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異世界転移に気付かない迷子たち 1

トンネルを抜けると、そこは雪国でした――。

なんて言葉を、実際に口にしてしまうのは初めてだった。


「……なあ、ここって雪原エリアだっけ?」

「溶岩エリア、のはず」

「だよなあ」


黒く重々しい鎧を身にまとった男の姿は威圧感を覚えさせるが、彼の大きな目とハキハキした物言いやころころと変わる表情で、印象が全く違うものに変わる。

<チーム・青二才>の逆の意味で紅一点、好青年を思わすディルガルドはその赤い髪をガシガシと掻きむしった。


何かがおかしかった。

ボスを倒した後、部屋を出ればそのダンジョンの入り口に転送されるのが常だ。ここは暗く荒れた岩肌と溶岩が流れるダークエリアのはずなのに、転送された先、目の前には見た事もない光景が広がっている。

ごつごつした岩は同じようにあるが、それは真っ白な雪で覆われ、吹雪まで吹く雪山であった。


「アップデートで転移先が変わったのかな?」

「そんなこと書いてなかった気がする……」

「というか、『セブンディア』にこんな場所あったっけ?」

「雪原エリアはあったけど、こんなに山の中じゃなかったよなあ」


今回のアップデートは運営も「楽しみにしていてくれ」と予告するほど大規模な内容だった。ある程度は事前に告知されていたが、細かいもの全てではなかったのだろう。だからその内のひとつじゃないかということで、一旦は落ち着く。

問題はこの場所がどこか、ということだ。


「ねえ、私たちの位置、マップに表示されてないよ」


ステータス画面を指差して、<暗殺者(アサシン)>であるリズは辺りを見回す。

周辺を探索(サーチ)してモンスターがいないことは確認したが、まさかマップが機能していないとは思っていなかった。仲間にそれを伝えると、残りの三人もすぐ自身のマップを見て驚いた。


「……わっ、ホントだ!」

「丸がない、どこにも表示ないじゃん」

「シンプルにエラーか?」


マップには自分達がいる場所に赤い丸が表示されるはずだが、それがどこにもない。

四人とも表示されていないのでは、ここがどこか判断するのは無理だろう。システムエラーと考えるしかなかったが、古参プレイヤーである四人全員が見覚えのない場所があるのだろうか。

不思議に思いながらも、原因はやっぱり大型アップデートだろうと勝手に結論付けて、じゃあさっさと街に戻ろうということになった。

<魔術師(ウィザード)>のシルレリアが杖を掲げて移動呪文を唱える。

長く艶やかな黒髪が揺れ、スリットの入った際どい黒紫のローブの裾がはためいた。


転移(ゲート)!」


魔法陣が足元に現れて光が四人を包み込み、そして――何も起こらなかった。


「……は!?」


光が消え、周りは先ほどと変わらず吹雪の中。

呆然としたシルレリアが慌てて呪文を唱え直すが、反応はなかった。魔力が切れているわけでもない、魔法が使えないエリアでもない。けれど移動呪文だけが実行出来ない。こんなことは今まであり得なかった。

試しにリズと<聖職者(プリースト)>のシオンも転移を唱えるが、同じようにMPが消費されるだけだった。


「なんで!?」

「魔法が駄目ってことなら、アイテム使ってみようぜ」


転移魔法が使えない<剣闘士>のディルガルドが、転移石を取り出す。

が、石は割れただけで転移はできなかった。


「……よし、詰んだな!」

「なんでえぇー!?」


シルレリアの嘆きが、雪山にこだました。


「……ともかく、ここから離れよっか?」

「そうだな、寒いし」


雪山装備のコートをアイテムボックスから取り出したシオンに同意しつつ、ディルガルドが先を歩く。アイテムも魔法も使えないなら地道に歩くしかない。


「なんでえ……」

「シル、元気だそ?」

「うう……リズは優しいね、可愛い、可愛い」


メンバーで一番小さな体の持ち主であるリズを、ぎゅうぎゅうと抱きしめるシルレリア。

銀髪碧眼のちみっ子であるリズは、シルレリアのお気に入りだ。


「こんなかで一番歳くってるくせに――イデッ!?」

「ディル、殺されたいようだな……?」

「あーッ! ごめんなさいごめんなさい!!」


言わなければいいのに、余計な一言を漏らしたディルガルドにリズの目が鋭く光る。

襲い来るリズの短剣を避けながら平謝りする男の姿は、チームリーダーの欠片もない。

だがこの光景もいつものこと。シルレリアとシオンも、彼が怒られるのを笑って眺めるのだった。



***



『セブンディア』は、そのタイトルにもなっている7人の神が作った、その神の名を持つ7つの国が舞台となっている世界だ。(運営曰く、某映画化された作品が大好きでリスペクトしている、との事……)

――さて、四人がいたのは始まりの地、大地の神が作った<シュリンテン>。

ゲーム開始時は必ずこの国から始まり、プレイヤーはここをメイン拠点にしてレベル上げを始める。

<シュリンテン>の他に実装されている国は、美の女神<ビーシャン>、闇の神<コクテン>、火の神<ジューロウ>の三国で、他の三つの神と国は名前は公開されているが実装はされていない。


なお、それぞれの神を信仰すれば【恩恵(ギフト)】が与えられる。

恩恵(ギフト)】はそれぞれ違うが、大体はスキルやステータスアップなど補助的なものが多い。けれど信仰神の国で戦うと経験値やドロップアイテムの率が通常より高くなる。

キャラメイクの時に信仰する神を選択するのだが、実装されていない神を選ぶと全く【恩恵(ギフト)】が得られないというのが後日判明してちょっとだけ炎上した。なので運営は信仰神を変更できる日を一度だけ設定し、それ以外は絶対に変更できません、と強気の対応。そして、他の国の実装はあるのかという問い合わせに運営は、今のところないです、とはっきり答えてまたちょっと炎上した。

大抵のプレイヤーは実装されている神に変更をしたが、そのまま変更しない変わり者のプレイヤーも少なからずいた。


そんな変わり者が集まる、<チーム・青二才>が信仰するのは、光の女神<ウィールジュ>。


恩恵(ギフト)】がなくともゲームは楽しめる。

そんな四人がパーティを組み、地道にレベルを上げてベテランプレイヤーになるのは難しくなかった。

古参プレイヤーとも変人チームとも呼ばれ、ゲーム内でも多少有名な存在だった。

(チーム名がユニーク過ぎて有名になったと言っても過言ではないだろうが。)


見知らぬ土地を歩き始めた、そんな四人。

その姿を、空高くから見下ろすのは――――。



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