お告げ
父が何かお告げのようなものを感じ取り、私と弟は困惑する。
――えっ、お父様、突然そんなよく分からない力を発揮して、何かとにかく大丈夫なの……? 頭とか。
そう思っている私たちを尻目に、父は残念そうに首を振った。
「二人とも、悪いがまだ具体的には言えない。今は言葉に表せない段階なんだ。確固たる根拠はない。だが、間違いない。今回も王族が危険な目に遭うだろう」
そう確信した様子で父は、私たちに告げたのだった。
事情を知らない第三者が、今の父の言葉を聞いたなら、この人は一体何を言っているんだと、首を傾げただろう。
だが、私たちは、今までのことを知っている。
私なんて二度も直接巻き込まれたのだから、父の言葉を聞き流すなど到底出来ようもなかった。
おそらく父の直感は、本物だ。
どういう理屈で父が、そう予感しているのか分からないが、毎回的中させてくるのでその精度は折り紙付きである。
故に、父の予感は今回も当たることになるのだろう。
心の中で、そう思ってしまう。
というか、これ、もはや未来予知では……?
父が凄すぎてちょっと怖くなってきた。
もしかして我が家の父は、神託を授かる力を持つ巫女か何かなのか。
過去の実績も十分だし、私以外にも他の人たちがそう疑ってもおかしくはないレベルだ。
……もしかして、メアリクス家の男子は代々こういった予言めいたことが出来る、とかあるのだろうか。
私がバッと弟の方を見ると、弟は私を見て凄い勢いで首を何度も横に振った。
どうやら出来ないらしい。
特別だったのは父だけのようだ。
「――お前たちも直に感じ取れるようになるだろう。特にレイン。カティアよりお前の方が素質はあるはずだ」
違った。出来るようになるらしい。
再び私がバッと弟の方を見ると、弟も再び私を見て「いや、出来るようになるわけないじゃん!!」と抗議の声を込めて凄い勢いで首を何度も横に振ったのだった。
♢♢♢
私たちと話してからすぐに父は、王宮に向かった。
とにかく何でもいいから様々な情報を集めたいらしい。
自分の中で覚えた予感をしっかりとした形にするためには、とにかく情報が必要だ。
そう父は言って、馬車に乗った。
父が屋敷を出発した後、私たちはレッスンを行う。
今は学園の登校日ではなく、そして日中であるため私たちは従者主導の下レッスンをこなし、悪役としてより相応しい実力を養わなければならない。
私の従者のサイラスは、常に容赦なくレッスンを行う。
手心など一切加えてはくれない。
私がレッスンに慣れたと感じたら、すぐに以前より厳しくしていくのだ。
弟の方もそうらしい。従者のマリーは、鬼だとよく嘆いていた。
それを言うなら、サイラスも鬼だ。
最初の時なんて、私が疲れで全く立てなくなるまでレッスンを続けたのだから。
私たちは、真面目にレッスンを行う。
いつ父は帰ってくるのだろうか、頭の隅で考えながら。
♢♢♢
夕方になると馬車が帰ってきた。
そして父が帰宅するなり、出迎えた私たちに言った。
「カティア、レイン。よく聞きなさい。『夜会』では、誰もが度肝を抜くようなことをしでかすんだ。なるべく常識から外れたことを行うのが望ましい。ただし他人に迷惑のかからない範囲で頼む。いいね?」
そして私たちは、無茶苦茶な難問を押し付けてきたのだった。
え、ええ……。
いきなりそんなことを言われても……。
おそらく、様々な情報を集めた結果、そのような考えに至ったのだろう。
けれど、とにかく無茶苦茶だ。
父の思考が読めたなら、今何を考えているのか物凄く気になってしまうだろう、というほどに突拍子もない要求だった。
困惑する私たち。
そういえば、今日は父のことでずっと戸惑ってばかりだな、と思いながら思考を巡らせる。
どうしよう。どのようなアイデアならば、父の要求を満たせるだろうか。難しい。
考えていると、ふと思い付く。
――あ、そうだ。丁度いい、これだ。これなら、父の要求に十分応えられる。
私が確信すると、同時に弟も思い付いたらしくアイコンタクトで会話する。
瞬きを何度かぱちぱちとして、その回数と間隔で意味を作っていく。
――『コレナラ イケル』。
――『ウン サイキョウ』。
お互いに同じ方法を思いついたらしく、私たちは一緒に頷いた。
「思い付きました、父上」
「はい、これなら完璧です」
そして、口を揃えて父に告げる。
――自分たち双子の立場を逆にして入れ替えるというのは、どうでしょう?
と。




