プロローグ
最後に記憶に残ってるのは母親と父親の泣いている顔。
息苦しい。体に繋がれた機械音がけたたましく鳴っている。
慌てて医師を呼びに行く看護師を視界の端で見送りながら、段々と力が抜けて自分の意志では持ち上がらない手を包み込んで嗚咽をあげて泣いている両親を安心させたくて、酸素マスク越しに弱々しく笑って見せる。
「おか、さ…、おと、さ…ありが、と…」
掠れて上手く伝えられない。
きっと最後の別れになるのに。
そう、私は死ぬのだ。
骨肉腫という悪性の癌で私は死ぬ。
見つかった時にはもう至る所に転移していて余命も伝えられていたのに。
死ぬのが怖い。
死にたくない。
もっと生きて両親と笑っていたかった。
ごめんね、お母さん。
喧嘩した時に素直になれなくて。私が悪いのは分かってたんだ。
お母さんの作ったご飯、大好き。お母さんのお節介が大好き。お母さんの笑顔が大好き。
お母さん大好き。
ごめんね、お父さん。
せっかくお父さんが出掛けようって誘ってくれたのに断って。思春期の女の子なんだもん。
お父さんの優しさが、好き。お父さんの靴下が臭いのはちょっと嫌い。お父さんの照れた顔が大好き。
お父さん大好き。
私はこの両親の元に生まれて幸せだった。
16年間、大切に育ててもらったのだ。
抗がん剤で苦しい時も、手術が怖いと咽び泣いた時も、死にたくないと暴れた時も。
どんな時でも見捨てないで居てくれたこの両親に、私は感謝している。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
意識が薄れる中で何度も声にならない声で愛を告げる。
そうして、私、砂月奏音の16年間の人生は幕を閉じた。
筈だった。