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夜会開始前 3

 しばらく馬車に揺られていると、王宮に到着した。


 いよいよ私たちは、『夜会』の会場に足を運ぶことになる。


 私が気合を入れ直して馬車から降りようとした時、先に降りていたサイラスが私に手を差し伸べて、こう言った。


「お手をどうぞ、カティアお嬢様」


 恭しい態度で、彼は私を見上げてくる。


 その目は、しっかりと私を見ていた。


 その言葉を聞いて、私は感激のあまり涙を流しそうになる。


 ――ああ、そういえば初めてだ。彼が私をカティアと呼んでくれたのは。


 いつも彼は私のことをレイン坊ちゃんと呼んだ。

 彼は、私のことを弟だと思っているのだから、そう呼ぶのは当然である。

 しかし、やはり私としては「アイアムカティア!!」という強い認識があった。


 そのため、いつも「レインじゃなくてカティアだよ!」と心の中で突っ込んでいたのだが……ついに、彼は私のことをカティアと呼んでくれた。


 感無量である。


 あの鬼畜従者サイラス氏が、私を儚げでたおやかな淑女として扱ってくれる。


 ああ、なんて素晴らしいのだろう。


 自分の記憶を掘り起こしてみると、サイラスにボコボコにされた記憶しかなかった。


 正直言って、あまりの容赦の無さから「もしかしてサイラスって、私のこと藁人形か何かだと勘違いしてる……? 私のことちゃんと人間として認識出来てるのかなあ……」と疑問を抱いたことは、一度や二度ではない。


 そんな彼が私を一人の令嬢として扱ってくれたのである。


 感動しない方がおかしい。

 今日私は、ようやくサイラスに人間として認識されたのだから。


 私にとって重要な第一歩だった。

 快挙と言っていいだろう。


 満足げに頷いて、私はサイラスの手を取る。


 握り返してきた彼の手は予想に反して、とても柔らかなものだった。



 ♢♢♢



 会場に向かう途中、私たちは何人かの騎士とすれ違った。


 歩きながら警備体制をチェックすると、どうやら父に教えてもらった通りのものとなっていた。


 これなら、容易に賊が会場に侵入することは出来ないだろう。


 父は念入りに騎士団と打ち合わせを行っていたので、警備に関して漏れはないはずだが、一応周囲に対して目を光らせておいて損はないと思う。


 それに、作戦を行う際にも現状の把握は必要になってくる。


 話で聞いただけでは、詳細までは分からないため、やはり自分の目で見て確かめることが一番だと感じた。


 そんなことを考えながら、私たちは廊下を歩く。


 会場に近づくにつれて、徐々に人とすれ違う頻度が高くなっていく。


 年齢は大体十五、六歳程度の少年少女だ。


 私たちを見て、毎回のように足を止める。


 私たちの顔に何かついているだろうか?


 最初はそう思っていたのだが、途中でふと気付く。


 ――ああ、なるほど。もしかして珍しいのか。


 私たちは基本、人が多く集まる公の場に姿を現すことはない。

 学園は例外だが、とにかくメアリクス家の人間がこのような場に姿を見せるのは、非常に稀だとおそらくそう考えているのだろう。


 そのため、彼らは私たちに対して物珍しげな視線を向けてきたのだと思う。


 本来ならば、父含めて積極的にこういった催事に参加すべきなのだろうなあ。


 でも、公の場で王族である二人に対していつもの私が行うような、あんな失礼な態度を取れば、正直言ってその場にいる者たちに示しがつかなくなってしまう。


 その他だと、私が仮に他国の王族に対してヘリアン王子と同じ接し方をすれば、最悪戦争になるかもしれないとも思う。


 いずれにせよ、内輪で留められない場では私たちは自重するしかない。


 今回の『夜会』も、本当なら私たちは欠席するはずであった。

 だが、こうして自らの意思で会場に足を運んでいる。


 そして、この『夜会』は、この場にいる若者にとって一生に一度の大イベントだ。


 そのため今回私たちは出来る限り他者に迷惑をかけないようにしながら、悪役として振る舞おうと決めたのだった。

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