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異世界転移に気付かない迷子たち 4

その日の夜は、随分と夜更かしをしてしまった。

本当ならウィールジュのことについて聞きたかったのだが、ヨルドの目の輝きがしばらく収まりそうになかったので、四人は苦笑しつつ<大地>について彼に聞かれるまま答えるかしかなかったのだ。


朝は軽く昨夜の残りを食べて出発する。

ヨルドの馬車に乗せてもらい、その道すがらやっとウィールジュについても聞くことができた。


<光>の国ウィールジュは海に面した国で、これから向かうパスカリアは国の西に位置する商業都市だそうだ。

北東には王都、そのままさらに東にいけば<水>の国ヴェーザがあり、南東は昨日教えてもらった砂漠が広がる地帯だという。


またしても実装されていないはずの国名が飛び出てきて、頭が痛くなりそうだ。

ディルガルドはそろそろ自分の手に負えなくなってきたなと、馬車に揺られながら思った。

まあ死ぬわけじゃないし、このまま迷子という状況を楽しむのも悪くない。

ゲームを始めた頃はまさにこうやって新たな場所を発見していったのだから、むしろ新鮮な気持ちだった。


「それにしても、これは一体どういうことだろうなあ」


ディルガルドがステータス画面を開いてマップを表示する。

昨日確認した時は<大地>だったはずの地形が、今は<光>の地図になっていた。

そして自分たちが位置する赤いマーカーも、ヨルドや他のNPCを表す白のマーカーもいつのまにか現れていて、見知らぬ土地でありながらも、普段と同じような表示に変化していたのだ。


「地図の確認によってマップが更新された、か」

「いよいよここが未知の場所だという実感が湧きましたけど」

「迷子には変わらない我らであった……」


馬車に揺られてシルレリアがしみじみと呟いた。

いや、本来ならのんびりしている状況ではないのだが、如何せんそうするより他はなかった。


「ログアウトも出来なくなってるんだもんなあ……」


システム画面にあるはずの「ログアウト」項目が消えている。

朝、早起きのシオンがいち早く気付いた事実だ。

のそのそ起きてきた三人にそのことを告げると、そんな馬鹿な~あはは、などとわざとらしく笑いながら確認して、それが本当であると知りフリーズしていた。これも何かのエラーであるかもしれないが、当面これが修正されない限り、四人はずっとゲームを続けなければならない。強制終了もできるにはできるが、別に今すぐやらなければならない程でもなかった。


――まあ、すぐ誰かが気付いて報告するだろう。


大体そういう報告をするのは他の熱心なプレイヤー達だ。

<チーム・青二才>はそういったエラーやバグも黙って受け入れてスルーしてきた。誰かがやってくれるものだとパーティ全員が思っていた。だってめんどくさい。本音である。


「当面はウィールジュ探検だな」

「もっと広めの地図をゲットして、マップ更新しよう」

「ギルドにも行って情報集めかな」

「新しい街だし、どんなイベントあるかなー?」

「サブイベント好きだよね、シオン」

「大好き。というか、イベント全部つぶしていかないと気が済まない」

「それ分かる、残ってたらなんかヤだよね」


シオンとシルレリアがうんうんと頷いて分かり合う。

こういう感覚も一致しているからこそ、パーティが長続きしていくのだと思う。

<セブンディア>を長くプレイしていると、他のパーティの解散話をよく耳にする。内部で仲違いがあったとか、恋愛関係がもつれたとか、よそのチームに引き抜かれたとか色々だ。単純にゲーム引退したというのもあるけれど。


ともかく、外から見れば男一人、女三人のパーティなんてまさに危なさそうな<チーム・青二才>だが、案外うまくやっているのだ。ちゃんとした理由ももちろんあるのだが。


「おーい、そろそろパスカリアに着くぞ!」


ヨルドが叫ぶ。

馬車から身を乗り出して道の先を見ると、大きな城壁が見えてきた。

いつの間にか他の馬車も周りに見える。数台が同じようにあの街に向かっているようだった。


「あれが、パスカリアだ」

「おっきい!」

「他の町への航路もあるし、漁業だって盛んだからな。大きいのは当たり前さ」

「海の匂い……!!」


確かに、風に乗って潮の匂いもしてきた。聞けばこの街の反対側が海だそうだ。

今まで実装されていた<大地>などの国は全部陸続きで、海も見えるには見えるが立ち入りは出来ずエリア外でしかなかった。初めての海エリアということで四人が興奮するのも無理はない。


「魚料理とかたくさんありそう」

「もちろん美味いぞ。食わせてやるさ」

「やった、楽しみ!」


嬉しそうな四人に、少し誇らしげな表情を見せるヨルド。

自分の住んでいる街が好きなのだろう。


「さて、まずは商業ギルドに向かおう。今回の仕事の報告と、君らの身元の保証もしないと」

「ヨルドさん、身元保証なんて簡単にできる?」

「俺ら完全に国外からきた怪しい冒険者だぜ……」

「逮捕されない?」

「ははは、もともと冒険者は素性なんかあってないような連中じゃないか……と、失礼」


四人の冒険者の前でそんな事を口走ってしまい、ヨルドは慌てて謝罪する。

しかし全くの正論だったので誰も否定しなかった。

とはいえ、国外の、しかも海を越えた国で発行したギルド証では怪しさ満点である。


「結局は冒険者ギルドでギルド証を発行してもらうことになるだろうが、まずは商業ギルドに顔を出してもらって、先にギルド長に報告だな」

「わかりました、じゃあそれでお願いします」

「今日は街を見て回れないかもしれないが、少し我慢してくれ」

「いえ、こんなに協力してもらっているので、ありがたいです」


馬車はパスカリアの門前までやってきた。

大きな門に繋がる橋の下は、城壁の周りをぐるりと溝が掘られている。流れているのはおそらく海水だろう。高い城壁に堀、大きな都市だからか防衛もしっかりしているようだ。

門番が立ち入る旅人や冒険者、馬車をしっかりと確認しているのが見える。


「どうも、お疲れ様です」


自分たちの番になり、ヨルドが馬車から帽子を脱いで挨拶する。

門番とは顔見知りのようだ。


「ヨルドさん、ご無事でしたか。昨日帰られなかったので心配していました」

「少し遅くなってしまって。夜はこちらの冒険者さんに護衛してもらったので無事でしたよ」

「そうでしたか」


門番の顔がこちらを向く。

身分証がないので少し居心地が悪くなるが、ヨルドが顔見知りとあって門番は特に怪しんだりはしなかったのが幸いだ。身分証を紛失したのでこの街でギルド証を発行する、なんて前もって考えておいた言い訳を使うことなく、パスカリアの街に入ることができた。


「ヨルドさんって顔広かったりする?」

「もしかしてめちゃくちゃ偉い人だったり……」

「そうじゃないよ! 生まれも育ちもこの街で、長く店もやってるから少し知られているだけだ」

「長くやってるって、それだけでスゴイことだと思うけど!」

「ヨルドさん凄い!」

「……よしてくれ」


顔を赤くして照れてしまったヨルドに四人はいい人だなあ、と改めて思った。


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