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衝撃の事実にちょっぴり泣きそうになる。


 兄が大騒ぎしたにも関わらず流れるように決まった婚約に7歳のアンジェは途方に暮れた。

 あの何を考えているか分からない王太子が未来の夫になるなんて夢にも思ってなかったのが現実なのに両親の根回しが鮮やか過ぎて、その報告を聞いた瞬間アンジェは泣き出してしまった。

 勿論、両親は喜んで泣いていると勘違いしている。

 王族の血縁者として、貴族として、恋愛結婚など夢の話だと幼い頃から理解はしていた。

 けれど、まさか自分が一番の苦手意識を持っているレティクスと結婚なんて夢にも思っていなかったのだ。



 「そんなに嬉しかったのかい?国王も喜んでいたよ、将来立派な王妃になれる様にたくさん勉強しないとな?」


 …ああ、お父様…娘バカも大概にしろよ…と今なら思うけれど、無垢な7歳児がそんな事を思うわけもなくて、金糸を優しく撫でられながら頷くしかない。

 勉強も習い事も嫌いではないし、その逆で新しい知識を知る事が大好きだった。

 それが今度からは王族の中で生きていく為の勉強になるなんてただただ悲しい。


 婚約を聞かされたその日、アンジェはベッドの中で1日中泣いて泣いて、泣きつかれて眠るまで泣いた。


 その日を境にアンジェは我儘を言う事をやめた。







 と言うのが私の中のアンジェの悪夢の婚約決定の記憶だ。

 鮮明な記憶によっぽど嫌だったんだなーとか他人ごとに考えていたけれど、よくよく考えなくても私の事だ。

 これからの事を思うと乾いた笑いしか出てこないんだけどね。


 はは、と疲れた笑いを零すとそれに気づいた敏腕専属メイドがお父様達にこそっと耳打ちする。


「公爵様、お嬢様は病み上がりで余り体力が回復しておりません。出過ぎた真似をして申し訳ありませんがお嬢様の為にも…」


 視線を一度私に流し、直ぐにゴーンに戻すメイドの姿にチャンスとばかりに潤んだ瞳で家族を見上げた。


 「お父様、お母様、お兄様…、心配かけてごめんなさい。アンジェは少し眠くなりました」

 

 でかした!!と手の甲で両目を緩く擦って眠気をアピールしてみる。

 勿論演技と分かっていない家族達は小さく慌てて、母親が名残惜し気にまだ幼く柔い頬に掌を滑らせた。


「ああ、アンジェ。ごめんなさいね、アンジェは病み上がりなのに。でも熱が下がって良かったわ…、早く一緒に食事が出来る様にゆっくりお休みなさい」


 まだ10代の美少女かと思わせる母親の心配そうな表情に少し罪悪感は沸くけど私も今の状況を把握したい。目が覚めた瞬間に訳も分からず転生してました、なんて小説か!!とのツッコミを本当に我慢してるのだから。


 「アンジェ、兄様はあと2日は屋敷に滞在できるからな?また様子を見に来てもいいかい?」

 

 両手を優しく包み込む自分よりも二回りも大きな掌に視線を落とす。

 思いの外ゴツゴツしている。掌や指先に硬い、マメみたいのが出来ているのに気が付いた。

 きっと剣の練習で出来たマメなのだろう。まって、ペンだこもある。

 剣の練習に、勉強に、父の仕事の手伝いにと何でも器用にこなす兄だが人並みならぬ努力をしているんだということは理解していた。

 そしてイケメン。この顔だったら1日中見てられるのになァ。何でこんなにシスコン拗らせてるのだろう。さぞかしモテるだろうに。

 

 「本当?嬉しい!」


 まぁ、兄妹仲が良いことに越したことはないだろうし、いざというときに絶対役に立つと思うので天使の笑顔を咲かせてみる。

 途端に端正な顔がだらしなく歪む姿に本当に残念だなと心の中で盛大な溜息を吐いた。





最後まで心配そうにアンジェを見る兄を半ば無理矢理押し返すメイドの後ろ姿に声援を送りつつ家族に小さく手を振って見送ると、布団から這い出て勉強机の椅子の上に飛び乗る。

 こんな時にマナーもへったくれもないでしょ?

 紙と羽ペンを取り出し、今記憶している事を急いでメモをしつつ整理をしなきゃ!!



 《アンジェリカ・ミュウ・グリウス》


 これが今の私の名前。

 グリウス公爵家の長女。


 金の髪を腰まで伸ばしていてくるん、と一回りすればまるで漫画の様に綺麗に靡く程のきめ細やかさに、父親譲りの金に近い琥珀色の釣り目。

 綺麗な顔をしてるけど見方によっては勝気で性格の悪そうな女の子だろう。

 着ているドレスは愛らしいフリルが沢山付いた物で、どちらかと言えば似合っていない。私としてももっとシンプルな方が好みなのだけど。


 アンジェの住んでいる場所は父親であるゴーンが統治する領の一等地に建っているだだっ広い土地にだだっ広いお屋敷だ。

 ゴーンは前国王の三男であり、現国王の弟で公爵として国王を補佐する役割と領地の統括と諸々忙しい毎日を送っている。兄も領地の統括の手伝いとして毎日視察や執務に追われているらしい。母親はお屋敷を取り仕切っている。

 何だかんだ言って真面目な父と兄は良い領主として領民からは人気も高いのだ。しかもイケメン。


 住んでいる国はトゥルク王国。大陸の東に広がる大国で数ある国の中でも歴史的にも古く、また軍事力、貿易なども抜きに出るものがないみたいだ。

 

 こうしてみると元の世界のアメリカみたいな物かなーと勝手に納得していたのだけど、元の世界と違うのはこの世界には魔法や精霊、獣人、魔物などファンタジー世界に溢れてるものが現実に存在するのだ。うわぁ、漫画か!!ってなるよね。


 と、ここまで箇条書きで情報を書き記していたんだけど、やっぱり自分の名前も国の名前も、尚且つこの世界観もどこかで記憶にある。

 前世の記憶をぞうきんを絞るように捻り出そうと頭を抱える。腕を組んでみたり、髪をかき乱して見たり、背伸びしてみたりと色々模索するも何も思い出せない。

 

 うーん、私の気のせいだったのかな?


 もう良い感じの夜だし、もう一回寝ようかと椅子から立ち上がった時、不意に視界に捉えた壁に飾られた絵に目を奪われる。


 ……思い出した…。


 壁に飾られた豪華な銀があしらわれた額縁に負けずと描かれた絵には、アンジェの肖像画が飾られていた。

 否、今のアンジェではなく、遊び心で大人になった自分を画家に描かせたのだ。私の大人になった姿を描いて欲しいと。そして気に入ったので部屋に飾ってもらった。


 その姿が、

 その顔が、


 前世で、病気が発症する前の奏音がハマり熱中してプレイしていた乙女ゲームの登場人物そのままで。 

 名前も憶えがあるはずだ。


 だって私は、






 乙女ゲームの中で主人公を罠に嵌め、いじめ、挙句に抹消しようと躍起になっていた





 悪役令嬢だったのだから。





 

 

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