ」

「……はっ!?」

「え、なんで」

「なんで、水の女神!?」


ヴェーザは<水>の国の神の名だ。

それが何故、<光>の国の都市の中心に、<水>の女神像が立っているのか。四人は驚いた表情を見せた。

ヨルドはちょっと苦笑して答える。なぜならここが、海の近くだからだ、と。


「海の恵みは、言わば水の恵みだ。海水の浄化で水に富んだ街にもなってる。だからここは光より水の女神を崇める人が多いんだ。私を含め、ね。教会も光より水の方が多いな」

「そんなことあるんだ……」

「まあ、どの神を信仰しても自由だしね」

「街全部がそうだとは思わなかったけど」


水によって発展し、水によって生きている住民にとってみれば、ヴェーザを信仰するのも当たり前なのかもしれない。

その<水>の教会の前を、複雑な思いで通り過ぎた。

とても大きく立派な教会だった。信徒が多いのが一目で分かるくらいに。


「俺ら、光信仰だからなあ」

「そうだったのか……それはちょっと申し訳ない気もするが」


ヨルドによると、光の教会はこの街には数か所しかないのだという。


「南の高台と、東は港の近く。西は住宅街の奥にある」

「すくなっ」


未実装だったために、<光>の教会がないという経験は今までしてきたが、まさかこの国の街で教会が少ないとは。さすがに少しだけ残念に思う。

<大地>や<火>など、今までの国は当然その国の神が信仰されていただけに。


「でも、教会にはあとで行ってみようよ」

「……そうだな、【恩恵(ギフト)】を受けられるかもしれないし」

「もしかしなくても、私たち初のお祈り?」

「うわ、楽しみ」


少ないのはもう仕方ないとして、とりあえず自分たちの教会がついにある。

今まで恩恵(ギフト)がなかった分レベル上げなど大変だったが、ついに自分たちも授かれるのだと思うとテンションが上がらないわけない。


四人はウキウキした気分でどんな恩恵(ギフト)を授かれるか予想しながら馬車に揺られた。

ひとまず今は、商業ギルドに向かわなければ。


***


商業ギルドは商人が取り仕切るギルドだ。

冒険者ギルドと同じように、個人や国、貴族からの依頼をまとめて管理し依頼を行う。銀行の役割も担っているので、大体は商業ギルドは大きめの街にあったりする。

ヨルドが報告をしてくる間、別室に案内された四人は手持無沙汰で待っていた。

生産系職業のプレイヤーならいざ知らず、<冒険者>である四人にはほぼ用がない場所であった。


「商業ギルドって護衛イベントとかでちょっと顔出すくらいしか来たことないなあ」

「そういや俺もだ。店開いたりするプレイヤーは使うんだよな?」

「そうそう、ここで許可もらわないと駄目だった気がする。店の場所の確保と資金用意して……あ、場所の確保するのに地元のチンピラ討伐クエストとかあったはず」

「それやった。知り合いのプレイヤーは完全引きこもり設定の商人だったから、代わりにボコボコに討伐したよ」

「……聖職者(プリースト)、自重して」


拳をぶんぶん振り回すシオンに若干引きながら、ワイワイと商業ギルドに関するクエストの話していると、さきほど部屋に案内してくれた秘書らしき女性が部屋に戻ってきた。


「皆さんお待たせしました、ギルド長とお会いになってください」

「あ、はい!」


ディルガルドが綺麗なお姉さんの笑顔にちょっと顔を赤くする。

すかさずリズがその横腹を見えない速さでぶん殴った。


「ぐおっ……おい、リズッ!?」

「……」

「っ、悪かったよ……!」


黒いオーラを背負いながら、ぷんすかと怒った表情を見せるリズ。

そんな怒った顔も可愛いな~と、シオンとシルレリアは二人して頭を撫でた。

放っておかれたディルガルドはリズの奇行にちょっとムカつきつつ、痛む横腹を押さえながら立ち上がった。


「ええと、それじゃあギルド長のとこに……」

「……あ、ええ。それでは案内しますね」


一瞬で行われたやり取りにびっくりしつつ、秘書の女性は気を取り直して歩き出した。



<セブンディアにおける信仰(宗教)ついて>

基本的に信仰する神はそれぞれ個人の自由ですが、その国にはその国の神の教会しかないことになっています。他国の教会がその国にあることはありません。それが主人公たちがプレイしている<セブンディア>の常識でしたが、未実装エリアではその常識はありません。

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