邂逅 2
ヘリアン第一王子は、私の言葉に対して怪訝な顔を見せた。
「僕のやり方だと……? 突然何のことを言っているんだ?」
「まどろっこしい奴だ。はっきり言えばどうだ? ――お前のことが気に食わない。大人しく従えと」
「なっ!?」
ヘリアン王子は、驚愕の声を上げる。
しめた。そう反応してくれれば、後はこっちのものだ。それっぽいことを言って、相手を揺さぶっていこう。
私は、自分のペースに持っていくため矢継ぎ早に畳み掛ける。
「貴様は王族だ。命令一つで相手を殺すことだって出来る。貴様自身、それほどの力を持っていることを自覚しているのだろう? なら、一言命令すればいい」
「……そんなことはしない。あくまでも、君自身の意思によって今までの行いを悔い改めてもらいたいと思っている」
「そうか、それは殊勝な心掛けだな。なら、答えはノーだ。貴様に対して何も語ることはない」
私が意地の悪い笑みを浮かべれば、ヘリアン王子は悔しそうな表情を浮かべる。
「……何故だ。君たちに何のメリットがある。そんな振る舞いを続けていけば、君たちはいずれ孤立するぞ」
いや、もうしてるんですけど。
と、喉元まで出かかった言葉を何とか呑み込む。
「――そこらの塵芥共になど興味はない」
言ってて悲しくなってきた。ツライ……。
まさか、自分の言葉にダメージを負うとは思わなかった。
これに関しては完全に計算外だ。
何だか無性に泣きたくなってきた。
だが、泣くのは家に帰ってからでいい。
今は、目の前の問題を片付けなければいけない。
「平行線だな。さすがにこのままでは埒が明かん。互いに考えが譲れないのなら、言葉以外で雌雄を決するしかないと思うが、どうだ?」
「確かにそうかもしれないな……なら、君は一体何で白黒を付けるつもりなんだ?」
どうやら、ヘリアン王子は誘いに乗ってきたみたいだ。
私はしめしめと内心、ほくそ笑む。
そして、ヘリアン王子に対してこう提案するのだった。
「まどろっこしい真似は嫌いだ。放課後、決闘を行うことにする。――異論は無いな?」
♢♢♢
そして放課後、ヘリアン王子は私の提案を呑み、互いを相手として決闘することになった。
何故決闘にしたのかというと、私が考えた決着の付け方として一番早く終わりそうなものがこれだったからである。
もちろん、他にも決闘を選んだ理由はある。
一つは、私の実力である。
自慢では無いが、これでも私は首席合格者なのだ。並の実力の持ち主ならば、完封出来る自信がある。相手は次席合格者ではあるけれど、事前に調べていた結果私が勝った試験官と引き分けになった実力らしい。なら、今回は油断さえしなければ大丈夫だろう。
それに専属執事のサイラスは、私の体がアザや傷だらけになってもレッスンを止めなかった鬼教官である。
あの鬼畜執事サイラス氏に扱かれた身としては、そう簡単に負けるつもりはない。
私とヘリアン王子は学園内の敷地にある修練場に移動していた。
私たちは、お互いに剣を構えて向かい合う。
「実は、君とは一度剣を交わしてみたいと思っていた」
「そうか。なら存分に味わうといい」
私たちは、審判の教師が合図を出すまで軽口を叩き合いながら時を待つ。
ちなみに、修練場の予約や決闘の準備は全てサイラスが行ってくれた。本当に優秀な執事である。
それとルールは、互いの同意の上で私が設定した。
勝利条件は、相手の急所に一撃が入ったとみなされること。あくまでも、みなされるというだけで本当に一撃を入れるのは駄目である。
相手を剣で直接負傷させるのも無し。その場合、反則負け。
以上である。
「――約束は覚えているな?」
「ああ、僕が勝てば君は態度を改め、そして何故今までそのような態度を取っていたのか教えてくれるということだったな。そして、君が勝てば僕は君に対して、今後こういったことを言わないと誓おう」
「なら、いい」
そしてちらりと審判を見ると、ちょうど合図を出すところだった。
審判が持っていた旗が勢いよく振り下ろされる。
「行くぞ、レイン・メアリクス!」
同時に、ヘリアン王子が斬り込んでくる。
上段からの一撃。その斬撃は鋭く、速い。
けれど私はよく相手の動きを見るためその場を動かない。
そして、ヘリアン王子の振り下ろされた剣が眼前に迫る瞬間――
「ふん、その程度か」
わずかに身を捻ることで、一撃を回避する。
そして、そのままヘリアン王子に対して足払いをかけたのだった。
「なっ!?」
驚愕に目を見開くヘリアン王子。
彼は、勢いを殺し切れず地面に顔から倒れた。
私は余裕な態度で、その状態のヘリアン王子に対して剣を突きつける。
首筋付近に剣を添えると、審判は大声で判定を下したのだった。
「勝者レイン・メアリクス!」
それに対して、敗者となったヘリアン王子は何が起きたのか分からず困惑の表情を浮かべていた。
それもそうだろう。
何しろ生真面目な彼は、今行っている決闘を純粋な剣術だけを用いた決闘だと思っていたのだろうから。
私が提案したルールは、先程の通りであるが、本当にそれだけなのだ。
つまり、ルールに違反しなければ何をやっても良かったのである。
たとえば、剣だけではなく自分の足を使うとか――
言い忘れていたが実は、私が決闘を選んだ理由はもう一つあったのだ。
「俺の勝ちだ。なあ、次席合格者のヘリアン殿下?」
――相手に気付かれなければ初見時のみ、自分に対して圧倒的に有利な条件で戦えるからである。




